火のないところに煙は 芦沢 央

芦沢央
記事内に広告が含まれています。

これは、実話をもとにした話なのか?

モキュメンタリーという言葉があるらしい。
擬似を意味する「モック」と、「ドキュメンタリー」を合成した語で、「ドキュメンタリー映像のように見せかけて演出する表現手法」とのこと。

この物語も、この手法を用いられていて、まるで実際にあった話を聞いている感覚に陥る。

story

「神楽坂を舞台に怪談を書きませんか」突然の依頼に、作家の“私”は驚愕する。心に封印し続けた悲劇は、まさにその地で起こったのだ。私は迷いつつも、真実を求めて執筆するが…。評判の占い師、悪夢が憑く家、鏡に映る見知らぬ子。怪異が怪異を呼びながら、謎と恐怖が絡み合い、直視できない真相へとひた走る。読み終えたとき、それはもはや他人事ではない。ミステリと実話怪談の奇跡的融合。

実話なの?

TVでの怪奇現象特集などでは、冒頭「これは私が人から聞いた話なのですが…」というような語りから始まる。

この物語も、主人公の女性記者が人から聞いた話をもとに記事を書いているという設定なのだ。しかも、赤の他人ではなく、友人の友人や、同僚の知り合いなど、日常に溶け込んでいる人達で、より身近な話だと思うとよりリアル感が増し、怖さが倍増する。

何よりも、著者によれば実話も少し混じっているとのこと。
関わる人たちが霊を引き寄せるこの物語。読むことで関わっていると考えると、後ろに気配を感じはしないだろうか。

ミステリー仕立ての怪談

怪談の小説はいくつも出ているが、この物語の最大の特徴は、ミステリー仕立てである。

人はよく不思議なことが起こったり、違和感があっても一旦、まぁ気のせいかな?とやり過ごす。
それは、もしかしたら別の原因があったり、思い過ごしだったりする可能性が高いからであり、そうそう怪奇現象には遭遇しないと頭ではわかっているからだ。

この物語は5つの連作短編集になっていて、どの物語も主人公の記者が、まず霊の仕業と断定せずに、それが起こる原因や理由を解明していく。

その過程が謎解きのようで面白い。起こった事例には実際、霊ではなく犯人がいたりする。
「成程そういう仕掛けか」と読者はまるでミステリーを読んでいる錯覚に陥り、謎解きに夢中になる。そして、思いもかけない結末を迎える…だが、本当にこれで良かったのだろうか?

ぬぐい切れない違和感が徐々に見え隠れする。この不安感は何だろうか?

感想

話題の本は興味があるけれど、それがホラーならちょっと躊躇してしまう。ただ、面白いと評判で、ホラー小説なのに面白いの?と疑問に思いながら読んでみた。

読み始めは、「あれ?そんなに怖くない?」ホラー要素がないわけではないんだけれど、どちらかと言うと人間の怖さの方が良く出ていて、言っていることの矛盾だったり、行き過ぎた行動だったり…そちらの方がゾッとした。

新ミステリーの女王と称される著者らしく、核心に迫っていくにつれ、読む手が止まらなくなるくらい面白かったのだが、最後にホラーになって、一気に怖くなった。ミステリーだと思っていたらホラーだったというどんでん返しであった。

5つの連作短編集それぞれに、仕掛けがあるが、最終章でさらにこの5つの物語の怖さが増す。

ミステリーと怪談の融合の世界を一度体験してみてください。

著者:芦沢央(アシザワヨウ)
1984(昭和59)年、東京生れ。千葉大学文学部卒業。2012(平成24)年、『罪の余白』で第3回野性時代フロンティア文学賞を受賞しデビュー。’18年、『火のないところに煙は』で静岡書店大賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データーベースより)

 

タイトルとURLをコピーしました