成瀬は天下を取りにいく 宮島 未奈

宮島未奈
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~「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」。各界から絶賛の声続々、いまだかつてない青春小説!~

こんにちはくまりすです。今回は今話題の小説・宮島未奈の「成瀬は天下を取りにいく」をご紹介いたします。

story:

中2の夏休みの始まりに、幼馴染の成瀬がまた変なことを言い出した。コロナ禍、閉店を控える西武大津店に毎日通い、中継に映るというのだが……。さらにはM-1に挑み、実験のため坊主頭にし、二百歳まで生きると堂々宣言。今日も全力で我が道を突き進む成瀬から、誰もが目を離せない! 話題沸騰、圧巻のデビュー作。(出版社より)

西武大津店

時代の流れと共に移りゆく街並み。新しいものと入れ替わりに歴史あるものが姿を消していきます。思い出の景色がなくなっていくのはとても寂しいですね。このお話はそんな街の風景の中で青春を爆発させる少女、成瀬の青春の1ページを描いた物語。

「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」

2020年の夏、西武大津店閉店のニュースに滋賀県民は大きな衝撃を受けました。著名な建築家が設計したことでも有名なこの百貨店は滋賀県民の誇りであり、地元民に愛されたデパートでした。
中学二年生の成瀬は、閉店へのカウントダウンを中継するTVに毎日移り続けると宣言し、幼馴染の島崎にそのチェックを依頼したのです。
生まれてから町の風景として当たり前にあったデパート。閉店を惜しむ気持ちはわかりますが、ちょっと変わったアイデアですね。

十七時五十五分になり、ぐるりんワイドのロゴと安っぽいBGMで番組が始まる。提供のテロップが出た後、さっそく西武大津店からの中継がはじまった。買い物客が自然な様子で行き交う中、成瀬だけはテレビに映るために立っていた。肩まで垂らした黒髪に、白い不織布のマスク、学校の制服の黒いスカートと白いソックスだけなら何の変哲もない女子中学生だっただろう。成瀬はなぜか野球のユニフォームを身につけていた。

これまで成瀬が野球好きと言う話は全く聞いたことがなく、島崎はその出で立ちに驚きます。しかし、約束通りしっかりと映りをチェックし、SNSのエゴサーチまで。

「だいぶ怪しかったけど、目立ってたのは間違いない」
奇譚のない意見を伝えたところ、成瀬は「それは良かった」と満足そうだった。

周りの目を気にしない行動や、武士のような威厳を感じる話し方。ちょっと変わったところがある成瀬ですが、なんとなく面白い人として興味を惹かれてしまいます。コミカルで、エネルギッシュな彼女が近くにいると毎日が楽しく、ポジティブになれそうです。果たして、このチャレンジはどんな成果を生むのでしょうか。

成瀬

成瀬は一風変わった少女に見えますが、彼女の考え方は理に適っている所も多く、島崎は彼女のそんなところも好ましく思っています。

成瀬が言うには、大きなことを百個言って、ひとつでも叶えたら、「あの人すごい」になるという。だから日頃から口に出して種をまいておくことが重要なのだそうだ。

有言実行。当たり前のことだけれど、失敗した時のことを考えるとなかなか言えないものですよね。人の目を気にしない成瀬はむしろ思いついたことを積極的に試していくスタイル。それはほら吹きとどう違うのかとの島崎の言葉には「同じだな」と、とぼけた一面もあって可愛いところも。

俺が気を揉んでいると、突然成瀬さんが立ち止まった。
「悩んでいるようだな」
俺の考えが読まれているのかとドキッとしたが、成瀬さんの視線の先ではスーツ姿の男が湖岸すれすれのところで体育座りをして遠くを見ていた。
「あの男、飛び込まないよう注視したほうがいい」
「こんな昼間から?」
「昼間だろうと飛び込みたい人は飛び込むものだ」
(中略)
「まずい、西浦、止めに行こう」

成瀬の個性的な魅力に惹かれた西浦少年。デート気分で二人の時間を楽しんでいるところに思わぬハプニングが。
まさかの事態にも持ち前の行動力を発揮する成瀬は凄い!と言いたくなりますが、見切り発車ではないかと不安にもなりますね。失敗や体裁を考える前に先に体が動いてしまうのはある意味成瀬らしいとも言えるのかも知れません。どうしたらそんな風になれるのでしょうか。島崎や西浦のように成瀬に憧れる気持ちがわかるような気がします。気が付けば目で追っている。そんなカリスマ性を持った成瀬をずっと見ていたい気持ちになります。

感想

最初から最後までこんな朗らかな気持ちで読める小説はめったにない。ストーリに面白さを持たせるための悪意ある第三者や、足を引っ張る人が一人も登場しない。一冊丸ごと成瀬の個性が光る面白さと、そんな彼女の魅力を読者に伝えようとする成瀬推しの友人談のよう。思わず突っ込みたくなるような展開、掛け合いのようなテンポの良い会話と滑稽なやりとり、漫才を見ているような笑いと楽しさを味わえる物語だと感じました。

成瀬は建設的な思考の持ち主で、外野のことは気にせずに我が道を行く性格。ちょっとずれたところにチャレンジ精神を発揮したり、びっくりするような行動は笑いを誘いますが、それが成瀬だからと納得し、かっこいいと思えるような不思議な魅力を備えています。失敗も外聞も恐れない彼女だからこそ多くの人を魅了し、どんな結果であろうと納得できるのです。

あっという間に過ぎる青春時代の経験はとても貴重なもの。周りと調和することばかりに気を取られるのは勿体ないですね。自分に何が向いているのかやってみないとわからないのはいくつになっても同じこと。前向きになったり、新しい事に挑戦してみたくなったり。ポジティブな気持ちになるのは成瀬に感化されたのでしょうか。

しかし、この感想、成瀬の事しか言っていませんね。どうやら私もすっかり成瀬の虜になってしまったようです。この本を読めばあなたも彼女のファンになってしまうのでお気をつけて。

著者:宮島未奈(ミヤジマミナ)
1983年静岡県富士市生まれ。京都大学文学部卒。2018年「二位の君」で第196回コバルト短編小説新人賞を受賞(宮島ムー名義)。2021年「ありがとう西武大津店」で第20回「女による女のためのR-18文学賞」大賞、読者賞、友近賞をトリプル受賞。同作を含む本書がデビュー作(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データベースより)
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