むらさきのスカートの女 今村 夏子

今村夏子
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~〈わたし〉が望むものは何なのか?話題沸騰!19万部突破の芥川賞受賞作~

こんにちはくまりすです。今回は芥川賞受賞作品、今村夏子むらさきのスカートの女』をご紹介いたします。

story:

「むらさきのスカートの女」と呼ばれる女性が気になって仕方のない〈わたし〉は、彼女と「ともだち」になるために、自分と同じ職場で彼女が働きだすよう誘導し……。ベストセラーとなった芥川賞受賞作。文庫化にあたって各紙誌に執筆した芥川賞受賞記念エッセイを全て収録。(出版社より)

「むらさきのスカートの女」

近所に「むらさきのスカートの女」と呼ばれている人がいるらしい。彼女はいつもむらさき色のスカートを穿いていて、肩まで伸びた黒髪はツヤがなくぱさぱさしている。特技は、自分の歩みのペースを変えずに人混みをすり抜けていくこと。近所の子供たちの間では、じゃんけんで負けた人が「むらさきのスカートの女」にタッチをしなければいけないという遊びまで流行っている。とにかく不思議な魅力で存在感を放っているのだ。

もし街で「むらさきのスカートの女」にすれ違ったら、思わず目で追うか、横目でチラッと盗み見てしまうかもしれませんね。確かに人目を引きますが、その存在感が良いものかと言われると、ちょっと違うような気がします。

「むらさきのスカートの女」はまた面接を受けに行った。(中略)食品関係の面接は爪や髪の毛を見られるに決まっているのに。髪はぱさぱさのボサボサ、爪は真っ黒の女が受かるわけがない。きっと落ちるだろうと思っていたら、やっぱり落ちた。

常識が欠け、社会性から孤立している「むらさきのスカートの女」。石けん工場や肉まん工場など面接に落ち続けますが、ようやくホテルの清掃の職に就くことに。

塚田チーフに肩を叩かれ、「むらさきのスカートの女」はここでも小さな声で「はい」と言った。と同時に、フフッと笑みを漏らした。(中略)意外なことに、「むらさきのスカートの女」は愛想笑いをしたのだ。

始めて見る「むらさきのスカートの女」のコミュニケーション。と言ってもほんの些細な事なのですが、愛想笑いをした事に驚いてしまいます。
しかし、今までの事を考えると「むらさきのスカートの女」がきちんと仕事をしている姿が想像できません。どうなるのかと期待と不安に胸が膨らみます。しかし、予想に反して「むらさきのスカートの女」は思いもかけない変貌を遂げていくことに…。

「黄色いカーディガンの女」

この物語の語り手は「黄色いカーディガンの女」として「むらさきのスカートの女」の奮闘する姿を見守ります。彼女は「むらさきのスカートの女」と違い、商店街を歩いたところで誰も気にも留めません

ちなみに、「むらさきのスカートの女」の家ならとっくの昔に調査済みだ。

「ただし年中働いているわけではない。「むらさきのスカートの女」は時期によって働いたり働かなかったりする。(中略)どんな感じかこれまでのメモで振り返ってみると…(後略)」

偏執的な所も垣間見える「黄色いカーディガンの女」。彼女は「むらさきのスカートの女」に執着します。

「むらさきのスカートの女」と友達になりたい。でもどうやって?」
「わたしとしては、まずはちゃんと自己紹介をしたいと思う(中略)同じ職場に勤める者同士なら、それが可能だと思うのだ」

手順を踏みたい「黄色いカーディガンの女」。彼女は友達になるために作戦を練って「むらさきのスカートの女」を誘導します。
その仕掛けが功を奏し、同じ職場で働くことになった二人ですが物語は思わぬ方向へ…。

感想

「むらさきのスカートの女」と「黄色いカーディガンの女」。どちらも奇天烈なキャラクターで目が離せない。
しかし、最初こそ面白く二人を観察しながら読みますが、違和感がどんどん膨らんでくると恐怖の方が優ってくる。この違和感は何処からなんだろうかと、よくよく考えてみると最初からおかしいことに気づかされます。

「黄色いカーディガンの女」は「むらさきのスカートの女」と友達になりと思っています。それにもかかわらず、「むらさきのスカートの女」の人となりをほとんど語っていません。また、自分のルールを優先し、相手の気持ちに興味はありません。
淡々とした語り口がさらに不気味な印象を与えます。

物語の根底にある社会問題やそれによって及ぼされる人間の心理。人は、本音をはっきりと口には出しませんが、なんとなく言葉の端々に見え隠れするものですよね。語り手の言うことはどこまで信用できるのでしょうか。そして、彼女が真に望んでいるものは何なのでしょうか。

コミカルなキャラクター、先の見えない展開と幾つもの謎は、ミステリーを読んでいる感覚にもなります。
この小説は芥川賞受賞作品なため純文学というカテゴリーですが、読み方によってはミステリーやホラーとしても楽しめる部分がありました。

著者:今村夏子(イマムラナツコ)
1980年広島県生まれ。2010年「あたらしい娘」で太宰治賞を受賞。「こちらあみ子」と改題し、同作と新作中短編「ピクニック」を収めた『こちらあみ子』で11年に三島由紀夫賞、17年『あひる』で河合隼雄物語賞、『星の子』で野間文芸新人賞、19年『むらさきのスカートの女』で芥川賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)([BOOK」データベースより)
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