黄色い家 川上 未映子

川上未映子
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~「死ぬまで金の心配しなくていいところに生まれて育つって、どんな気持ちなんだろうね」~

こんにちは、くまりすです。今回は今、注目を集めている作家・川上未映子黄色い家』をご紹介いたします。

story:

十七歳の夏、親もとを出て「黄色い家」に集った少女たちは、生きていくためにカード犯罪の出し子というシノギに手を染める。危ういバランスで成り立っていた共同生活は、ある女性の死をきっかけに瓦解し……。人はなぜ罪を犯すのか。世界が注目する作家が初めて挑む、圧巻のクライム・サスペンス。(出版社より)

黄色い家~お金とは~

闇バイト、特殊詐欺、フィッシング詐欺、最近ニュースなどでよく耳にする言葉です。近年、犯罪も多様化、複雑化して日常生活の中で金銭の被害に合うケースが激増。失業率の上昇や防犯意識の低下などの社会的背景から誰もが加害者、被害者にもなりうると言えるのではないでしょうか。

〈東京都新宿区内のマンションで昨年五月、千葉県市川市の二十代女性を一年三カ月にわたり室内に閉じ込め、暴行して重傷を負わせたなどとして、傷害と脅迫、逮捕監禁の罪に問われた東京都新宿区、無職・吉川黄美子被告(60)の初公判が…
(中略)
住所不定であった被害者女性が吉川被告の自宅で同居を始めたと説明。当初は問題なく生活をしていたが、被害者の所持品や交友関係を管理するなどし、行動を監視するようになった。その後「外に出ても、どうせ生きていくことはできない」などど脅迫をくりかえすことで恐怖心を与え、女性が逃げようとする意志を喪失させた…(後略)〉

(『黄色い家』第一章 再会 より)

いつの間にか、行動や思想を相手に操られていたー。
恐ろしい監禁事件のニュースから始まるこの物語。主人公・花はこの事件のネット記事を目にして封印していた過去が蘇ります。花はこの事件の加害者・吉川黄美子の名前に心当たりがありました。

「黄美子さんがどうかしたの」
「昨日、黄美子さんの事件を見つけて」
「なにそれ」
「ネットで見つけた」
(中略)
「ううん、そうじゃなくて、黄美子さん、黄美子さんのマンションで女の子を監禁して、怪我させて、それで逮捕されたって。たぶん…あのときとおなじようなことしてて、それで捕まったんだよ。もしかしたら過去のことも問題になって、いろいろがその、ばれるかもしれない。ぜんぜんわかんないんだけど、なんか怖くて」
(中略)
「「わたし、昨日からずっと不安で、その、警察に行って話したほうがいいのかなって思って」

(『黄色い家』第一章 再会 より)

花は黄美子さんにまつわる過去の出来事を思い出し、ひどく動揺しています。
しかし、警察とは穏やかではありませんね。ネット記事と似たような経験があるような口ぶりも良くないイメージを連想させられます。

花の過去に一体何があったのか。監禁事件、マインドコントロールはどのようにして行われるのか。
彼女の壮絶な人生が幕を開けますー。

登場人物

花の物語には個性豊かな人々が登場します。彼らと良好な関係を築こうとする花ですが、お金が絡むと少しずつ関係に変化が生じていきます。

伊藤 花
主人公

高校中退してスナックで働き始める
「金はいろんな猶予をくれる。考えるための猶予、病気になる猶予、なにかを待つための猶予」

黄美子さん
花の母親の友人

花と一緒にスナックを開く
「ほかには、玄関と水まわりはきれいにするとか。あと黄色だね。西に黄色を置くと、金運があがる」

加藤 蘭
花より1つ年上

元キャバ嬢:路上で花と知り合う
「わかんないよ、金持ちの気持ちなんて」

玉森 桃子
花と同じ年

実家は裕福:スナックに来店
「金はあっても、基本的にはおなじだよ。でもうちのママは、それ以前にまじでいっちゃってるから」

安 映水(ヨンス)
在日コリアンの男性

時々、花の前に現れる謎の男
「金のなる木に思われねえようにしろよ、目えつけられねえようにな」

ヴィヴィアン
裏社会の住人

映水の紹介で知り合う
「幸せな人間っていうのは、たしかにいるんだよ。でもそれは金があるから、仕事があるから、幸せなんじゃないよ。あいつらは、考えないから幸せなんだよ」

琴美さん
すごい美人

銀座のクラブで働いている
「そうだね、花ちゃんの言うとおりだね、無理なことなんか、なにもないわね」

お金に対して思う事も人もそれぞれ。うなずける持論も、そうでないものも。それぞれの運命が交差する時、彼らの運命は思わぬ方向へ…。

感想

今年、日本の貯蓄額が過去最高を更新したらしい。コロナ禍の影響があるのは勿論ですが、相次ぐ増税や、止まらない物価高で将来への危機感を募らせた人も多いことでしょう。2025年には第一次ベビーブームの世代が後期高齢者の年齢に達する「2025年問題」があり、国民の3人に一人が65歳以上に、5人に一人が75歳以上になる超高齢化社会へと突入します。お金の不安がますます深刻化する中で、財布のヒモを締めるのは当然のことのように思われます。

こんなご時世に多くの読者に支持されている小説『黄色い家』は「お金」と「人間の幸福」を問う物語。価値観は人それぞれですが、困窮した経験がある人程、お金への執着心も強くなる傾向があるのではないでしょうか。主人公の花もシングルマザーの貧困家庭で育った少女。未成年の花は、社会の仕組みや厳しさはまだ理解していませんが、何をするにもお金が必要であることだけは知っています。そんな彼女が家を飛び出した先で待っていた波乱万丈な出来事。純粋無垢な少女が大人の保護もなく、何の知識も持たないまま裏社会に足を踏み入れてしまう展開はスリリングで面白いのですが、余りにも無防備で一生懸命な主人公に親心にも似たハラハラを感じてしまいます。

また、ストーリーもさる事ながら、何よりも特筆すべきは、主人公の心情描写が本当にリアルなこと。心の内が漏れ出たかのように書き連ねた文章は、まさに等身大の女性の姿そのまま。

真面目過ぎるがゆえに思い込んでしまったり、何かに夢中になる余り周りが見えなくなることは誰にでもあること。周りから見ると分かることでも、自身では気づきにくい心の動きが全編を通して綿密に描かれており、息が詰まるような、でも応援したいような気持に。

お金がなければ生きてはいけませんが、お金が全てではありません。
こんな言葉は綺麗ごとなのでしょうか?それを言えるのは、恵まれた人だけ?

厳しい社会に立ち向かう術を花と共に探しているような、そんな気持ちでページをめくっていました。花の後ろ姿が、読み終わった後も脳裏に焼き付いています。

著者:川上未映子(カワカミミエコ)
大阪府生まれ。2008年『乳と卵』で芥川龍之介賞、09年、詩集『先端で、さすわさされるわそらええわ』で中原中也賞、10年『ヘヴン』で芸術選奨文部科学大臣新人賞および紫式部文学賞、13年、詩集『水瓶』で高見順賞、同年『愛の夢とか』で谷崎潤一郎賞、16年『あこがれ』で渡辺淳一文学賞、19年『夏物語』で毎日出版文化賞を受賞。『夏物語』は40カ国以上で刊行が進み、『ヘヴン』の英訳は22年国際ブッカー賞の最終候補に選出された(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データベースより)

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三千円の使いかた

story:就職して理想の一人暮らしをはじめた美帆(貯金三十万)。結婚前は証券会社勤務だった姉・真帆(貯金六百万)。習い事に熱心で向上心の高い母・智子(貯金百万弱)。そして一千万円を貯めた祖母・琴子。御厨家の女性たちは人生の節目とピンチを乗り越えるため、お金をどう貯めて、どう使うのか?(「BOOK」データベースより)

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