掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン

ルシア・ベルリン
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~「他人の苦しみがよくわかるなどという人間はみんな阿呆だからだ。」大反響を呼んだ初の邦訳短編集~

こんにちは、くまりすです。今回は本屋大賞〔翻訳小説部門〕第2位のルシア・ベルリン掃除婦のための手引き書」をご紹介いたします。

story:

毎日バスに揺られて他人の家に通いながら、ひたすら死ぬことを思う掃除婦(「掃除婦のための手引き書」)。道路の舗装材を友だちの名前みたいだと感じてしまう、独りぼっちの少女(「マカダム」)。波乱万丈の人生から紡いだ鮮やかな言葉で、本国アメリカで衝撃を与えた奇跡の作家。2020年本屋大賞翻訳小説部門第2位、第10回Twitter文学賞海外編第1位。大反響を呼んだ初の邦訳短編集。(「BOOK」データベースより)

目次:エンジェル・コインランドリー店/ドクターH.A.モイニハン/星と聖人/掃除婦のための手引き書/わたしの騎手/最初のデトックス/ファントム・ペイン/今を楽しめ/いいと悪い/どうにもならない/エルパソの電気自動車/セックス・アピール/ティーンエイジ・パンク/ステップ/バラ色の人生(ラ・ヴィ・アン・ローズ)/マカダム/喪の仕事/苦しみ(ドロレス)の殿堂/ソー・ロング/ママ/沈黙/さあ土曜日だ/あとちょっとだけ/巣に帰る(「BOOK」データベースより)

実話に基づいた物語

著者のルシア・ベルリン自身の人生を描いた連作短篇集。と言っても自叙伝というわけではなく、私小説よりも小説化された形で書かれたオートフィクションというものらしい。

オートフィクションとは:
自伝のように作者と語り手(つまりは登場人物であるが)とが同一人物であることに依拠しながら、同時にフィクションを、主として小説というジャンルを持ち出してくる物語のこと。(Wikipediaより)

つまり、彼女の息子曰く「完全に事実ではないにせよ、当たらずとも遠からず。」とのことで、彼女の実人生に基づいた物語なのです。

小説で語られる彼女の生涯は、まさにジェットコースターのように波乱万丈。
地獄のような貧困生活から裕福なお屋敷暮らし、3度の結婚と離婚、虐待にアルコール依存症、掃除婦から大学の客員教授までの様々な職歴、とてもひとりの人間の人生とは思えないくらい多くの物語があります。

異文化が入り混じる国アメリカ。民族の違いや、貧富の差、差別などリアルなアメリカの姿と共に、ハードでかっこいい彼女の生き様が描かれています。

表現の豊かさ

この短編集は、ルシア・ベルリンの逝去から10年を経て出版されたベストセラー小説から翻訳家の岸本佐知子が選りすぐったもの。
著者の作品が人気を博したひとつにディテールの豊かさが挙げられています。

わたしはインディアンたちの服が回っている乾燥機を、目をちょっと寄り目にして眺めるのが好きだ。紫やオレンジや赤やピンクが一つに溶け合って、極彩色の渦巻きになる。

歌の歌詞のような表現で、彼女が見ている景色が鮮明に伝わってくる。

掃除婦が物を盗むのは本当だ。ただし雇い主が神経を尖らせているものは盗らない。余りもののおこぼれをもらう。小さな灰皿に入れてある小銭なんかに、わたしたちは手を出さない。

次から次へと出てくるとんでもエピソードは、壮絶ながらブラックユーモアがきいていて、思わず笑ってしまう。通俗性を気にしない、まっすぐで正直、時に冷めたような表現は彼女の中に孤独ながらも凛とした強さを感じさせます。

感想

今まで海外の小説をあまり読んでこなかったものですから、いざ読み始めると翻訳ならではの文章になかなか馴染めず、ちょっと苦戦。表現の方法や文化、常識とされている前提の違いがあり、慣れるのに時間がかかってしまった気がします。

実人生に基づいた物語といっても時系列で進まなかったため、物語に入り込みにくかったのかも知れません。何か、走馬灯のように思い出のシーンや風景が次々と現れてくるような感じです。読み進めていくと、パズルのピースがはまっていくように物語がつながっていき、彼女の人生の全体像が一気に見え、快感。でも、読んでいて戸惑いを感じたら、彼女の生い立ちがわかる解説から読むのも一つの手かも。
文章のリズムに慣れてくると、その独特の世界観と表現の生々しさは新鮮で、クセになりそうです。

人種や宗教、民族など異なるアイデンティティーやバックグラウンドを持つアメリカの社会的背景もきちんと描かれ、当時のこの国の空気を感じることも出来た。
最近リメイクされたウエスト・サイド・ストーリーを観たのですが、それを思い出しました。

メンタルヘルスの問題、虐待などの暴力、経済格差における貧困は、今日ニュースでもよく取り上げられています。決して、遠い国の昔の話と片付けられません。

1936年アラスカ生まれ。鉱山技師だった父の仕事の関係で幼少期より北米の鉱山町を転々とし、成長期の大半をチリで過ごす。3回の結婚と離婚を経て4人の息子をシングルマザーとして育てながら、学校教師、掃除婦、電話交換手、看護助手などをして働く。いっぽうでアルコール依存症に苦しむ。20代から自身の体験に根ざした小説を書きはじめ、77年に最初の作品集が発表されると、その斬新な「声」により、多くの同時代人作家に衝撃を与える。2004年逝去(「BOOK」データベースより)
翻訳:岸本佐知子(キシモトサチコ)
翻訳家。2007年、『ねにもつタイプ』で講談社エッセイ賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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