生きづらさを抱えた人たちと「わたし」の救いに満ちた感動の物語。
こんにちは、くまりすです。今回は、BLの分野で数々の傑作を生み出し、2020年には「流浪の月」で本屋大賞を受賞された凪良ゆうの「私の美しい庭」をご紹介いたします。
story:
小学生の百音と統理はふたり暮らし。朝になると同じマンションに住む路有が遊びにきて、三人でご飯を食べる。百音と統理は血がつながっていない。その生活を“変わっている”という人もいるけれど、日々楽しく過ごしている。三人が住むマンションの屋上。そこには小さな神社があり、統理が管理をしている。
地元の人からは『屋上神社』とか『縁切りさん』と気安く呼ばれていて、断ち物の神さまが祀られている。悪癖、気鬱となる悪いご縁、すべてを断ち切ってくれるといい、“いろんなもの”が心に絡んでしまった人がやってくるがーー(出版社より)
目次:わたしの美しい庭1/あの稲妻/ロンダリング/兄の恋人/わたしの美しい庭2/ぼくの美しい庭(「BOOK」データベースより)
普通とは
言った本人は何気ない言葉であっても言われた方はとても傷ついた。誰でもそんな経験はあるだろう。無自覚な言葉の暴力を受けた時、人はどうやってその傷を癒せばいいのだろうか。
「百音ちゃんの家は変わってる」
血のつながらない父・統理と暮らしている百音、別れた妻と再婚相手の間にできた百音を引き取った統理、そしてゲイであることを公言している路有。彼らは皆、世間から見れば普通とはちょっと違うところがあるが、本人たちにとってそれは日常であり、当たり前なこと。しかし、世間から好奇の目や同情を含んだ目で見られていることを感じて不安な気持ちを抱えていた百音は、その気持ちを父・統理に打ち明ける…。
どんな状況でも噂話は尽きないですよね。人は知りたいという欲求のために、もしくは自分たちの価値感を表現するために噂話をすると言います。そして人の口には戸が立てられません。
しかし、後ろ指をさされるようなことは何もしていなはず。どこにも持って行きようのない理不尽な気持が生まれます。
助け合って生きるている父・統理と百音。
「大丈夫だ。百音は間違っていない。」父は娘を優しく抱きしめ、社会のルールや幸せの形についての話すのだった。
幸せになることを願う場所
誰でも人生順風満帆とはいかない。躓いたり、立ち止まったりしてようやく正しいとされる道を進むけれど、中にはなかなかその道を見つけられない人もいる。繊細な人、考えすぎる人、過去に心残りがある人。表面上は何でもない風を装いつつ、心はうずくまったまま動けないでいる人たち…。
彼らが暮らすマンションの屋上の庭園には統理が宮司をしている縁切り神社があり、そこに様々な悩みを抱えた人たちが訪れる。結婚の適齢期を超えた女性、病気で会社を辞めた若者。
「みんな当たり前のように、それぞれ不安がある。」
世間との折り合いをつけるため、自分自身を愛するために必要なものは何なのか。
お互いの気持ちが分かりあえる相手、ありきたりの言葉ではなく安心できる場所をくれる相手に出会った時、静かに心のわだかまりが解けてゆく。
そんな縁を感じる相手はあなたのすぐ近くにいるかもしれない。
感想
BLから一般の文芸のジャンルに幅を広げ、尚且つ本屋大賞を受賞した著者の作品を前々から読んでみたかったので、新刊の発売と同時に購入しました。
読んだことがあるBL作品は、以前twitterのフォロワーさんに紹介していただいた「彼女が好きなのはホモであって僕ではない」だが、これはどちらかというと真剣にLGBTの社会問題をテーマに描いた小説なのでちょっと違うのかも知れません。他には長野まゆみの「レモンタルト」は結構BL味があったように思います。
BL作品はどんなジャンルのものよりも、愛や恋など人の想いに比重を置いて書かれているものが多いと聞きます。著者曰く「小説を書くにあたって心の動き、絡み合いには力を入れてきた」
この物語は、柔らかく暖かい雰囲気があり、各人物の心情が丁寧に描き分けられている。さりげないけれども共感できる心の動き、そして優しい想い。その繊細な表現は流石です。
著者はある雑誌のインタビューで、ライトノベル作家が一般文芸も書く事が普通になっていることを例に挙げ、BL小説の作家もそれが普通になることを待ち望んでいることを告白。
ジャンルの垣根を超えた文学の世界が広がれば、もっと多くの新しい、そして素晴らしい作品が誕生するのではないだろうか。その日を夢見て。
2006年にBL作品にてデビューし、「美しい彼」シリーズなど作品多数。2020年『流浪の月』にて本屋大賞を受賞。2021年『滅びの前のシャングリラ』がキノベス!第1位。非BL作品の著作に『神さまのビオトープ』『すみれ荘ファミリア』など。(出版社より)