少年 川端 康成

新感覚派
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~美しい後輩との〈少年愛〉。川端文学の知られざる問題作~

こんにちは、くまりすです。今回はノーベル賞作家川端康成の作品で70年ぶりに復活した「少年」をご紹介いたします。

story

お前の指を、腕を、舌を、愛着した。僕はお前に恋していたー。相手は旧制中学の美しい後輩、清野少年。寄宿舎での特別な関係と青春の懊悩を、五十歳の川端は追想し書き進めていく。互いにゆるしあった胸や唇、震えるような時間、唐突に訪れた京都嵯峨の別れ。自分の心を「畸形」と思っていた著者がかけがえのない日々を綴り、人生の愛惜と寂寞が滲む。川端文学の原点に触れる知られざる名編。(「BOOK」データベースより)

川端康成の『自伝的小説』

「文学上の知友が続々と死んでしまった。」
同じ新感覚派で親友の横光利一や、大恩のある菊池寛など相次いで大切な人との別れがあった川端康成は、虚弱体質だった自身が彼らよりも長く生きたことに感慨を覚え、50歳になった節目に全集を出す機会に恵まれました。

全集を作成するために旧稿を整理した際、中学時代の日記や、詩、作文と共に24歳の夏に書いた「湯ヶ島での思い出」と題するものを見つけました。
あの有名な作品『伊豆の踊子』は、この「湯ヶ島での思い出」の前半をもとに書かれたとのこと。そして、その後半部分の「中学寄宿舎で同室にいた少年への愛の思い出」が、この『少年』の内容なのです。

そう聞くと、なんだか『伊豆の踊子』と並ぶ凄い作品なのではないかと思ってしまいますね。
この『少年』は物語ではなく、日記形式で書かれている回顧録のようなもの。そして、この小説に出てくる清野という後輩はモデルとなる実在する人物がいるそうです。

「まだ少女よりも少年に誘惑を覚えるところもあった」
これは川端康成青春の遍歴を描いた「自伝的私小説」なのです。

川端少年

川端少年の日記の内容は、主に読んだ本と中学の寄宿舎で起こった同性愛的な関係や感情がほとんど。

私はいとしくてならなかった。
清野がほんとうに好きになった。

など、自身の気持ちと共に手を握り合ったりしたことなど清野少年との思い出が書かれていました。
(他にも、上級生が誰それを狙っていたとか、もっと濃い内容が沢山ありましたが、ここではこの程度にとどめておきます。)

一見、純愛に見えますが、清野少年以外にも同室の少年や下級生の少年にも気があった様子。
下級生のNには、
しみじみこの少年に見入る。私自身をかきむしりたいほど、泣きたいほど、Nは美しく見える。
こんな美を眼前に見入りながら、それとなんの接触もなしに、やがてこの町とも別れる自分がさびしくてならない。
なんて、叙情的に語ってますが、つまり…

もうNにも近く思春期が来て、今の美は消える。
とあるように、川端少年美少年が好きだったようですね。
とはいえ、一番大切なのは清野少年でした。

そんな青春時代もやがて終わりを告げ、やがて川端少年と清野少年離れ離れになりますが…

感想

近所を散歩すると、ソメイヨシノが散って葉桜になり、それと入れ替わりに咲く八重桜が満開でちょうど見頃です。しかし、花見をする人の姿はなく、同じ桜なのにこうも人気に違いがあるのかとちょっと残念に思いました。
ソメイヨシノは、実は自然の桜ではなく、人の手で作った栽培品種なのだとか。花と同時に葉も開くヤマザクラなんかと比べると華やかで目を引きます。そして、その華やかさの中にも可憐さがあり、花が咲いている期間が比較的長い八重桜と比べても儚い印象を受け、まさに日本人の好みを凝縮させた桜というわけです。

日本には四季があり、季節のうつろい、変化するものや、滅びるものに哀愁を感じつつも受け入れる美学があります。

川端康成がノーベル文学賞を授賞した理由は、「日本人の心の精髄を優れた感受性で表現する、その物語の巧みさ」というものでした。「伊豆の踊子」や「雪国」など世界的にも有名な名作は、移り変わる自然を叙情豊かに表現し、日本人特有の美意識や死生観などまさに「日本の美」が感じられますね。

この「少年」も思春期の川端少年の恋心をそのまま言葉にした日記や手紙でありながらも、川端らしい叙情豊かな表現が生きていて、美しい文章でその世界が描かれています。
文豪が描く同性愛はとても繊細で、美しいで世界でした。

著者:川端康成(カワバタヤスナリ)
1899(明治32)年、大阪生れ。東京帝国大学国文学科卒業。一高時代の1918(大正7)年の秋に初めて伊豆へ旅行。以降約10年間にわたり、毎年伊豆湯ケ島に長期滞在する。菊池寛の了解を得て’21年、第六次「新思潮」を発刊。新感覚派作家として独自の文学を貫いた。’68(昭和43)年ノーベル文学賞受賞。’72年4月16日、逗子の仕事部屋で自死。著書に『伊豆の踊子』『雪国』『古都』『山の音』『眠れる美女』など多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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