私たちの世代は 瀬尾まいこ

瀬尾まいこ
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~明日が怖いものではなく楽しみになったのは、あの日からだよ~

こんにちはくまりすです。今回は「コロナ禍」の子供たちの姿を描いた瀬尾まいこの『私たちの世代は』をご紹介いたします。

story:

小学三年生になる頃、今までにない感染症が流行し二人の少女、冴と心晴は不自由を余儀なくされる。母子家庭の冴は中学生になってイジメに遭い、心晴は休校明けに登校するきっかけを失って以来、引きこもりになってしまう。それでも周囲の人々の助けもあり、やがて就職の季節を迎えたー。(「BOOK」データベースより)

江崎さん

ディスタンス世代、マスク世代、家庭教育世代。今、就職活動をしている私たちや少し上の二十代の新入社員たちは、そんな風に呼ばれ、上の世代から消極的で協調性がなく何を考えているのかわからない謎の若者たちのように言われている。

コロナ禍に青春時代を過ごした世代が就職活動をするのはこれからの未来の話です。彼らは新しい生活様式の影響を最も受けた世代。マスク、個食、ステイホームなど、それが日常生活に浸透することにより、その後の対人関係にも変化が生じているようです。

勉強だって仕事だってオンラインでできるし、いざとなれば友達も恋人もSNSで探せる。そう思えるのは、すごく楽だ。学校なんか行かなくても、勉強面でも社会面でもたいした遅れも損失もない。その分、家でネットにつなげばいいのだ。SNS上の友達なんて信用できないと言う人もいるけど、誰より本音を話せることもあるし、欲しい言葉を言ってくれる。
それで十分だった。

家で過ごす事が多かったコロナ禍で、社会や人と繋がれる唯一の手段はSNSでした。思春期をコロナ禍で過ごした江崎さんは、SNSで社会生活の多くをカバーできると考えているようです。江崎さんがSNSの利便性を知ったのは、薄暗いトンネルを緩慢に進んでいたような時期だと思い起します。彼女がそのような時期を過ごすことになったのは、コロナ禍のある出来事がきっかけでした。

岸間さん

もう一度学校生活を送りたい。そういう思いはない。ただ、あの時、もっとできることがあるのに、もっとしてあげられることがあるのに、と小学生だったわたしは何度も思った。
先生、ここにいるわたしたちを、誰も取りこぼさないで。たくさんあるわたしたちの可能性に、ちゃんと触れてみて。そう願っていた。

もしもあの時…。岸間さんはあの頃に感じたもやもやした気持ちから小学校の教師を志すようになりました。家庭の事情により学校が命綱になっていた子供がいる。学校に通う事すらままならなかった生徒がいる。彼女はコロナ禍のしわ寄せみたいなものを感じる一方で、なんとかしたいという思いも持っているようです。

今となっては、感染症は昔のこととなった。それでも、いつだって子どもたちは自ら選んだわけでもない危なっかしい船に乗らなければならない時がある。

昔の出来事だけど、まだ終わったわけではない。岸間さんがわだかまりを残したものは一体何だったのでしょうか。過去の思い出と現在。胸がざらつく岸間さんですが…

感想

今年5月にWHOが新型コロナ「緊急事態宣言」終息を発表しました。日本でも新型コロナの法律上での位置づけが5類に引き下げられたことにより、マスクの着用や外出自粛など日常生活におけるルールが緩和され、街は活気を取り戻しつつあります。

しかし、パンデミックが社会にもたらした影響は甚大であり、緊急事態宣言からの3年間に失われたものは計り知れません。そして、子供たちにとって、その3年間は大人とは比べ物にならないくらい貴重でかけがえのない時間だったはずです。

この物語は、青春を「未曾有の災禍」の中で過ごした子供たちのリアルな姿と、彼らのこれからの未来を描いています。
突然変わってしまった生活のサイクルや環境により、楽しい学校生活や、友達との語らいを奪われた子供たち。青春の空白は彼らにどれくらいの不安とストレスを与えたのでしょうか。子供たちの視点に立ってコロナ禍の世界を見た時、その違和感や異様さに鳥肌が立ちます。多感な思春期に社会と接する機会が失われることは、彼らの人生にとっても大きな損失だったに違いありません。

一方で、家族の絆や問題など、あの時だからこそ見えたものもあったと言います。その時の葛藤は決してマイナスな事だけではなく、希望を持てなかった日々でさえも確実に未来につながる種になっているのだと、著者は彼らの人生にエールを送っています。

社会は「コロナ禍」以前に戻っているかのような報道ばかりが目に付きますが、不登校の小中学生が過去最多になったことは、あまり取り上げられていません。この物語には見落とされがちな社会の問題や、彼らの生の声が描かれています。

ままならない人生。でも、人との繋がりや暖かさが背中を押してくれる時が必ずある。
人間の強さと、ひとの温もりが感じられる物語でした。

著者:瀬尾まいこ(セオマイコ)
1974年、大阪府生まれ。大谷女子大学文学部国文学科卒業。2001年「卵の緒」で坊っちゃん文学賞大賞を受賞し、翌年、単行本『卵の緒』でデビュー。2005年『幸福な食卓』で吉川英治文学新人賞を、2009年『戸村飯店 青春100連発』で坪田譲治文学賞を受賞。2019年に本屋大賞を受賞した『そして、バトンは渡された』は、2021年に映画化され、文庫版は同年の年間ベストセラーランキング文庫部門(トーハン及び日販)で第一位に(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データベースより)

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story:「永原智です。はじめまして」。そこそこ売れている50歳の引きこもり作家の元に、生まれてから一度も会ったことのない25歳の息子が、突然やってきた。孤独に慣れ切った世間知らずな加賀野と、人付き合いも要領もよい智。血の繋がりしか接点のない二人の同居生活が始まるー。明日への希望に満ちたハートフルストーリー。(「BOOK」データベースより)

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