テレビをつけると日本の選手が各国を相手に善戦していた。観客の声援があまり聞こえない静かな試合ながらも、アスリートの迫力に思わず息をのむ。
紆余曲折を経てオリンピックは開催されたが、紙面の選手の健闘を称える記事をめくると、一転して表れるコロナの深刻さを伝える内容は、国民感情を浮き彫りにしているようだ。
「平和の祭典」の意味を改めて考えさせられる。
米軍基地を襲撃した夜、故郷いちばんの英雄が消えた。英雄の帰還を待ち望みながら沖縄を取り戻すため立ち上がる、グスク、ヤマコ、レイ。長じて警官となり、教師となり、テロリストとなった幼馴染たちは、米軍統治下の時代のうねりに抗い、したたかに生き抜こうとする。直木賞始め文学賞三冠達成の傑作!(「BOOK」データベースより)
いや、タイミング!物語(戦争)とオリンピック(平和)の落差よ。今読むべきじゃなかった…情緒がぐちゃぐちゃです。出版社はあえてこのオリンピックの時期にこの作品の文庫発刊をぶつけてきたのだろうか?と勘ぐってしまう。
私が学生の頃は、今よりももっと学校やテレビで戦争の話を耳にする機会があったので(修学旅行も広島だったし)、ある程度知っている気ではいたが、実際のところはまるでわかってなかったようだ…
本土に住んでいて、平和ボケした頭ではピンとこないが、物語を通して沖縄人の立場で戦後を体験すると、沖縄に基地があるという事は、あぁ、日本は侵略されてたんだなというのが実感できる。
この物語は史実を交えているので、登場人物は実際こういう人がいたんではないかと思う位とてもリアル。(実在する人物も出てきます。)そして史実はむしろ戦後の沖縄の様子はあえて積極的に伝えなかったんじゃないかと思う位悲惨。日本政府は沖縄人の味方ではなかったのさ。(本の影響を受けている)
物語自体は、色々な謎があり、登場人物も複雑に絡み合うし、皆強くてかっこいい。(完全なフィクションだったら、インテリの小松さんタイプなんだけどな。グスクみたいな日頃温厚なのに、戦ったら強いとかも大好き。一途だしね。)ハードボイルドは得意ではないが、これは面白く読めた。史実の部分は吐きそうになったけれど…
沖縄の言葉も調べながら読むのは大変だったけれど、後半になると、味が出てきてよかった。少しだけ載せておくので参考にしてください。
あがひゃ :痛い
くるさりんど:殺してやるぞ
ちゃっさん :沢山
かしまさんど:うるさい、煩わしい、めんどくさい
たっくるせ :殺せ
たっぴらかせ:潰せ
あきさみよう:あらまあ(驚いたときやあきれたときに思わず口にする、英語の「Oh my god!!」的な言葉)
ハイサイ :沖縄方言で、時間帯に関係なく用いる軽いあいさつの語。やあ。こんにちは。
作者が沖縄出身の方でないことにびっくりです。
読む人を選ぶかもしれないが、日本人ならこの歴史を知って欲しい。
著者:真藤順丈(シンドウジュンジョウ)
1977年東京都生まれ。2008年『地図男』で、第3回ダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞しデビュー。同年『庵堂三兄弟の聖職』で第15回日本ホラー小説大賞、『東京ヴァンパイア・ファイナンス』で第15回電撃小説大賞銀賞、『RANK』で第3回ポプラ社小説大賞特別賞をそれぞれ受賞。2018年に刊行した『宝島』で第9回山田風太郎賞、第160回直木三十五賞、第5回沖縄書店大賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データベースより)