さざなみのよる 木皿 泉

木皿泉
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なんだ、私、けっこういい人生だったじゃん

こんにちは、くまりすです。今回は「野ブタ。をプロデュース」の夫婦脚本家木皿泉本屋大賞ノミネート作品さざなみのよる」をご紹介いたします。

story

富士山の間近でマーケットストア「富士ファミリー」を営む、小国家三姉妹の次女・ナスミ。一度は家出をし東京へ、のちに結婚し帰ってきた彼女は、病気のため43歳で息をひきとるが、その言葉と存在は、家族や友人、そして彼女を知らない次世代の子どもたちにまで広がっていく。宿り、去って、やがてまたやって来る、命のまばゆいきらめきを描いた感動と祝福の物語。(「BOOK」データベースより)

人は死んだら終わり…ではない

ナスミは43歳でがんを宣告され、残り少ない人生を病室で過ごしていた。病気になって初めてわかった家族の大切さ、何でもない日常がどんなにすばらしい事かということ。ナスミの想いが淡々と綴られていく…

死が迫ってきた時、人はどんな気持ちになるのでしょうか?

嫌いなヤツは嫌いなヤツのまま、自分の中では変わることなく死んでゆくのだと思っていた。それなのに不思議な話なのだが、そんな人たちにも今はありがとうというコトバしか浮かばない。

もともと人間なんて、思い通りにならないのに。それがわかったのは病気になってからだ。

毎日の同じしぐさにこれほど心が慰められるとは、思いもしなかった。

ナスミは生きたいと思う気持ちと、もういいやという気持ちを繰り返していくうちにある日、自分が考えていたより百倍幸せだったことに気づきます。

そして、その想いは周りの人達にも伝わって、彼女が生きていた証を受け取り、やがて受け継がれていく…

あの世とこの世を結ぶ窓。母さんがそこから台所を見下ろせる。私も死んだらあそこから誰かが台所で何かこしらえてるの、見ることができるし

母の形見のダイヤを台所の柱に埋め込んでくれと笑子ばあさんに渡し、ナスミは死んだ後も家族を見守るのだと伝えた。

心に響く言葉

この物語は、ナスミと彼女の死に向き合う人々それぞれのオムニバスの物語。ナスミの何気ない言葉や行動によって、彼らは多くの事に気づき、勇気づけられる。また彼女がどれほどかけがえのない存在であったかを彼らは改めて実感します。その中に胸を打つ言葉であったり、考えさせられる言葉が沢山ありました。

あげたり、もらったり、そういうのを繰り返しながら生きてゆくんだ

今頃になってようやく、結婚は両親にとってのゴールに過ぎないと気づいたのだ。なのに、自分のゴールだと思い込まされていた。

自分の中に、家族から眉をひそめられそうなものがあって、それらを、吐き出さずに生きてきたのだと気づく

腑に落ちるという言葉があるように、長年のもやもやがストンと自分の中で納得できるような理由や原因を見つけた瞬間がある。何気ない言葉だったり、生き様だったり、自然と受け入れられる何かをくれる、自分らしい一歩を踏み出す気づきをくれる、ナスミはそんな人でした。

私がもどれる場所でありたいの

自然体で周りの目を気にせずに、自分に正直に生きていたナスミの思い出から、彼女の周りの人々は多くのものをナスミからもらっていたのだと気づきます。そして、それは彼ら中で受け継がれて息づいている。

感想

仕事一筋で頑張ってきたサラリーマンが定年後、自分の時間が出来ても何をしたらいいかわからず、一日中テレビを見ていたり、ショッピングモールの椅子で寝ていたりして過ごすのだという話を聞いたことがあります。

消費社会の現代は、生きていくのに必要なものだけでなく、文化的なものも積極的に消費が行われているはずなのに、生活や人生の充実感は感じにくくなってきているのではないでしょうか。
また、日本人は家族とのコミュニケーションも海外と比べるとあまりとっていないとのこと。

昨年、コロナ離婚なんて言葉が誕生しましたが、普段家にいるはずのない人がいることでストレスがたまるのだとか、ずっと一緒にいることがストレスなんだとか、そういった理由が上がること自体が、今の日本の家族関係を表していると言えるでしょう。

病室のベッドの上でようやく自分の人生を振り返ったり、家族の存在を改めて考えたりしても人生もったいない気がしますよね。

著者は、今の消費社会の価値観に警鐘を鳴らすためにこの小説を書いたそうです。どんなものでも価値観が薄くなり、すぐに消耗してしまう社会。人生や人間の価値観まで消耗しないように。

この物語の至る所に散りばめられている著者からのメッセージが、心に染みわたります。

著者:木皿泉(キザライズミ)
1952年生まれの和泉務と、57年生まれの妻鹿年季子による夫婦脚本家。03年、初の連続ドラマ「すいか」で向田邦子賞受賞、同作でギャラクシー賞受賞。また、初めて手がけた小説『昨夜のカレー、明日のパン』は2014年本屋大賞第2位、山本周五郎賞にもノミネートされ、のちに自身の脚本で連続ドラマ化もされた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データベースより)
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