久米正雄作品集

新思潮
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天才、芥川龍之介の友人であり、ライバル
~僕は彼の本丸近くまで知悉(ちしつ)している方である~

こんにちはくまりすです。今回は、久米正雄作品集を紹介いたします。文豪久米正雄の交友関係は広かったそうで、作品の中にも様々な文豪が登場します。

そもそも久米正雄を知っている人は少ないかもしれない。知っていても芥川龍之介の仲の良い友人という程度なのではないかと。

そういうわけで、久米正雄の紹介もかねて本書を紹介いたします。

story

久米正雄は大正文学を語る上で欠かせない作家である。芥川、菊池らと共に「新思潮」に集い、様々な個性が競い合う文壇に新鮮な風を吹き込み、注目を集めた。「受験生の手記」「競漕」等の青春小説、絵画的で市井の一端を浮かびあがらせた俳句、多方面の才が反映された微苦笑を誘う随想など、多岐にわたる久米作品を精選する。

目次:
小説(父の死/手品師/競漕/流行火事/受験生の手記/金魚/桟道)/随筆(芥川龍之介氏の印象/私小説と心境小説/あの頃の話 ほか)/俳句(牧唄句抄/句集・返り花(抄))

久米正雄といえば、芥川龍之介菊池寛松岡譲らと同人誌「新思潮」を創刊し、新思潮派と呼ばれたことで有名な作家です。

久米正雄は長野県に次男として誕生、父が逝去し、母方の実家福島で育った。
安積中学校(現高校)在学中に河東碧梧桐の論文に刺激され、俳句を始める。次第に俳句が掲載されるようになり、一躍脚光を浴びた
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第一高等学校で、芥川龍之介菊池寛松岡譲らと知り合う。

久米正雄から見た芥川龍之介の印象

容貌は美男子だとは思わないが秀才面ではある。ああいう小説を書きそうな面ではある。
何でも相応にやれる男で、妖怪画はゴヤ的、三木露風よりもうまい詩を作り、斎藤茂吉張りの詩も詠む。つまり、「出来ない」や「知らない」を言いたくない男。だから、勉強する。読書する。一日でも本を離すと死んでしまうのではないかと思うほど読書家である。
「昔は僕も、ちょくちょく演劇や絵画の点で啓発してやっていた。」が、芥川は「いつの間にかそれらをマスタアして、僕の方へ逆輸入するほどエラクなっている。」(本書:「芥川龍之介氏の印象」より)

結構べた褒めですね。そして、昔は僕だっていろいろ教えていたんだよ、というちょっと負け惜しみな所がかわいいです。そう、学生時代は新聞に「学生徒歩旅行」の感想が掲載されるなど、久米正雄の方が目立っていたんです。芥川龍之介はパッとしなかった。
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俳句というジャンルに限界を感じる(本書に多くの俳句が掲載されています。私は俳句はわからないですが、直感でお気に入りの一句をどうぞ)

「兄よりも禿げて春日に脱ぐ帽子」

東京帝国大学在学時、同人誌「(第三次)新思潮」創刊
演劇に関心を持つ(山本有三の影響)
戯曲「牧場の兄弟」が上映される。山本有三曰く「これに比肩するものは、武者小路実篤君の「その妹」くらいであらう」他、坪内逍遥らが褒めた。(解説より)
当時、戯曲創作が若い世代の文学者の間で人気だったそうです。
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第四次新思潮を創刊・芥川龍之介「鼻」久米正雄「父の死」を掲載

ここまで絶好調だった久米正雄。ここで芥川龍之介に形勢逆転され、一気に引き離されます。
これは夏目漱石に自分たちの原稿を読んで欲しいがために創刊したものらしいが、漱石芥川の「鼻」を褒めたが、久米の「父の死」については褒めなかった。以下夏目漱石から芥川龍之介宛てた手紙の内容

新思潮のあなたのものと久米君のものと成瀬君のものを読んで見ましたあなたのものは大変面白いと思います落着があって巫山戯(ふざけ)ていなくて自然其儘(そのまま)の可笑味(おかしみ)がおっとり出ている所に上品な趣があります夫(それ)から材料が非常に新しいのが眼につきます文章が要領を得て能(よ)く整つています敬服しました。ああいうものを是から二三十並べて御覧なさい文壇で類のない作家になれます然(しか)し「鼻」丈(だけ)では恐らく多数の人の眼に触れないでしょう触れてもみんなが黙過するでしょうそんな事に頓着しないでずんずん御進みなさい群衆は眼中に置かない方が身体の薬です

久米君のも面白かったことに真実という話を聴いていたから猶(なお)の事興味がありました然(しか)し書き方や其他の点になるとあなたの方が申し分なく行っていると思います成瀬君のものは失礼ながら三人の中で一番劣ります是は当人も巻末で自白しているから蛇足ですが、感じた通りを其儘(そのまま)つけ加えて置きます【文豪とアルケミスト文学全集より】

夏目先生はずいぶんはっきりと、そして容赦ないのね。久米正雄の「父の死」は実話です。本書にも載っています。
私自身はこの話好きですよ。子供の頃に感じた得体の知れない不安な気持ち、子供の繊細な心の描写が、夕日の暮れていく日の入りきらない部屋とシンクロした表現など良かったと思いましたけれども…バッサリいきましたね。成瀬君のは、そこまで言われると逆に読んでみたい気もします。
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夏目漱石の急死。夏目漱石の娘と破局。夏目漱石の娘は友人松岡譲と結婚。

踏んだり蹴ったりとはまさにこのこと。

問題作「破船」を発表

勝手に問題作にしていますが、これは夏目漱石の娘と破局を書いた実話の通俗小説。「破船」は本書には載っていなかったのですが、かなりいろいろ悪口を書いたみたいで…。これで世間の同情を集めた。不幸にも、この作品がベストセラーとなり、久米の代表作となった。(本書、解説より)
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ゲイ倶楽部

以後、随筆に多くの文豪が書いている震災の話「震水火の只中に」「母を見るまで」「追憶の東京」(一番性格が出ているところだと思います。面白かった。それにしても菊池寛、この状況でそれ思う?そういう所嫌いじゃない)

何故か、丸々吉井勇について書いた「あの頃の話」(いったいどういう関係ですか?)

あと、「麻雀の話」「私の社交ダンス」など趣味の話

里見弴や、横光利一菊池寛広津和郎国木田独歩の息子などとの思い出ゲイ倶楽部の話「文士野球団の思い出」
(ゲイは英語のGayで、心愉しく「芸」に通じるというコンセプトなのですよ。誤解のないように。)

などなど、この作品集は芥川龍之介自殺以前のものがほとんどです。以後の作品はなぜ載っていないのでしょうか?(純文学だけを集めたって事?彼が、自嘲しながら書いた通俗小説も読みたいぞ)

本書に載っている小説は彼が絶好調の時のものばかりなので、きちんとしたものです。
(小説「競漕」で佐藤春夫に「文才は芥川菊池以上かもしれない」と褒められたんだって。(解説より)確かに小説は芥川龍之介に似たような何かを感じます。この「競漕」も私は好きです。自身の実体験を基にした青春小説です。)

随筆はちらちらと、あちこちに出てくる谷崎潤一郎が気になって仕方ありません。

俳句については私はわかりません。

本書は久米正雄の人生前半を知ることが出来る資料でもあるのではないでしょうか。そして、新思潮が好きな私は彼が芥川龍之介を大切に思っていたんだと知って満足です。

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