姑獲鳥の夏 京極 夏彦

京極夏彦
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「この世に不思議なことなど何もないのだよ」

こんにちは、くまりすです。今回は、あまりの分厚さから「レンガ本」などと呼ばれている京極夏彦の百鬼夜行シリーズ1作目。著者のデビュー作であり、講談社メフィスト賞創設のきっかけとなったオカルトミステリー「姑獲鳥の夏」を紹介いたします。

story

久遠寺医院の娘は二十ヵ月の間、身籠ったままという。その夫は密室から消え、行方が知れない。古本屋にして陰陽師の京極堂が、医院で頻発する怪事件を紐解き、ついに名家の呪いに迫るー。
意識とは、心とは何か。「不思議」を生み出すのは脳に過ぎないのか。推理の前提をくつがえす、現代ミステリーの金字塔。(出版社より)

姑獲鳥(こかくちょう・うぶめ):
中国の伝承上の鳥。中国の古書や江戸時代の百科事典に記述がある。鬼神の一種であって、人間の生命を奪ったり、他人の子供を奪って自分の子とする習性があるという。

妖怪

幽霊や妖怪は存在しているのか?と問われれば、そんなものは迷信だと現代人は誰もが答えるだろう。

昔は科学や医療が発展していないせいもあり、災害や病気など「不思議」な出来事を妖怪の仕業だと理解されていた。

主人公の関口も御多分に洩れずそう考えていたが、友人で博識の京極堂は、そういうものは「いる」という。のみならず、見えるし、触れるし、声だって聞くことが出来る。と言うのだ。
彼は心と脳の関係について話し始める。

新しい時代の足音がする戦後復興期に、忘れ去られようとしている妖怪たちが人の心に潜んでいる。

二十箇月もの間子供を身籠っていることができるのか?」という関口の問いに、正しい答えが導き出せるだろうか?

魅力的なキャラクターたち

関口は、密室から煙のように消えてしまった人を探す羽目になったが、その人物は二十ヵ月の間、身籠ったままの娘の亭主だというのだ。

このオカルトミステリーに個性豊かなキャラクター達が挑む

関口巽:文士で、うつ病の気がある。

京極堂(中禅寺秋彦):関口の友人。古本屋の店主で祈祷師の副業をしている。博識だが、愛想がなく風貌は芥川龍之介に似ている。(京極堂は屋号であり、あだ名)

榎木津礼二郎:私立探偵。性格は天真爛漫。文武両道で、眉目秀麗。

木場修太郎:警察。大木を思わせる大男だが、声は甲高い。話し方は意外とウイットに富んでいる。

例に漏れず、魅力的な作品はキャラクターが生き生きとしている。彼らは決して協力的とは言えないが、距離感、ドライな関係がこの物語を面白くしている。

また、ページは600P以上もあるのだが(シリーズには1000P以上あるものもある)、これはこのシリーズの特徴として、京極堂が様々な場面で、妙に納得できる”うんちく”を傾けるからである。

おどろおどろしい雰囲気だが、オカルトの謎がロジカルに紐解かれていく展開に読む手が止まらないだろう。

感想

妖怪と言えば「河童」や「座敷童」など伝承されたものが思い浮かびますが、歴史は古く、奈良時代にまで遡ります。
江戸時代には妖怪ブームが到来し、作中に出てきた鳥山石燕(とりやま せきえん)など、妖怪画を多く描いた絵師たちの手により様々な妖怪が生み出されたそうです。

現代でも、子供たちに人気のアニメ「妖怪ウォッチ」や「トトロ」など、人間の友達として描かれているものから、昨年大ブームとなった「鬼滅の刃」、「呪術廻戦」など、忌まわしいものとして描かれているものまで実に様々な妖怪が登場しますね。

いつの時代も、人はこういう不思議なものに怖がりながらも、実は惹かれる部分もあるのかも知れません。

著者:京極夏彦(キョウゴクナツヒコ)
1963年北海道小樽市生まれ。1994年『姑獲鳥の夏』でデビュー。1996年『魍魎の匣』で第49回日本推理作家協会賞長編部門を受賞。1997年『嗤う伊右衛門』で第25回泉鏡花文学賞を受賞。2000年第8回桑沢賞を受賞。2003年『覘き小平次』で第16回山本周五郎賞を受賞。2004年『後巷説百物語』で第130回直木三十五賞を受賞。2011年『西巷説百物語』で第24回柴田錬三郎賞を受賞。2016年遠野文化賞を受賞。2019年第62回埼玉文化賞を受賞。日本推理作家協会代表理事に就任(「BOOK」データベースより)

 

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