傑作はまだ 瀬尾 まいこ

瀬尾まいこ
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~本屋大賞受賞作『そして、バトンは渡された』と対になる家族の物語~

こんにちはくまりすです。今回は本屋大賞受賞作家瀬尾まいこの「傑作はまだ」をご紹介致します。

story:

「永原智です。はじめまして」。そこそこ売れている50歳の引きこもり作家の元に、生まれてから一度も会ったことのない25歳の息子が、突然やってきた。孤独に慣れ切った世間知らずな加賀野と、人付き合いも要領もよい智。血の繋がりしか接点のない二人の同居生活が始まるー。明日への希望に満ちたハートフルストーリー。(「BOOK」データベースより)

親子

小説家の加賀野は独身の一人暮らし。特に何の不自由も感じず、引きこもり生活を満喫していた。そんなある日、一度の過ちでできた息子、智がやって来た。父親としての責任は養育費を渡すことで果たしていた加賀野は、初めて会う息子に戸惑う…。

実の父親に言うのはおかしいけど、やっぱりはじめましてで、いいんだよね?

初めて会話を交わす息子にただ戸惑うばかりの加賀野。
確かにそんなシチュエーションになったら、どう答えたら良いのか分かりませんね。
加賀野は息子の名前も呼べず「君」と言ってしまいます。

「普通は感動したりするもんだろ?二十五年間合わずにいた息子が来たんだぜ?すべて俺が悪かったって言って泣いて詫びたり、今からなんだってしてやるって熱い抱擁を交わしたり、そういうの無いの?」

聞きたいこと聞くべきことは沢山あるはずなのに、具体的な言葉が出てこない。それは、息子に戸惑っているからなのか、興味が沸かないからなのか、長い引きこもり生活の中で社会人としての人とのかかわり方を忘れてしまったせいなのか。

「俺の生い立ち聞いちゃう?」
「もし、俺が凄い不幸だったらどうする?おっさん、いたたまれないと思うよ」

息子はどんな人生を歩んできたのでしょうか。長すぎた空白の時間をどう埋めればいいのでしょうか。さばさばと話す息子の心の内は読みにくい。
父親の役割とは?家族とは?息子が会いに来た理由とは?
様々な疑問が頭をよぎります。

社会

「おっさん、危機回避能力ゼロだな」
「おっさん、地震や災害が起きたらどうすんの?」

智は自治会の会費を勝手に立て替えてしまいました。しかし、人づきあいをめんどくさがる加賀野。そんな父親の姿に息子はあきれながらも自治会に入る必要性や人と交流することの大切さをを解きます。

「人と話さなくても小説書けるってすごいな。」
「おっさん、もっと外に出ないと。百冊の本を読むより、一分、人と話す方が十倍の利益があるって、かの笹野幾太郎氏も言ってるだろう。」

あまり社交的ではない慎重な性格の父親と違い、息子はあっという間に人の懐に飛び込んできます。その人当たりの良さと軽さは自分ではなく彼の母親に似たのだと加賀野は考えました。

「けど、おじさんのどうしようもないところは、その想像力のなさだ。」

息子が働くコンビニの店長にそう言われてしまいショックを受ける加賀野ですが、その意味がどうしても分かりません。
想像力を駆使して物語を書いている自分に想像力がないとはどういう事だろうか?

息子が来てから社会と触れ合う機会が増えた加賀野は、身近な人との交流を描いた小説を書こうと思うようになりました。しかし、編集者はそんな彼に「らしくない」と言い、今の若者の心の闇について書くように提案します…。

感想

「誰のおかげで飯が食えてると思ってるんだ」
一昔前は一家の大黒柱として家族を養うのが父親の責任でした。家事育児は母親の役目で、現代はそういう状態をワンオペ育児と言い、いろいろな社会問題や精神疾患に繋がる要因とされているそうです。

仕事が忙しいため子供との時間が持てない、もしくは子供との関り方が分からない、義務感ばかりが先に立ち父親を楽しめない。そんな父親という立場に戸惑いがある人も多いのではないでしょうか。

母親の過干渉を描いた小説はたくさんありますが、この物語はそんな子供への無関心、没交渉な父親の姿に重点を置いています。
著者の瀬尾まいこの本屋大賞受賞作『そして、バトンは渡された』は、「血」のつながらない家族の優しさを描いてベストセラーになり、映画化もされました。
これはその対極となる「血」の繋がりだけの関係しかない親子の物語。

親子でもない、他人でもない二人の微妙な距離感。しかし、実際こんな感じの親子は多そうですね。
以前「暗い感情や悲しい出来事を書くよりかは、読んだ人がちょっとでもいい気持ちになれるような作品を書きたい」と言っていた著者。この物語もストーリに暗い雰囲気は全くなく、軽快な父子のやりとりにほっこりさせられました。

著者:瀬尾まいこ(セオマイコ)
1974年大阪府生まれ。大谷女子大学文学部国文学科卒業。2001年「卵の緒」で坊っちゃん文学賞大賞を受賞し、翌年、単行本『卵の緒』でデビュー。05年『幸福な食卓』で吉川英治文学新人賞を、09年『戸村飯店 青春100連発』で坪田譲治文学賞を、19年『そして、バトンは渡された』で本屋大賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データベースより)

コチラも人気:瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』👇

幼い頃に母親を亡くし、父とも海外赴任を機に別れ、継母を選んだ優子。
その後も大人の都合に振り回され、高校生の今は二十歳しか離れていない“父”と暮らす。
血の繋がらない親の間をリレーされながらも、出逢う家族皆に愛情をいっぱい注がれてきた彼女自身が伴侶を持つときーー。解説・上白石萌音(出版社より)

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