常設展示室 原田 マハ

原田マハ
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絵画と人生が交差する6つの物語
~ほんとうの感動は作品を観終わったあとについてくる~

こんにちは、くまりすです。今回は美術館の勤務経験を持ち、アート小説で名高い原田マハの「常設展示室」をご紹介いたします。

story

いつか終わる恋をしていた私。不意の病で人生の選択を迫られた娘。忘れられないあの人の記憶を胸に秘めてきた彼女。運命に悩みながら美術館を訪れた人々の未来を、一枚の絵が切り開いてくれたーー足を運べばいつでも会える常設展は、今日もあなたを待っている。ピカソ、フェルメール、ラファエロ、ゴッホ、マティス、東山魁夷……実在する6枚の絵画が物語を豊かに彩る、極上のアート短編集(出版社より)

目次:
群青The Color of Life/デルフトの眺望A View of Delft/マドンナMadonna/薔薇色の人生La vie en rose/豪奢Luxe/道La Strada(「BOOK」データベースより)

絵画に込められた想い

一章「群青/The Color of life」:
小さい時から美術館が大好きだった美青は、念願のメトロポリタン美術館のアシスタントキュレーターの職を得て、ニューヨークで充実した毎日を送っていた。しかし、ある時から階段を踏み外したり、壁にぶつかりそうになったりすることが多くなり、ドクターに診てもらうことにしたのだが…

キュレーターというのは日本でいう学芸員に近いものですが、展示の企画・構成、博物館の運営などその業務は多岐にわたります。数多くの美しい絵画を観てきたその感性を存分に生かすことが出来る仕事であり、アシスタントキュレーターを経てからでないとなれない館内階級が高い役職でもあります。
また、メトロポリタン美術館はニューヨークにある世界最大級の美術館で、恐ろしく狭き門。それを突破した美青はまさしく夢の第一歩を踏み出したばかり。

診察に行った美青は、ピカソの絵が載っている本を食い入るように見ていた弱視の女の子に出会った。その絵のどこが好きなのかを尋ねたら、女の子は意外な感想を述べた。

大きな色

ピカソの絵をどれくらい知っているかと言われると数えるほどしか思い浮かばなくても、絵の描写からきちんと雰囲気が伝わってきて、どんな絵なのか興味がわいてきます。また、その絵に込められた画家の想いや、その時代を生きた人々の息遣いも感じられる。

そして、絵画は絵はもちろん色彩でもその心情を表現します。その感じ方は観る者の心を映すのではないでしょうか。
この小説の6つの物語はそんな名画が目の前に浮かび、実際に鑑賞しているかのような気持ちになれる絵画と心の旅の物語。

世界の美術館巡り

世界最大級のメトロポリタン美術館、古城そのままのマウリッツハイス美術館、フィレンツェのピッティ宮殿内にあるパラティーナ美術館…物語に出てくる美術館は、世界的にも有名な、誰もが一度は行ってみたいと思う素敵な美術館ばかり。

展示されている絵画はもちろん素晴らしいものばかりですが、建物も芸術的で、それはその国の歴史を象徴しているものでもあります。
ヨーロッパの貧困人々の暮らしルネサンス、その時代に描かれた絵と歴史ある建造物がその時代の空気感を醸し出しています。

絵画を見るのに、例えば歴史的背景だったり、絵の技巧だったり、そういう知識が必要なんじゃないかと身構えてしまいがちですが、著者は絵の見方を教えてくれる
芸術は理屈よりも、それに触れて何を感じるのかが大切

まるで世界の美術館めぐりをしているかのような描写にうっとりします。

感想

常設展示室とは美術館や博物館などで、期限を設けず、いつも見ることができる展示の部屋のこと。誰でも知っている有名な画家の絵を常設展示をしているところは、大きな歴史のある美術館です。

私は、あまり西洋美術には詳しくないので、この物語に出てくる美術館を写真で見たり、画家や絵画を検索したりしながら読みましたが、本当に素敵な世界が目に浮かび、読み進めていくうちに実際にこの目で見たくなりました。

ピカソの「青青の時代」の青は西洋では元々「神の色」「高貴な色」として使われてきた色。その青色でメランコリックな表現を描いたピカソのセンスが素晴らしい。などというような解説を読みながら物語の世界に入ると本当にその絵を観ているようで、絵画の鑑賞は奥深いと改めて感じました。

ほんとうの感動は作品を観終わったあとについてくる。(中略)観た人の一日を豊かにし続ける。それが名作というものだ。

運命の絵、一度見たら忘れられない絵に出会うために美術館へ足を運んでみようかしら。

著者:原田マハ(ハラダマハ)
1962(昭和37)年、東京都生れ。関西学院大学文学部日本文学科、早稲田大学第二文学部美術史科卒業。伊藤忠商事株式会社、森ビル森美術館設立準備室、ニューヨーク近代美術館勤務を経て、2005(平成17)年『カフーを待ちわびて』で日本ラブストーリー大賞を受賞し作家デビュー。’12年『楽園のカンヴァス』で山本周五郎賞、’17年『リーチ先生』で新田次郎文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データベースより)
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