残像に口紅を 筒井 康隆

筒井康隆
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今話題のSF小説!

こんにちは、くまりすです。今回は人気急上昇の小説「残像に口紅を」を紹介いたします。

1995年に文庫本が出版された小説「残像に口紅を」が、書店で売り上げ1位を記録し、アマゾンや楽天などの通販サイトでもランクインしている。

何故、今売れているのか?

最初はTikTokという無料動画アプリで、1人ユーザーが「本の紹介」を投稿したことから始まった。

もし、この世から“あ”という言葉が消えてしまったら、どんなことが起きると思いますか?

若年層も多いTikTokユーザーが興味を持ち、拡散されるのもあっという間だったようだ。

同書は以前にもTVでカズレーザーさんに紹介され、多くの反響を呼んだ。

世代を超えて人気があるSF小説「残像に口紅を」はどんな物語なのだろうか?

story

「あ」が使えなくなると、「愛」も「あなた」も消えてしまった。世界からひとつ、またひとつと、ことばが消えてゆく。愛するものを失うことは、とても哀しい…。言語が消滅するなかで、執筆し、飲食し、講演し、交情する小説家を描き、その後の著者自身の断筆状況を予感させる、究極の実験的長篇小説。(「BOOK」データベースより)

メタフィクション

著者の筒井康隆は、メタフィクションという表現手法で有名な作家である。

メタフィクションとは、フィクションの世界と現実世界の境界を曖昧にする手法のこと。

例えば、大河ドラマ「青天を衝け」で「こんばんは、徳川家康です」と徳川家康が、視聴者に向かって話しかける場面がある。また、手塚治虫の漫画に手塚治虫自身が登場する。これらはメタフィクションの一つである。

この小説は、ある作家自身の日常を書くものだが、彼自身が主人公となっていて、小説の中でそれが虚構(フィクション)であるとわかっている。

なので主人公はこの世界のルールを知っている。言葉が出てこないぞ、あぁ、また一つ言葉がなくなったのか、と落ち込み、他の言葉に言い換えるのである。

言葉遊び

この物語のルールは、「あ」が使えなくなると、「あ」のつく言葉「愛」も「あなた」使えない。

ただ、日本語の面白いところは、一つの言葉でも様々な呼び方がある。
例えば「私」だと、「わたし」「わたくし」「わたい」「わて」「わし」「わい」「やつがれ」「おれ」「ぼく」「おいら」「手前」「余」「予」「我輩」など、多様な言い換えが出来る。

主人公は作家であり、ボキャブラリーが豊富で、わりかしすらすら話せるが、喫茶店のウェイトレスなどは知っている言葉が少なく、それに代わる言葉が思いつかない為、何も言えなかったりする。

とても面白いが、それで小説は成り立つのだろうか?

小説の初っ端から「あ」が使えないので、「愛」以外にも、「あ」を含む言葉「青」「赤」の色なども使えないし、「朝」や「雨」など風景を表す言葉も使えない。

「ご」が使えなくなれば、「午前」や「午後」を別の表現に置き換えなくてはいけない。

自分ならどう言い換えるのか考えながら読むのも面白い。

感想

日本語は語彙量の多く、丁度それに合った的確な表現が出来るのが素晴らしいところだが、ちょっとしたニュアンスの違いで、受け取る方からするとだいぶ印象が変わる。

作品の中でも、主人公は近しい人物に対して「あれ?こんな男だったかな」と首をかしげるシーンがあるが、それは使える言葉が減ったことによるイメージの変化だったりする。

私の周りに、道を聞かれた時「この道をず~っと行って、右に曲がってシュッて入ったとこ。知らんけど。」みたいな関西人特有の答え方する人が多かった。上方文化から来るものらしいのだが、擬音語を多用するとちょっと幼く聞こえる。

因みに「知らんけど」は本当に知らないわけではなく、多分、とか確信が持てないけど、という意味も含まれていたり、冗談ぽく言ったつもりだったり、親しみを込めたつもりだったりするのだけれど、まぁ、関西圏以外の人には伝わらないよね。 😀

言葉遣いはその人の人格や、人間性を表しているともいえる。

もし使える言葉が減ったら、日本語の美しさも繊細さも失われてしまうのではないだろうか。

著者:筒井康隆(ツツイヤスタカ)
1934(昭和9)年、大阪市生れ。同志社大学卒。’60年、弟3人とSF同人誌“NULL”を創刊。この雑誌が江戸川乱歩に認められ「お助け」が“宝石”に転載される。’81年、『虚人たち』で泉鏡花文学賞、’87年、『夢の木坂分岐点』で谷崎潤一郎賞、’89(平成元)年、「ヨッパ谷への降下」で川端康成文学賞、’92年、『朝のガスパール』で日本SF大賞をそれぞれ受賞。’96年12月、3年3カ月に及んだ断筆を解除。’97年、パゾリーニ賞受賞。2000年、『わたしのグランデ』で読売文学賞を受賞。’02年、紫綬褒章受章。’10年、菊池寛賞受賞。’17年、『モナドの領域』で毎日芸術賞を受賞。他に「家族八景」『敵』『ダンシング・ヴァニティ』『アホの壁』『現代語裏辞典』『聖婚』『世界はゴ冗談』『ジャックポット』等著書多数(「BOOK」データベースより)

 

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