黒牢城 米澤 穂信

米澤穂信
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~荒木摂津守様、摂津守様はいったい、何をかように恐れておられるのか。

こんにちは、くまりすです。今回は、直木賞、ミステリーなどの賞で6冠、さらに本屋大賞候補作今話題の歴史ミステリー米澤穂信黒牢城」をご紹介いたします。

story:

本能寺の変より四年前、天正六年の冬。織田信長に叛旗を翻して有岡城に立て籠った荒木村重は、城内で起きる難事件に翻弄される。動揺する人心を落ち着かせるため、村重は、土牢の囚人にして織田方の智将・黒田官兵衛に謎を解くよう求めた。事件の裏には何が潜むのか。戦と推理の果てに村重は、官兵衛は何を企む。デビュー20周年の集大成。『満願』『王とサーカス』の著者が辿り着いた、ミステリの精髄と歴史小説の王道。(出版社より)

歴史

荒木村重が籠城する有岡城内で人質、自念が死んだ。自決かと思われたその死体にはなんと矢傷があり、その部屋は密室状態だった。村重の家臣たちの動揺を鎮めようと、その時に自念の部屋を見張っていた家臣から証言を取るも誰も犯行を行うことは不可能だと思われた。行き詰った村重は地下の牢に閉じ込めた黒田官兵衛の知恵を借りようとするのだが…

進めば極楽、退かば地獄

舞台は織田信長に反旗を翻した村重が毛利家や大阪本願寺などと結び籠城戦を行った、いわゆる「有岡城の戦い」の最中だ。有岡城は織田軍に囲まれ、村重は毛利の援軍を今か今かと待っているなかで、戦況は芳しくない。

荒木村重
荒木村重

どうやら儂は、おぬしを帰すわけにはいかぬらしい

黒田官兵衛
黒田官兵衛

因果が巡りましょうぞ

(Google マップより)

城内で起きた事件の謎に立ち向かう姿に村重の類稀な智略と胆力が表現されていたり、戦が進むにつれて家臣たちとの関係の変化していく様子が見どころの一つと言えるが、この物語の一番の肝は
荒木村重はどうして信長を裏切ったのか?
ということである。
今でもでもさまざまな説があるこの謎の答えは、村重が自問自答を繰り返した先にあるのか?それとも官兵衛の言葉が的を射てるのか?
謎が解けたとき、歴史は変わるかもしれない…

ミステリー

村重がこの有岡城内で起こる奇怪な事件や現象の謎を解くべく黒田官兵衛に相談する場面がしばしばみられる。お互いの腹の探り合いをしながらの会話に張り詰めた緊張感が漂ってくる。

戦国ミステリーの特徴は、犯行動機が誰にでもあるというところ。
戦局によって有利な方につきたいと思うのはこの時代の武士なら当然の事。村重に不信感を募らせて、あるいは戦の行方によって寝返ることは誰にでもありうるのです。科学的な解決法は皆無なこの時代に、それぞれの人物の性格、腹の中、立場を考えながら相手の言動や行動におかしなところはないかと考察するしかありません。つまり、黄金期の探偵小説さながらの謎解きが展開されるのです。

このミステリーの部分で、各人物像がしっかり描かれていてわかりやすい。武士は個性がはっきりしている人が多くて面白いですね。

城中の主だった将(第一章・雪夜灯籠より)
荒木久左衛門 30代・思慮深く慎重な性格。家格が高い国衆池田家の流れを汲む人物。
牢ですと。殿、まさか自念を生かすおつもりか
中西新八郎  20代・剽悍な武士。家中では新参者にあたる。
やはり殿の御了見には、万に一つの誤りもございませぬな
野村丹後   40代・体躯が大きい。村重の義弟(妹婿)
さればもしや、南蛮宗のあやしの技ではござるまいか

荒木御前衆五本鑓家中でも頭抜けた強兵)

十右衛門は万事に通じ、ほかの四人はそれぞれ、得物を用いれば、家中随一である。

(自念の部屋を見張っていた家臣はこの5人。)

郡十右衛門…組頭・30代、武芸はそつなくこなし、学術にも通じている。そつがない働きに村重も一目置いている。
廊下は我ら御前衆が警固いたし、何ぴとも近づくを許さず
伊丹一郎左衛門24歳。痩身、鉄砲が上手。
それがしが納戸に駆けつけると、既に郡十右衛門殿、秋岡四郎介殿がきており…
乾助三郎体が大きく太っている。力は強いが、気が利かず、勘が鈍い。
一郎左殿が持ち場を空けてはならぬと申されたので、それもそうかとその場を動かず…
秋岡四郎介…刀法は家中一。鑓の使い手。細身で目は鷹のように鋭い。気難しい性格である。
斃(たお)れた自念殿を先に見つけたのも、それがしにござります
森可兵衛…30歳。愚直で勘が鈍いが、武芸に秀でている。大柄で豪傑。
それがし、生まれついての鈍根にて、これというものは見ておらず
下針(雑賀)…鉄砲の腕は一流(事件のあった日、部屋が見える物見櫓にいた)
その折は納戸にかようなお方が押し込められておろうとは、存じませなんだ
荒木村重
荒木村重

官兵衛、知恵を出せ

黒田官兵衛
黒田官兵衛

なぜ殺さぬ!

皆本当の事を言っているのか?犯人はこの中何いるのか?はたまた城内に忍び込んだ織田の間者なのか?疑えばキリがないこの謎、官兵衛の推理が冴えわたります。

感想

歴史が苦手な人こそ読んで欲しい。

私は日本史に興味がなかったため、大河ドラマを見ても最後まで見続けることがあまりありませんでした。最後まで見たのは「新選組」「篤姫」ぐらいだったと思います。なので、この小説もおそらく直木賞を受賞していなければ、ハードカバーを手に取ることはなかったし、評判が良くても苦手な歴史小説だということで後回しになっていたはずです。

恐る恐る読んでみたのですが、これがとても面白かった。その理由は、歴史ミステリーというジャンルだったからこそだと思います。
戦国の舞台にミステリーをはさむことで、登場人物それぞれの詳細な説明があり、立場や人物像が鮮明になって、理解しやすいし感情移入もしやすかった。何よりも、置かれている状況の緊迫感が伝わってきました。
ミステリーの部分が人物を際立たせ、歴史の人間ドラマが濃厚になった。歴史の部分がミステリーの緊迫感をより盛り上げた。この相乗効果が成程、歴史ミステリーの良さなのだと感じた。

ただ、歴史小説を読みなれない人には侍言葉や武士言葉と言われている難しい言葉の表現に戸惑ってしまうかもしれません。私もそうでした。でも、その言葉にもその時代の雰囲気が感じられるので、検索しながらゆっくり読んで欲しい。慣れてくると、その世界にどっぷりはまるはずです。私の頭の中では今でもぐるぐると武士語が回っています。

今まで見逃してきた大河ドラマをもったいなく思ったし、もっといろいろな歴史小説を読みたくなった。そういう気持ちを与えてくれた大切な一冊になりました。

【受賞・ランキング入賞結果】
第12回山田風太郎賞
このミステリーがすごい! 2022年版』(宝島社)国内編第1位
週刊文春ミステリーベスト10(週刊文春2021年12月9日号)国内部門第1位
ミステリが読みたい! 2022年版」(ハヤカワミステリマガジン2022年1月号)国内篇第1位
2022本格ミステリ・ベスト10』(原書房)国内ランキング第1位
2021年歴史・時代小説ベスト3」(週刊朝日2022年1月14日号)第1位
この時代小説がすごい! 2022年版』(宝島社)単行本第3位
著者:米澤穂信(ヨネザワホノブ)
1978年岐阜県生まれ。2001年『氷菓』で第5回角川学園小説大賞奨励賞(ヤングミステリー&ホラー部門)を受賞してデビュー。11年に『折れた竜骨』で第64回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)、14年には『満願』で第27回山本周五郎賞を受賞。『満願』および15年発表の『王とサーカス』は3つの年間ミステリ・ランキングで1位となり、史上初の2年連続三冠を達成した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データベースより)
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