その死は小さな村の人間関係に少しづつひびを入れていく。
~英国探偵小説の黄金時代を彷彿とさせる、アガサ クリスティーへのオマージュミステリー~
こんにちは。くまりすです。今回はミステリーランキングや本屋大賞(翻訳小説部門)など7冠を達成したアンソニー ホロヴィッツの「カササギ殺人事件」をご紹介いたします。
story
現代ミステリの最高峰が贈る、すべてのミステリファンへの最高のプレゼント!
1955年7月、パイ屋敷の家政婦の葬儀がしめやかにおこなわれた。鍵のかかった屋敷の階段の下で倒れていた彼女は、掃除機のコードに足を引っかけたのか、あるいは……。その死は小さな村の人々へ徐々に波紋を広げていく。燃やされた肖像画、消えた毒薬、謎の訪問者、そして第二の死。病を抱えた名探偵アティカス・ピュントの推理はーー。現代ミステリのトップ・ランナーによる、巨匠クリスティへの愛に満ちた完璧なオマージュ作品!(出版社より)
名探偵アティカス・ピュント
コナン ドイルの「シャーロック・ホームズシリーズ」やアガサ クリスティーの「ポアロシリーズ」などは誰もが知っている名作で、一癖も二癖もある名探偵が鮮やかに難事件を解決するストーリーは今なお人気の衰えることを知りません。
この探偵が活躍する時代、つまり二つの世界大戦の間を英国ミステリーの黄金時代と呼ばれているそうです。
この物語の舞台はこれよりちょっと後の第二次世界大戦後のイギリスの田舎町。そして、美しい田舎町と、大富豪のお屋敷に使用人、教会、童歌、そして村人全員に殺人の動機があったという探偵小説王道のシチュエーション。
探偵のアティカス・ピュントはドイツから難民としてイギリスに渡ってきた後、私立探偵として数えきれないくらい警察に力を貸してきたという設定は、どこかポアロを連想させます。
そう、カササギ殺人事件は、まさしくアガサクリスティーのオマージュミステリー。
あなたは、まるで古き良き時代の英国ミステリーの世界にタイムスリップしたような錯覚に陥るでしょう。
ふたつの探偵小説
この物語は、作中作と言って、物語の登場人物が小説を読んでいる設定になっています。
登場人物の、わたしことスーザン ライランドは出版社の編集者。
上巻は、スーザン ライランドが読んでいる小説、つまり探偵アティカス・ピュントが活躍するカササギ殺人事件の虚構の世界。下巻はというと、スーザン ライランドのいる現実の世界。
カササギ殺人事件の真相を知るためには、現実の世界での事件の謎を解かないと真相にはたどり着けないという2重の入れ子構造になっている。
著者のアンソニー ホロヴィッツは、「これまで、誰もやったことのないことに挑みたかった。」という。構想から執筆するまで15年もかけた、二十一世紀に書かれた翻訳ミステリー最高峰と言われる名作です。
感想
ミステリーの世界で私が好きなのは、やはりこのテクノロジーがまだ進化していない、人の証言がとても重要視されるこの時代。
クセのある探偵が、証言を引き出すため、相手をわざと怒らせたり、巧みな会話で容疑者と駆け引きをし、相手がうっかり口を滑らせたりした瞬間などはその探偵のファンになってしまうものです。
それと同時に、探偵が種明かしをする前に犯人を当ててやるぞという気持ちも沸いてきます。何せ、手がかりは証拠や証言だけですから、条件は探偵と同じなわけです。探偵と競い合うようにして作りこまれたパズルを解く面白さは、ミステリーの醍醐味ですね。
このカササギ殺人事件も、その私の好きな条件全てを兼ね備えた小説で、この世界観に浸り、2人の探偵の活躍を夢中で読みふけりました。
一方は、信頼のおける探偵。必ず事件を解決してくれるであろうと確信を持てましたので、探偵の活躍を楽しみにしている助手の気持ちで読みましたが、もう一方の探偵は、どこか頼りなげで、私も一緒になって、むしろ探偵の気持ちになって真剣に難問に取り組みました。
結局、このカササギ殺人事件の謎を私は解けず、2人の探偵に先を越されたわけですが、解説の通り、2度美味しい体験でした。
正直、とてもエネルギーを使った気がします。壮大な旅をした後のような。でも、この感覚は癖になりますね。
イギリスを代表する作家。ヤングアダルト作品『女王陛下の少年スパイ!アレックス』シリーズがベストセラーになったほか、人気テレビドラマ『刑事フォイル』『バーナビー警部』のもわいてきます