英国のブライトンをネット検索すると、
「有名人も訪れるというリゾート地で、ブライトンビーチや、世界でも珍しいLGBTの大イベントなど、ブライトンは魅力あふれる街です。」
とか
「街の安全性や暴力犯罪に懸念を示す人々ほとんどいない都市」
とか書かれているのですが、
本書を読んだ限りでは、リゾート地の印象もなければ、安全な都市でも何でもない!
(LGBTは社会問題としてしっかりふれられています。)
このブライトンはブレイディ みかこさんのご家族が住まわれている、英国南部の都市で、この小説の舞台。ガイドブックや、Wikipediaにも載っていない本当の地元民しか知らない社会や、人々の暮らしの現状が赤裸々に記されている。
人種も貧富の差もごちゃまぜの元底辺中学校に通い始めたぼく。人種差別丸出しの移民の子、アフリカからきたばかりの少女やジェンダーに悩むサッカー小僧。まるで世界の縮図のようなこの学校では、いろいろあって当たり前、みんなぼくの大切な友だちなんだー。ぼくとパンクな母ちゃんは、ともに考え、ともに悩み、毎日を乗り越えていく。最後はホロリと涙のこぼれる感動のリアルストーリー。Yahoo!ニュース|本屋大賞2019ノンフィクション本大賞受賞。
この息子さんが大変聡明で、器用で思いやりのある優しい子で、とても人間が出来ているというか中々完璧な子供。このパンクなお母さんからどうして・・・とつっこみつつ。(あっ、パンクなお母さんだからかという結論)日本の大人のほとんどは彼に遠く及ばないんじゃないかという位しっかりしている・・・。
もちろん住んでいる国によって考え方や習慣が異なるのだが、英国との一番の違いは移民の多寡である。
人々も政府もこの多様多種な人間関係がうまくいく方法を模索していて、その一つとして幼児教育から表情、伝える教育を行っているということ。
息子さんが通っている中学でも演劇の授業があり、芸術にふれ、人前で話をすることに慣れ、チームワークやコミュニケーション能力を育むというもの。なるほど。
日本人は協調性ということに関しては得意だが、自主性となると超苦手だよね。今、問題になっている引きこもりとか、単純に解決できないだろうけれども、助けにはなるかもしれない。日本もこういう授業を取り入れて欲しいと思う。
他にも、英国ってこんな国なのか、こんな考え方なのか、こんな習慣があるのか。と驚きがページをめくるごとにあって面白い。
イギリスは、学歴や資格ごとの賃金格差が激しい学歴社会で、日本、アメリカ、韓国よりも資格・(最終)学歴による差別は大きいらしく、学校にまつわる話は本当に親御さん大変そうで、こっちは日本はこうなって欲しくないと感じた部分。
そして、サッチャー政権時代に払い下げになった公営住宅の存在が、この物語の登場人物に様々な影を落とす。日本も年々貧富の差が激しくなってきていると新聞やネット記事でも目にする。特にシングルマザーの貧困は深刻なのだとか。う~ん。
- 払い下げ:官公庁などが、不要になったものを民間に売り渡すこと
- サッチャー政権時代に払い下げになった公営住宅の問題:
従来イギリスでは、「中産階級=持ち家、労働者階級=公営住宅」という傾向が一般化していた。労働者に所有意識を持たせるため、公営住宅を払い下げた。
結局公営住宅ですら買えなかった人は家賃を払い続けている。買った人はさらに弱い彼らをいじめている(ブルーハーツ)悪循環。
日本も民営化加速しているし、外国人労働者も増やす方向なんだよね!
内容としては「あぁ、英国ってそんなところなのね。」って客観的には読めなかったなぁ。日本と重なる部分が沢山あったし、日本の未来が不安材料ばかり。
ただ、こういう中でも子供はすくすくと成長し、しっかりと問題に向き合って前向きに生きている姿が本当に頼もしい。現在の置かれている状況、未来への不安、そして子供たちの未来。私たちは、この子供たちに何を残してあげることができるのだろうか?