愛したはずの夫は、まったくの別人であった。
こんにちは。くまりすです。今回は芥川賞作家平野啓一郎の読売文学賞受賞作品で新たなる代表作「ある男」の紹介を致します。
story
弁護士の城戸はかつての依頼者・里枝から奇妙な相談を受ける。彼女は離婚を経験後、子供を連れ故郷に戻り「大祐」と再婚。幸せな家庭を築いていたが、ある日突然夫が事故で命を落とす。悲しみに暮れるなか、「大祐」が全くの別人だという衝撃の事実が…。愛にとって過去とは何か?人間存在の根源に触れる読売文学賞受賞作。(「BOOK」データベースより)
ある男の謎
弁護士の城戸は依頼者から頼まれて、「大祐」という他人の人生を生きた男の正体を突き止めるため調べ始めた。
彼は何者なのか?
人が他人の人生を生きるのはどんな事情があるのか?
次第に、城戸は出生や家族の問題に悩んでいる自分と、「大祐」を重ね合わせてゆく。今の自分を捨てて、他人になれたらどんな人生が待っているのだろうか?と想像する。
「大祐」はどういう気持ちでその道を選んだのか?
別人になった後、どういう気持ちで過ごしてきたのか…
城戸はこの男の、そして自分の存在意義を探すかのように捜査にのめりこんでいく…
愛
「大祐」の妻だった里枝はなぜ彼の嘘を見抜けなかったんだろうか、と悩んだ。同時に彼の愛は本当だったのだろうか?と思い悩む。
「大祐」の愛を疑いつつも、憎みきれない里枝は彼の気持ちを確かめるように出会いから振り返る。
流れるような文章に彼女の思い出が重なって、せつなく、懐かしい音楽が聞こえるよう。
「大祐」の「愛」を疑う一方、彼女がまだ立っていられるのは、つらい現実を支えてくれる家族の「愛」があるからにほかならない。
「愛」とは何だろうか?
「大祐」の正体が分かった時、彼らは本当の愛にたどり着けるのだろうか?
感想
この物語を読んで、昔見た「世にも奇妙な物語」で、嫌なことが起こる時間を飛ばす男の話を思い出した。
ある男が、それを飲むと一時の記憶がなくなって、まるで何事もなかったかのように時間が進んでいる感覚になる、という薬を手に入れた。
薬を飲むと、何も覚えていないので、その時のことは経験していないことになる。それで、主人公は嫌なことが待ち受けるたびに薬を飲んで、その嫌な時間をなかったことにし続けて…というストーリーだった。
同じことをするにしても、逃げるためにその行為を行うのか、立ち向かうためにその行為を行うのか、で取り組み方、ひいては結果が違ってくるはず。
周りの人から与えられる「愛」は自分が行動してきた結果でもあるのだろう。
メディア情報
声優の速水奨さんと平野啓一郎さんの対談。(前半約8分)。
後半8:36あたりから本文の朗読を視聴出来ます。(語り:速水奨さん、主演:野島裕史さんです)
来年映画化が予定されています。
主演は妻夫木聡さん他、安藤サクラさん、窪田正孝さんなど👇
映画『ある男』公式サイト | 2022年ロードショー (shochiku.co.jp)
1975年、愛知県生まれ。北九州市出身。1999年、京都大学法学部在学中に投稿した『日蝕』により芥川賞受賞。以後、数々の作品を発表し、各国で翻訳紹介されている。2020年からは芥川賞選考委員を務める。主な著書は、小説では『葬送』『滴り落ちる時計たちの波紋』『決壊』(芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞)『ドーン』(Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞)『かたちだけの愛』『空白を満たしなさい』『透明な迷宮』『ある男』(読売文学賞受賞)などがある。16年刊行の長編小説『マチネの終わりに』(渡辺淳一文学賞受賞)は累計60万部を超えるロングセラーとなった(「BOOK」データーベースより)