食べ物小説10選

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日本の食文化

ある外国人が日本のバラエティ番組を見て、ものを食べているシーンが多いことにとても驚いたそうです。「人がものを食べているのを見て何ががそんなに面白いのか」という疑問が湧くのだとか。

確かによく見かけますね。
美味しそうなものを目にすると食欲をそそられるのと同時に、四季折々の料理や郷土料理に季節や歴史を感じたり、食べている人の笑顔やリアクションを楽しめたりするので、なんとなく見てしまうのではないでしょうか。

バラエティ以外にも食べているシーンをメインにした『孤独のグルメ』というドラマが人気を博し、今年で10年目。
このドラマは漫画が原作で、食を題材にした漫画は「食の多様化」によって流行しました。『美味しんぼ』や『クッキングパパ』などの一大ブームを巻き起こした作品を経て、現在でも数多くのグルメ漫画が生まれています。

一方、小説ではグルメ小説の元祖と言われている『食道楽』(村井弦斎)があります。
若き大食漢と料理に凄腕を発揮する男女のラブロマンスに滑稽味あふれるストーリー、料理の調理法の蘊蓄、栄養学、衛生の情報まで。単行本は嫁入り道具としても重宝され、明治期空前のベストセラー小説になったとか。

味以外に香りや色、かたち、食べる音までがおいしさだと考えられている日本食はとても奥が深く、古来からの風俗がよく表れています。健康や厄除けの願いが込められているおせち料理や年越しそば、禅宗の食事から発展したわびさびを表す懐石料理。また、愛情たっぷりのおふくろの味は各家庭のそして家族の歴史でもあります。

食に対して真摯に向き合った歴史から、食文化を通して様々なドラマを感じられますね。

最近では「食」と人生や日常、謎をリンクさせた純文学やミステリー小説が数多く書店に並んでおり、人気があるようです。
この10選は「食」がテーマの作品の中から人気作品、受賞作品などバラエティ豊かに選びました。

探求心もスリルも感動も味わえる物語、食欲も心も満たされる物語。
あなたならどの物語を堪能しますか?

食堂かたつむり 小川 糸

~「私は料理を作ることならできる。」おいしくて、いとおしい。料理を通して描かれる愛の物語~

story:同棲していた恋人にすべてを持ち去られ、恋と同時にあまりに多くのものを失った衝撃から、倫子はさらに声をも失う。山あいのふるさとに戻った倫子は、小さな食堂を始める。それは、一日一組のお客様だけをもてなす、決まったメニューのない食堂だった。巻末に番外編収録。(「BOOK」データベースより)

当書はイタリアの文学賞であるバンカレッラ賞(Premio Bancarella)料理部門賞、フランスのウジェニー・ブラジエ小説賞を受賞した世界的にも有名なベストセラー小説
音楽の作詞家でもある小川糸のデビュー作品で、2010年に映画化されました。

海外絵本の翻訳も多数ある著者。読みやすく、どことなく児童書のファンタジーのような世界観の中に、ままならない人間関係と生身の人間の姿が描かれています。
かわいい手作りの食堂で、1日1組のお客様に最適の料理を提供する。天然素材で手間暇をかけて作った料理を、ゆっくりとした時間の中で大切な人と食べる。心も胃袋も満たされる食事の風景に癒されます。

しかし、生きることは食べること。食べるということは命を頂くということ。
私たちは動植物の息吹が感じられる自然の中で、あらゆる生き物と共存している。それらを自身の中に取り込むことによって生かされている。現代の忙しい日本人が忘れている、食に向き合う姿勢にハッとさせられます。

四季折々の食材や、その国の文化が感じられる料理など、主人公が愛を込めて料理を作る描写があたたかい。そんな食堂での時間を過ごすことができる、優しくリアルな愛の物語。

ほっこり度★★★★★【自然・手作りの食堂・人生・家族・命】

小川糸(オガワイト)
1973年生まれ。2008年、『食堂かたつむり』でデビュー。同作は、11年にイタリアのバンカレッラ賞、13年にフランスのウジェニー・ブラジエ賞を受賞。以後、多くの作品が英語、韓国語、中国語、フランス語、スペイン語、イタリア語など様々な言語に翻訳されている。映像化も多数(「BOOK」データベースより)

タルト・タタンの夢 近藤 史恵

~ビストロ・パ・マルへようこそ。絶品料理の数々と極上のミステリをどうぞ!~

story:商店街の小さなフレンチ・レストラン、ビストロ・パ・マル。シェフ三舟の料理は、気取らない、本当のフランス料理が好きな客の心と舌をつかむものばかり。そんな彼が、客たちの巻き込まれた事件や不可解な出来事の謎をあざやかに解く。常連の西田さんが体調を崩したわけは?フランス人の恋人はなぜ最低のカスレをつくったのか?絶品料理の数々と極上のミステリ。(出版社より)

ミステリーや恋愛小説の他、恋愛シミュレーションゲームのノベライズなども手がける近藤史恵の料理&ミステリー小説。朗読劇や、『シェフは名探偵』のタイトルでテレビドラマ化もされている。

食事の時間に話題になるような日常のちょっとした事件や、過去の出来事。見方を変えれば、真実は違って見えるかも知れません。
アットホームなフレンチ・レストランで過ごすひと時。食事をしながら交わされる会話から聞こえてくる中にはささやかな事件を匂わせるものも。彼らの心のしこりとなっているものの正体は何なのか…。隠された謎と真実をシェフが紐解きます

美味しそうな料理の描写と、ビストロ・パ・マルで働く個性豊かなスタッフが作り出す雰囲気に、まるで本当にこの店を訪れているような気持に。敏腕シェフの名推理の後は、この店の隠れた名物、ホット・ワイン。お腹も心も満ち足りる人情味あふれる物語です。

読みやすい文章で、さらっと読めてほっこりする、連作短編集のミステリー小説。
美味しそうな料理とワインに食欲を刺激されること間違いなしです。

ほっこり度★★★★★【フレンチ・名シェフ・ミステリー・人間模様】

近藤史恵(コンドウフミエ)
1969年大阪市生まれ。大阪芸術大学文藝科卒業。1993年、『凍える島』で第4回鮎川哲也賞を受賞してデビュー。2008年に『サクリファイス』で第10回大藪春彦賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データベースより)

シュガータイム 小川 洋子

~「わたしたちのシュガータイムにも、終わりがあるってことね」~

story:三週間ほど前から、わたしは奇妙な日記をつけ始めたー。春の訪れとともにはじまり、秋の淡い陽射しのなかで終わった、わたしたちのシュガータイム。青春最後の日々を流れる透明な時間を描いている。(「BOOK」データベースより)

数々の賞を受賞し、現在は文学賞の審査委員も務めている実力派作家の小川洋子。海外でも評価が高く、国内外問わず根強いファンがいます。この小説は、小川洋子の初めての長編、青春&食べ物小説です。

大学生のかおるは、ある時から食べ物の事が頭から離れなくなるという症状に陥ってしまう。
異常な食欲になったきっかけの二つの出来事。そして、恋人との不思議な関係。思い出すと胸が苦しくなる青春の甘くてもろい時間が描かれています。

どことなく現実離れしていて、静かな時間が流れているような描写はまるで夢の中にいるような気持にさせられます。そのため、主人公かおるから見える風景や思考はどこまでが本当なのか勘ぐってしまうかも。つねに淡々としている彼女の本心が、また別の形で表れてきているように思えて、いろいろな考察ができます。

「どんなことがあってもこれだけは、物語にして残しておきたいという願うような何かを、誰でも一つくらいは持っている。」著者のあとがきのメッセージから、この物語は小川洋子自身の私小説のようにも読み取れます。妙に生々しさがあったり、リアルに感じたりしたのもそのせいかも知れません。
小川洋子らしさが溢れている切なく美しい不思議な物語です。

切ない度★★★★★【食欲・恋・青春・メタファー】

小川洋子(オガワヨウコ)
1962年生まれ。早稲田大学第一文学部文芸学科卒業。88年、「揚羽蝶が壊れる時」で海燕新人文学賞を受賞。91年「妊娠カレンダー」で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』で本屋大賞と読売文学賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、2006年『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞受賞(「BOOK」データベースより)

かもめ食堂 群 ようこ

~かもめ食堂、それはフィンランドのヘルシンキの街角にある食堂でした~

story:ヘルシンキの街角にある「かもめ食堂」。日本人女性のサチエが店主をつとめるその食堂の看板メニューは、彼女が心をこめて握る「おにぎり」。けれどもお客といえば、日本おたくの青年トンミひとり。ある日そこへ、訳あり気な日本人女性、ミドリとマサコがやってきて、店を手伝うことになり…。普通だけどおかしな人々が織り成す、幸福な物語。(「BOOK」データベースより)
エッセイストであり、小説家でもある群ようこが映画のための書き下ろしたものを文庫化した作品。2006年に映画公開。

世界一コーヒーを飲むと言われている北欧の一つフィンランド。フィンランド人は平均一日4杯、多い人だと7杯くらい飲むそうです。そんな国に小さなカフェを開いた日本人女性の物語。
すっきりとした店内にコーヒーとパン、そして日本人のソウルフードおにぎり。かわいらしいカフェで働くサチエとそこを訪れるわけありの人たちの交流があたたかい。

また、このカフェには人生に迷った日本人も。なんとなく流されるように生きてきたミドリ、介護に明け暮れ、気づいたらもう50歳になっていたマサコ。先の不安を吹っ切るように日本を飛び出してきた二人の独身女性の心の機微や、異国での人々との触れ合いを通して変化していく姿が描かれています。

読みやすく、ファンタジーのような世界観は絵本を読んでいるような気分にも。
特に何かが起こるわけでもないけれど、小さな幸せを感じられるそんな物語です。

ほっこり度★★★★★【異国・カフェ・独身女性・人とのつながり】

群ようこ(ムレヨウコ)
1954年東京都生まれ。1977年日本大学藝術学部卒業。本の雑誌社入社後、エッセイを書きはじめ、1984年『午前零時の玄米パン』でデビュー。その後作家として独立(「BOOK」データベースより)

BUTTER 柚木 麻子

~驚愕の殺人、驚嘆の美食。各紙誌で大絶賛を浴びた著者の渾身作~

story男たちの財産を奪い、殺害した容疑で逮捕された梶井真奈子。若くも美しくもない彼女がなぜ──。週刊誌記者の町田里佳は親友の伶子の助言をもとに梶井の面会を取り付ける。フェミニストとマーガリンを嫌悪する梶井は、里佳にあることを命じる。その日以来、欲望に忠実な梶井の言動に触れるたび、里佳の内面も外見も変貌し、伶子や恋人の誠らの運命をも変えてゆく。各紙誌絶賛の社会派長編。(出版社より)

あの有名な事件をモチーフにした作品。直木賞の候補にもなったこの小説は、柚木麻子の代表作の一つ。一冊まるごと最初から最後まで食べ物の描写が尽きないグルメな社会派ミステリー小説

男性を次々と手玉に取り贅沢三昧を繰り返してきた女性、梶井真奈子の犯罪が世間の注目を集めますが、話題の中心は事件の内容ではなく、梶井の容姿へのバッシングでした。「あんなデブがよく結婚詐欺なんてできたと思うよ」梶井の容姿への軽蔑はそのまま女性に求められる理想の高さでもありました。美しくて、スタイルが良くて、料理上手で家庭的な女性。女らしさとは?男と女の価値観の違いに葛藤する女性たちの姿が描かれています。

美食家の梶井のレシピ、高級レストランのコースから夜中のラーメンまで。美味しそうな料理の描写が次から次へと盛りだくさん。不味そうな体系に気を使ったランチに対し、バターたっぷりの禁断の料理はよだれが出そう。食欲を掻き立てられる文章にお腹が鳴ります。

美味しそうに食べる里佳につられてつい食べ過ぎてしまうかも。
果たして里佳は真相に辿り着くことが出来るのか。ミステリーも料理も堪能できる、ボリューム満点の高カロリーな物語です。

ハラハラ度★★★★★【ミステリー・バター・女性・容姿・愛情】

柚木麻子(ユズキアサコ)
1981年東京都生まれ。作家。2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞し、受賞作を含む『終点のあの子』でデビュー。15年『ナイルバーチの女子会』で山本周五郎賞、16年同作で高校生直木賞受賞(「BOOK」データベースより)

八朔の雪 みをつくし料理帖 髙田 郁

~「食は人の天なり」心に染み入る、江戸の料理と人情の物語~

story:神田御台所町で江戸の人々には馴染みの薄い上方料理を出す「つる家」。店を任され、調理場で腕を振るう澪は、故郷の大坂で、少女の頃に水害で両親を失い、天涯孤独の身であった。
大阪と江戸の味の違いに戸惑いながらも、天性の味覚と負けん気で、日々研鑽を重ねる澪。しかし、そんなある日、彼女の腕を妬み、名料理屋「登龍楼」が非道な妨害をしかけてきたが・・・・・・。料理だけが自分の仕合わせへの道筋と定めた澪の奮闘と、それを囲む人々の人情が織りなす、連作時代小説の傑作ここに誕生!(「BOOK」データベースより)

累計発行部数400万部突破のベストセラー時代小説。北川景子主演でTVスペシャルドラマ化、黒木華主演で連続TVドラマ化、松本穂香主演で映画化されています。

料理を中心に江戸の情緒や風俗、人情を描いた時代小説。
昆布やカツオのお出汁からとるとろとろのあたたかい和食料理、暑い夏にさっぱりと食べられる江戸っ子に親しまれた涼味をさそう一品、この時代の素材から作られる料理がどれも美味しそうで食欲をそそられます。庶民の嗜好や美意識、食へのこだわりなど江戸時代の食事情が丁寧に描かれ、上方と江戸の食文化の違いなども盛り込まれていて面白い。

また、幼馴染の女性同士の友情や母親代わりの元女将、父親代わりの店主との家族愛、正体不明の浪人などの人情劇も。剣戟シーンがあるわけでもなく、捕物帳でもないのにハラハラやドキドキがあり、逆境の中でも優しくいじらしい澪の姿に涙を誘われます。

巻末には著者が幾度も料理の試作をしたという各話の料理レシピも掲載。
「口から摂るものだけが人の体をつくる」という医者のセリフがある通り、体にも心にも効く物語です。

ほっこり度★★★★★【江戸・料理・風俗・人情・恋】

髙田郁(タカダカオル)
兵庫県宝塚市生まれ。中央大学法学部卒。1993年、集英社レディスコミック誌『YOU』にて漫画原作者(ペンネーム・川富士立夏)としてデビュー。2008年、小説家としてデビューする。2013年『銀二貫』で第1回大阪ほんま本大賞を受賞し、2022年には第10回となる同賞の大賞を『ふるさと銀河線ー軌道春秋』で受賞(「BOOK」データベースより)

エミリの小さな包丁 森沢 明夫

~「幸せになることより、満足することの方が大事だよ」傷ついた心を癒やしてくれたのは、おいしいごはんとおじいちゃんだった~

story:恋人に騙され、仕事もお金も居場所さえも失った25歳のエミリ。15年ぶりに再会した祖父の家に逃げ込んだものの、寂れた田舎の海辺の暮らしに馴染めない。そんな傷だらけのエミリの心を救ったのは祖父の手料理と町の人々の優しさだった。カサゴの味噌汁、サバの炊かず飯。家族と食卓を囲むというふつうの幸せに触れるうちに、エミリにも小さな変化が起こり始め…胃袋からじんわり癒やされる、心の再生を描いた感動作!(「BOOK」データベースより)

小説、エッセイ、絵本、ノンフィクションなど、幅広い分野で活躍している森沢明夫の人間の限りない温かさと心の再生を描いた、癒しの物語

ショルダーバックに出刃包丁を忍ばせて「あの人」の家に向かって歩いていく。「あの人の目の前で、私がこの武器を手にしたらー」物騒なプロローグから始まるこの物語はミステリー小説ではなく、主人公エミリの心の成長を描く心温まるお料理小説。
この状況から逃げたしたい、そんな瞬間が長い人生には多々ありますが、もう無理だと限界を感じて本当に仕事や周りの人間から逃げだしたエミリがたどり着いたのは、何もない田舎のおじいちゃんの家でした。

おじいちゃんの家で真っ先にエミリが心を動かされたのは、料理上手なおじいちゃんが作る魚料理。カサゴの刺身、昆布と鰹の出汁と青唐辛子混ぜた手作り醤油、手間暇かけた愛情たっぷりの料理に癒されると共に、食欲も刺激されます。おじいちゃんのさり気ない優しさや、思い出話、料理に込められた想いなど、エミリに向けられた言葉一つ一つに暖かさが感じられ、胸にしみる。

「苦労した分だけ、心が磨かれる。だから人は優しいのだ。」
胸に響く言葉の数々に思わず涙が溢れてくる。料理にも人の優しさにも癒される物語です。

ほっこり度★★★★★【魚料理・田舎・人生・家族・愛】

森沢明夫(モリサワアキオ)
1969年、千葉県生まれ。小説、エッセイ、ノンフィクション、絵本と幅広い分野で活躍。『ラストサムライ 片目のチャンピオン武田幸三』で第17回ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。青森を舞台にした三部作『津軽百年食堂』『青森ドロップキッカーズ』『ライアの祈り』で人気を博す。吉永小百合主演の『虹の岬の喫茶店』や『夏美のホタル』など映像化されたベストセラー多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データベースより)

和菓子のアン 坂木 司

~「食べるのは大好きです。けど、知識はありません」デパ地下を舞台にしたほのぼのミステリー~

story:デパ地下の和菓子店「みつ屋」で働き始めた梅本杏子(通称アンちゃん)は、ちょっぴり(?)太めの十八歳。プロフェッショナルだけど個性的すぎる店長や同僚に囲まれる日々の中、歴史と遊び心に満ちた和菓子の奥深い魅力に目覚めていく。謎めいたお客さんたちの言動に秘められた意外な真相とは?読めば思わず和菓子屋さんに走りたくなる、美味しいお仕事ミステリー。(「BOOK」データベースより)

坂木司による日常の謎を題材にしたミステリー小説

日本の伝統的なお菓子である和菓子。一つ一つ丁寧に作られた和菓子は上品な美味しさがあり、見た目にも美しい。この物語は、和菓子店みつ屋に勤める主人公アンを通して和菓子の魅力と和菓子にまつわる日常の謎を解き明かす物語。

一口に和菓子と言っても、生菓子や半生菓子、干菓子など様々。また、お茶の付け合わせに用いられるもの、お祝いやお供え用のもの、普段のおやつによく食べられるものなど、その品によって購入する目的も大きく異なります。この物語は、そんな奥深い和菓子の歴史や菓子名の由来が描かれていて面白い。また、ちょっと太め?のアンちゃんが和菓子を美味しそうに食べるところや、和菓子の描写がとても魅力的で、不思議とアンコが食べたくなります。

さらに、時間によって売れるお菓子が違ったり、様々なお客さんが来られたりとお仕事小説としの要素もありながら、様々な謎も散りばめられている。お客様の様子などから購入される和菓子を当てる店長、お菓子の中から出てきた暗号めいた紙を持ってくるお客様。それぞれの謎に人を思う気持ちが込められていて、ホロリとさせられたり暖かい気持ちになったり。

軽快なテンポでとても読みやすい。和菓子が食べたくなるほっこりミステリーです。

ほっこり度★★★★★【和菓子・日常のミステリー・仕事】

坂木司(サカキツカサ)
1969年東京都生まれ。2002年『青空の卵』で“覆面作家”としてデビュー。13年『和菓子のアン』で第二回静岡書店大賞・映像化したい文庫部門大賞受賞(「BOOK」データベースより)

今日のハチミツ、あしたの私 寺地 はるな

~どこでも、何度でも、人はやり直せるし、変わっていける。~

story:蜂蜜をもうひと匙足せば、あなたの明日は今日より良くなるー。「明日なんて来なければいい」と思っていた中学生のころ、碧は見知らぬ女の人から小さな蜂蜜の瓶をもらった。それから十六年、三十歳になった碧は恋人の故郷で蜂蜜園の手伝いを始めることに。頼りない恋人の安西、養蜂家の黒江とその娘の朝花、スナックのママをしているあざみさん…さまざまな人と出会う、かけがえのない日々。心ふるえる長篇小説。(「BOOK」データベースより)

『ビオレタ』でポプラ社が主催する第4回ポプラ社小説新人賞を受賞、『水を縫う』で河合隼雄物語賞した寺地はるなの人気作品。

美味しい食べ物は体と心を癒してくれますが、それだけではなく、楽しい食事の時間を誰かと共有することで、その思い出は人生の栄養素になるのではないか。そう気づかせてくれる食べ物とままならない人間関係を描いたハートフルな物語
主人公の碧は等身大の女性。繊細で傷つきやすい恋人にストレスを感じたり、将来の方向性が見えない現実に不安になったりと、碧に共感を覚えながらも彼女のバイタリティ溢れる行動力に惹きつけられます。

碧があるきっかけで蜂蜜園で働くことになる場面では蜜蜂の生態が色々と描かれていて面白い。また、ハチミツを使った料理も美味しそうで食べてみたくなります。
人間関係はお互いが影響を与え合い、変化していく。碧と彼女を取り巻く様々な人との交流を通して、人間の成長と共に得るものと失うものが描かれています。

自分に起こる全ての事は自分を形成する大切なもの。
食と出会いを通して人の温かさや寂しさ、強さを知る物語です。

ハートフル度★★★★★【ハチミツ・恋・人生・仕事・人間模様】

寺地はるな(テラチハルナ)
1977年佐賀県生まれ。2014年『ビオレタ』で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データベースより)

植物図鑑 有川 浩

~「お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか」美味しくほろ苦い”道草”恋愛小説~

story:お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか。咬みません。躾のできたよい子ですー。思わず拾ってしまったイケメンは、家事万能のスーパー家政夫のうえ、重度の植物オタクだった。樹という名前しか知らされぬまま、週末ごとにご近所で「狩り」する風変わりな同居生活が始まった。とびきり美味しい(ちょっぴりほろ苦)“道草”恋愛小説。レシピ付き。(「BOOK」データーベースより)

『植物図鑑』は角川書店のケータイ小説サイト「小説屋 sari-sari」で連載され、角川書店から刊行された後、幻冬舎にて文庫化。累計80万部を突破した有川ひろの恋愛小説
ある日突然、イケメンを拾った。という夢のある設定で、恋愛待ったなしの展開…になるかと思いきや、意外にも恋愛に奥手な二人。この二人の恋心が野草を通して育っていくハートフルな物語。

「雑草という名の草はない。すべての草には名前があります」
恋愛小説でありながら、この物語の大半を占めるのは実は道端や川辺など自然に生えている植物についての蘊蓄。その辺に生えてるただの雑草にも1つ1つに名前があり、その名前の由来、実は食べたら美味しいものなど、まさに図鑑さながらの植物の雑学が満載で目からウロコ。また、野草料理がとても美味しそうに描かれ、食べてみたくなります。

二人の恋心もなかなか距離の縮まらない四季の移ろいと共に少しずつ変化していく過程が描かれ、初々しくも、もどかしい。一方で、転がり込んできた彼の正体は謎のまま。そして恋のライバルの出現。後半は、波乱を予感させる展開に心がザワザワすることでしょう。

読みやすいく学生さんにもおすすめ。爽やかな恋愛小説を読みたい方に。

キュンキュン度★★★★★【植物・食べられる野草・恋愛】

有川ひろ(アリカワヒロ)
高知県生まれ。第10回電撃小説大賞『塩の街wish on my precious』で2004年デビュー。2作目の『空の中』が読書界諸氏より絶賛を浴び、『図書館戦争』シリーズで大ブレイク。その後、『植物図鑑』『キケン』『県庁おもてなし課』『旅猫リポート』で、4年連続ブクログ大賞を受賞。2019年、「有川浩」から「有川ひろ」に改名(「BOOK」データベースより)

こちらもオススメ👇2022年芥川賞受賞作品:お仕事&食べ物&恋愛小説。

おいしいごはんが食べられますように 高瀬 隼子

story:職場でそこそこうまくやっている二谷と、皆が守りたくなる存在で料理上手な芦川と、仕事ができてがんばり屋の押尾。ままならない微妙な人間関係を「食べること」を通して描く傑作。第167回芥川賞受賞!(出版社より)

仕事ができる押尾さんは、彼女の先輩の芦川さんに対して良い印象を持っていません。弱々しい雰囲気のある芦川さんは仕事が出来ない上に、体の弱さを理由に定時で退社するからです。結果、誰かが残りの仕事を引き継ぐことに。いや、一番気に入らないのは、そんな芦川さんに社内の誰もが体調を心配し、気を使い、甘めの採点をしているところ。そんな押尾さんがちょっと気になる先輩、二谷さんも芦川さんの仕事の出来なさにいら立ちますが、反面そこがかわいいく、色気を感じてしまいますー。

押尾さんのように「どうしてあの子だけえこひいきされるんだろう」「自分はなんて損な役回りなのだろう」と、思った経験は誰にでもあるはず。また、何気ない言動や行動が、相手に罪悪感を与えたり虚しさを感じさせたりすることも…。本人に悪気はないのかもしれないけれど、受け取り方は相手によって様々です。

この物語は、ままならない微妙な人間関係を「食べること」を通して描かれています

仕事と恋と食事と、この複雑に絡み合った三人の物語はここから予想外の展開に。最後に笑うのは誰なのか。

著者:高瀬隼子(タカセジュンコ)
1988年愛媛県生まれ。立命館大学文学部卒業。2019年『犬のかたちをしているもの』で第43回すばる文学賞を受賞し、デビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データーベースより)
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