月と散文 又吉 直樹

又吉直樹
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~「せめて好きなことをやって自由に恥を掻きたい」又吉さんの感性がつまった散文集~

こんにちはくまりすです。今回は芥川賞作家・又吉直樹の『月と散文』をご紹介いたします。

story:

いろんなものが失くなってしまった日常だけれど、窓の外の夜空には月は出ていて、書き掛けの散文だけは確かにあったーー 16万部超のベストセラー『東京百景』から10年。又吉直樹の新作エッセイ集が待望の発売!(出版社より)

目次:満月(いろいろ失くなってしまった日常だけど/鼻で息をしはじめたのは六歳の頃だった/生きてみよう。/物件情報を眺めていた若い二人/どこでも眠れる ほか)/二日月(始まりの灯り/洗った手で汚れた蛇口を閉める/覗き穴から見る配達員/喫茶店からの重要な伝言/しりとり ほか)

散文

『月と散文』はピース又吉さんのオフィシャルコミュニティサイトで発表された書き物の中から抜粋したものを加筆修正し、書きおろしを加えた散文集。日常を綴ったエッセイから創造力満載の私小説、そして突然始まる独り言カルタまで。又吉さんの感性がつまった一冊です。

2020年以降に書かれたものが多いためコロナ禍の日々の暮らしを中心に語られているのですが、心の声が独り歩きしたり、孤独に可笑しみがあったり、どこか楽しそう。ひとり上手の又吉さんはどんな状況でも、そこから何らかの愉悦を見いだしているようです。

(「なにか言い残したことはないか?」より)
立派な言葉や辞世の句を残してこの世を去った歴史上の人物を知るたびに、憧れと同時に得体の知れない恐怖を感じる。
今まさに、人生を終えようとしているタイミングで、なにも思いつかなかったらどうすればいいのだろうか。

こんなご時世ですからいつ何時、何が起こるかわかりませんよね。だからって備えるのは「そこなのか?」と言う疑問はさておき、又吉さんにとっては大事な悩みなのでしょう。
既に怪しい雲行きですが、確かに言われてみれば困るかもしれません。その時になって慌てないためにシミレーションを試みるも、どれもトホホな結果に。思わず脱力してしまうシュールな笑いがあちらこちらに散りばめられています。

また、小説家らしいアドバイスも…

(「存在しない物語の感想文」より)
先日、取材で読書感想文に関する質問を受けた。
(中略)
読書感想文を書くうえで、最も時間が掛かる工程は本を読むことだろう。読書時間を短縮できると、かなり時間の節約になる。いっそのこと、架空の物語で感想文を書いてしまうというのも有効かもしれない。

「成程、その手があったか!」
…とはならないですよね。しかし、読んでいくと「意外と使えるかも」「むしろその物語を読んでみたい」と思えるようなアイデアが面白い。架空の物語なら好きに書けますものね。いたずら心も手伝って先生の反応を楽しみにしたいところですが、リスクも高そう。ふざけつつも、最後にしっかりとコツも教えてくれるところに本への情熱と愛が感じられます。

そして、面白い話だけではなく、又吉さんの人となりが分かる青春時代や家族の思い出も。

(「思い出すことのできる最も古い記憶の自分は泣いている」より)
「よくやった!」と、褒めてくれるのかと期待していると、父は「あんまり調子に乗んなよ」と言った。父は自分の子供に全力で嫉妬していたのだ。

(「花火が終わった後の空には痩せた二日月だけが残っていた」より)
父の言葉に従い資料館の入り口を目指して歩いた。僕と母はスロープに沿って歩いたが、父はスロープを無視して柵を跨ぎ、入口に向かって直線に歩いていった。

僕が「おとん見て。恥ずかしい」と母に言うと、母は入口に辿り着いた父を見ながら、「あの人、ああ見えて賢いとこあるからな」と言った。
二人が長年連れ添った理由が分かったような気がした。

少し変わったご両親ですが、愉快なエピソードからは又吉さんの想いや優しさが伝わってきて、ほっこりしたりホロリとさせられたり。

芸人さんらしい面白ネタから真面目な小説家の顔、そしてナイーブな本音まで。まるで又吉さんと話をしてるかのようにスッと入ってくる文章と豊富な話題で飽きずにページをめくってしまいます。気軽に読めて癒される散文集です。

感想

又吉さんが芸人初の芥川賞作家なのは誰もが知るところ。受賞作『火花』は累計発行部数239万部を突破し、芥川賞受賞作品歴代1位を記録したそうです。純文学の要素もありながらエンタメ性溢れる物語で、読みやすく面白いとブームになりました。普段小説に全く興味を持たない母ですら読んでいて驚いた記憶があります。

それ以降、すっかり小説家のイメージが定着し、メディアでも小説について熱く語っている姿を目にするようになりました。「本は、自分と世間の考えを答え合わせしてくれるような存在」と言う又吉さんは、文豪の内面を描いた作品を通して自身を測ることができたのだとか。そんな経験からか、10年ぶりのエッセイ集『月と散文』は又吉さんの心の内を覗き観ることができるバラエティ豊かな内容となっています。66個のタイトルが並ぶ目次を読むだけでも面白く、その時の気分に合わせて選べる楽しさも。

日常を描いた話では、度重なるちょっとした不幸やハプニングが盛りだくさん。とことんついてない出来事でも又吉さんらしい解釈が付くことで愉快な思い出になってしまう。面白く感じるのは、不運を想像力が補っているからでしょうか。むしろそれを矜持としているふしすらあるように思います。

「恥ずかしがり屋で繊細」と自己分析する又吉さんの文章からは気配りが感じられ、とぼけた面白さに癒される。人生の隠し味を楽しめる一冊です。

※カバー、表紙の絵は又吉さんが敬愛する松本大洋さん。「身に覚えのある温もりと痛みと哀愁みたいなものが強く伝わってきて、僕には『人間そのもの』に見える」と絶賛。カバーをめくると又吉さんの似顔絵が描かれています。

著者:又吉直樹(マタヨシナオキ)
1980年大阪府寝屋川市生まれ。芸人。99年に上京し吉本興業の養成所に入り、2000年デビュー。03年に綾部祐二と「ピース」を結成。現在、執筆活動にくわえ、テレビやラジオ出演、YouTubeチャンネル『渦』での動画配信など多岐にわたって活躍中。またオフィシャルコミュニティ『月と散文』では書き下ろしの作品を週3回配信している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データーベースより)

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