新田次郎文学賞という存在を初めて知り、山岳小説の賞なの?と勘違いをしてしまいました。
Story
「この先にね、月に一番近い場所があるんですよ」。死に場所を探す男とタクシー運転手の、一夜のドラマを描く表題作。食事会の別れ際、「クリスマスまで持っていて」と渡された黒い傘。不意の出来事に、閉じた心が揺れる「星六花」。真面目な主婦が、一眼レフを手に家出した理由とは(「山を刻む」)等、ままならない人生を、月や雪が温かく照らしだす感涙の傑作六編。新田次郎文学賞他受賞。
どのお話も、人生のピンチに陥った主人公を科学に倣って答えを導くというストーリー。
八方ふさがりのような状況でも科学に置き換えて考えると、スマートでロマンチックに感じられるのが素敵。
物語に登場する多くの女性は心が強く、表現からも女性への敬意が伝わってきてほっこりしました。逆に男性は、哀愁を感じさせる人物が多かったように思います。
ピンチの乗り越え方にしても、大人は心の中で言い訳を探したり、他人のせいにしようとしたりして・・・やっぱり疲れているんだよね!そういうところある!あるある。
反対に子供が主人公の物語は、そういう狡さがなく、困難にまっすぐ懸命に立ち向かう姿が力強く感じられる。夏の暑さの中、化石を探し当てようとする姿と重なって眩しい。
ロマンチックだなと思っていたら、急に物語の舞台が天王寺になり、大阪弁が始まり・・・風景が、がらりと変わってびっくりしました。ふふ。著者は大阪出身の方なので、言葉は違和感ありません。
そして、作中にも新田次郎の書名が登場してきて・・・おそらく山好きの方なんだと勝手に思っております。
決してハッピーエンドではなくても、望んだとおりの結末ではなくても、それぞれの方法で着地点を見つける。とても暖かい6つのストーリー。面白かったです。
新田次郎文学賞
形式の如何を問わず、歴史、現代にわたり、ノンフィクションや自然界に材を取ったものを対象としている「男たちの大和」や「四十七人の刺客」などの受賞作がある。
1972(昭和47)年、大阪生れ。神戸大学理学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科で地球惑星科学を専攻。博士課程修了後、大学勤務を経て、2010(平成22)年、『お台場アイランドベイビー』で横溝正史ミステリ大賞を受賞。2019年『月まで三キロ』で新田次郎文学賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)楽天ブックスより