木挽町のあだ討ち 永井 紗耶子

永井 紗耶子
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~人生に脇役はいない。芝居に救われた人たちの物語~

こんにちはくまりすです。今回は直木賞候補作・永井紗耶子の『木挽町のあだ討ち』をご紹介いたします。

story:

疑う隙なんぞありはしない、あれは立派な仇討ちでしたよ。芝居町の語り草となった大事件、その真相はーー。ある雪の降る夜に芝居小屋のすぐそばで、美しい若衆・菊之助による仇討ちがみごとに成し遂げられた。父親を殺めた下男を斬り、その血まみれの首を高くかかげた快挙は多くの人々から賞賛された。二年の後、菊之助の縁者という侍が仇討ちの顚末を知りたいと、芝居小屋を訪れるがーー。現代人の心を揺さぶり勇気づける令和の革命的傑作誕生!(出版社より)

あだ討ち

戦国時代を脱し泰平の世が訪れると、江戸では様々な大衆文化が花開きました。中でも相撲・吉原遊郭・歌舞伎は「江戸の三大娯楽」として大流行。特に歌舞伎は身分の隔てなく人気があり、この時代最大の娯楽でした。

そのため、江戸の町には庶民的なものから格式高いものまで数多くの芝居小屋がありましたが、「江戸三座」と称される幕府公認の芝居小屋は規模も大きく、周辺には芝居茶屋などのお店が立ち並ぶ芝居町として賑わっていました。
この物語は三座の一つである森田屋に携わる人々が目撃した仇討ちの真相に迫るミステリーです。

とざい、とーざい。赤穂浪士も曽我兄弟も、仇討物語は数多かれど、まことその目にしたという人はさほど多くはございますまい。かく言う私、木戸芸者の一八は、間近に見たのでございます。木挽町の仇討は芝居も敵わぬ見事さで、この界隈では知らぬ者のない一大事。

景気よく仇討ちを語るのは、芝居小屋の入り口で客を集める木戸芸者の一八。節や音まで聞こえてきそうな滑らかな語りが心地よいですね。
仇討ちとは身内を殺されたものが恨みを晴らすこと。仇討ちが最も多かった江戸時代は町中でもよく行われ、人々の関心も高かったようです。

って、それにしても旦那は何だって手前なんかを芝居茶屋に招いて、そんな話をしろっておっしゃるんで。

江戸にやって来た侍から目撃した仇討ちについて尋ねられた一八は、語り慣れた口調で話し始めます。
状況もセリフもすべて一人で語る「一人語り」で進行する物語は、粋な江戸っ子気質や、実直な武士の人柄など登場人物の個性が滲み出ていて面白い。

まあ芝居町なんて、江戸においては悪所と呼ばれるところですからね。品行方正なお武家様なんぞはそうそう足を踏み入れないとは聞いていますが、こちとら生まれも育ちも悪所でございますからね。世間様とは色々ずれているんでございましょう。

一人語りは武士、幇間(ほうかん)、賤民と呼ばれた身分の者まで。江戸庶民の生活や人情を味わいつつ仇討ちの真相に迫ります。果たしてこの結末やいかに。

感想

江戸幕府によって法制化されていた仇討ち。泰平の世でありながら、この時代は歴史上最も多く仇討ちが行われてわれたと言われています。人々も大きな関心を持っており、これを題材にしたの歌舞伎の演目も人気だったとか。

日本一有名な仇討ち、赤穂浪士は武士の物語ですが、この物語はそれを目撃した町人に焦点を当てて描いているところが面白い。当時の身分制度の分け隔てなくそれぞれの人生や江戸の風俗が描かれており、クスッとさせられたり、ホロリとさせられたり新鮮な驚きが沢山ありました。

また、江戸の言葉もテンポ良く読めて、より親しみ深く感じられます。

「(前略)若様、面白いもんはいつか誰かが何処からか持ってきてくれると思ったら大間違いでっせ。面白がるには覚悟がいるんです」
「面白がる覚悟かい」
「そうですねん。面白がらせてもらおうたって、そいつは拗ねてる童と一緒や。でんでん太鼓を鳴らせるようになったら、そこから先の退屈は手前のせいでっせ」

貧富の差が大きかった時代。生きることへの必死さ、人とのつながり、感謝の心。言葉もズンと心に響きます。

普段時代小説を読まない人でも読みやすく古典芸能の面白さも知ることが出来る。時代小説の入門としてもおすすめです。

著者:永井紗耶子(ナガイサヤコ)
1977年、神奈川県出身。慶應義塾大学文学部卒。新聞記者を経て、フリーランスライターとなり、新聞、雑誌などで幅広く活躍。2010年、「絡繰り心中」で小学館文庫小説賞を受賞し、デビュー。2020年に刊行した『商う狼 江戸商人 杉本茂十郎』は、細谷正充賞、本屋が選ぶ時代小説大賞、新田次郎文学賞を受賞した。2022年、『女人入眼』が第一六七回直木賞の候補作に(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データベースより)

『木挽町のあだ討ち』試聴はコチラ👇朗読・関智一さん(2分39秒)

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