生のみ生のままで 綿矢 りさ

綿矢 りさ
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~「最初からずっと好きだった」女性同士の鮮烈なる恋愛小説。島清恋愛文学賞受賞作~

こんにちは、くまりすです。今回は歴代最年少芥川賞受賞作家、綿矢りさの『生のみ生のままで』をご紹介いたします。

story:

25歳、夏。逢衣は恋人の颯と出かけたリゾートで、彼の幼馴染とその彼女・彩夏に出会う。芸能活動しているという彩夏は、美しい顔に不遜な態度で、不躾な視線を寄越すばかり。けれど、4人でいるうちに打ち解け、東京へ帰った後も、逢衣は彼女と親しく付き合うようになる。そんな中、彼との結婚話が出始めた逢衣だったが、ある日突然、彩夏に唇を奪われー。女性同士の情熱的な恋を描く長編。(「BOOK」データーベースより)

現代の東京ラブストーリー

あの日あの時あの場所で君に会えなかったら
僕らはいつまでも見知らぬ二人のまま

作中に登場する音楽は小田和正の「ラブストーリーは突然に」。人気ドラマ『東京ラブストーリー』の主題歌として作られたこの曲は、当時「運命の恋」の歌として町中至る所で流れ、耳にしない日はないほど流行しました。今では誰もが知る名曲であり、歌詞を見れば自然と口ずさむ人も多いのではないでしょうか。

運命の恋は時と場所関係なく突然やってくるもの。
逢衣彩夏の恋も偶然がきっかけでした。
学生時代から好きだった彼・颯と付き合い、幸せをかみしめる逢衣。彼女は颯から旅行先で偶然会った彼の幼馴染、琢磨を紹介されます。その琢磨が連れていた恋人、その人こそが彩夏でした。丁寧に挨拶する逢衣に対して、彩夏は返事もせずサングラス越しに逢衣をじっと見ているだけ。

ねえ。単刀直入に訊くけど、琢磨さんと別れ話してるんだって?

ある出来事をきっかけに打ち解け、友人として交流を重ねる二人。そんな時、他に好きな人が出来たという彩夏に驚く逢衣。しかも彩夏は突然、思いもかけない行動をとります。

顔を上げた彩夏の瞳が廊下からの僅かな明かりに照らされて、乱れた髪の隙間から私を見つめた。怖いくらいに真剣な表情の意味が分からず、思わず顔を覗き込む。
腕を伸ばした私の後ろ首を掴んだ彩夏が急に私に覆いかぶさってきて、短く息を吸い込んだ後唇を私の唇に強く押し付けた…(後略)

友人に突然キスされたら驚くどころではありませんね。

ねえもう好きで好きで抑えられないよ…」と言う彩夏

なにを言ってるの、この人は?
ふざけるな!こんなの理解できるわけがない。

嫌悪感を露にする逢衣。しかし、二人の関係は思わぬ方向へ…。

感想

大好きな彼との旅の最中に出会った無愛想な同性の女性。この始まりから恋に発展するというストーリーは一昔前には考えられないことでしたが、今読むと違和感はありません。
逢衣と彩夏の恋も、どうなるの?と期待と不安を込めて読み進めてしまいます。

時代を経て、様々な恋愛の形が世の中に受け入れられるようになり、自らの性のアイデンティティを公表する人が増えてきました。社会も彼らを特別な人とは考えず、個性としてとらえる仕組みが確立しつつあります。
しかし、それはあくまで一般論としての話です。家族や友人など身近な人であったり、憧れの人であったりした場合はどうでしょうか?
複雑な気持ちになったり、距離を置いたりするかも知れませんね。

この物語も逢衣は彩夏に対して嫌悪や怒りという感情を抱きますが、これはとてもリアルな反応で理解できます。いくら世の中でLGBTを叫ばれていようとも男女のように何か起こることは考えてはいません。まさに想定外。

逢衣と彩夏の恋の物語は決してファンタジーのような恋愛ではなく、普通の男女の恋愛小説のように描かれています。
同性であるがゆえにぶつかる試練や悩み、周りの反応、そして二人の気持ちなど多くの障害と共に性の描写も多彩で、リアルでいやらしくないエロティシズムがあります。

著者はこの物語を書くにあたって谷崎潤一郎の同性愛の小説『卍(まんじ)』に影響を受けたとのこと。
著者の耽美的表現でもって美しい恋愛を描いたこの物語は、まさに現代をありのまま映し出ているように感じられました。

著者:綿矢りさ(ワタヤリサ)
1984年京都府生まれ。早稲田大学教育学部卒業。高校在学中の2001年『インストール』で第38回文藝賞を受賞し、デビュー。04年『蹴りたい背中』で第130回芥川龍之介賞、12年『かわいそうだね?』で第6回大江健三郎賞を受賞、20年『生のみ生のままで』で第26回島清恋愛文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データーベースより)

関連書籍:彼女が好きなのはホモであって僕ではない 浅原 ナオト👇

こちらは女性よりも男性を好きになってしまう男子高生を描いた小説

Story:
同性愛者であることを隠して日々を過ごす高校生・安藤純は、BL(ボーイズ・ラブ)好きの同級生・三浦紗枝の告白を受け入れ、付き合うことに。しかし、純には身体を許す既婚の中年男性のパートナーがいて…。純、紗枝を応援するクラスメイト、唯一純の苦悩を受け入れ共有してくれるネット上の友人「ミスター・ファーレンハイト」…周囲との軋轢の中、すれ違う二人が導き出した理想の関係とは?決して交わることのない少年と少女が、壊れそうな関係を必死に守ろうとする姿を追う感動の青春群像劇。
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