~「だからな、ホスト。やるんやな?」野心と策略とが渦を巻く、最も危険なエンタテインメント~
こんにちはくまりすです。今回はジャニーズNEWSと作家の2つの顔を持つ加藤シゲアキの「チュベローズで待ってる」をご紹介いたします。
story:
AGE22:就職活動に挫折した22歳の光太は、カリスマホストの雫にスカウトされ、歌舞伎町のホストクラブ「チュベローズ」で働きはじめた。夜の世界の苛烈な洗礼を浴び戸惑う光太だが、客としてやってきた女性、美津子が憧れのゲーム会社に勤めていることを知り、彼女を誘惑して自らの夢に近づくために利用しようとするー。野心と策略とが渦を巻く、最も危険なノワール・エンタテインメント、開幕編。(「BOOK」データベースより)
AGE32:気鋭のゲームクリエーターになった32歳の光太。自社のゲームが不祥事に見舞われるが、チュベローズ時代の仲間たちの助けを借りて、会社を罠に嵌めようと暗躍する組織の存在を突き止める。上司の八千草と事態の収拾のために奔走する一方、光太は美津子の甥であるユースケとともに、彼女をめぐる真相に向き合うことになるー。衝撃とカタルシスに溺れるジェットコースター・ミステリ、完結編。(「BOOK」データベースより)
AGE22
最後の望みの綱だった会社からも不採用通知を突きつけられた日、光太は路上でテキーラのにおいが沸き立つ嘔吐物を路上にぶちまけていた。病気がちの母と幼い妹とを抱えながら、来春からは学生でも社会人でもなくなってしまう。そんな彼の前に現れた雫という男にホストにならないかと持ち掛けられる光太だが…
将来を大きく変えてしまうかも知れない局面、こういう時の決断はしんどいですよね。
光太はもう一年大学に在学し、新卒できちんとした会社に入るのが将来のためだと考えますが、学費を払うためのバイトと就活の両立は難しい…。
そんな彼にとって、大きなお金が手に入るホストという仕事はとても魅力的に映ります。
「人を人とは思わないで。ただの客。ただの金。光也はそういう最低な人間を演じればいいの」
光也という源氏名をもらいホストクラブ・チュベローズで働き始めた光太。しかし、なかなか指名は入らない。そんな時、店に現れたのは雫の彼女・ミサキでした。彼女は光太にホストの心得をこう説きました。
なかなか最低のアドバイスですね。上り詰めるには心を鬼にしろという事なのでしょうか。
「できるかな、そんなこと」と自信がない光太にも彼を指名する女性が表れます。しかし、彼女・斉藤美津子はなんと、不採用になった会社の面接官でした。
会いたくない人と会いたくない場所で…というのはこういうシチュエーションを言うのでしょう。
ホストの心得を実践できそうな気配。
「じゃあ俺の言うことを聞いて。どんなことでも。」
復讐心に燃える光太ですが、運命は思いもよらない方向へ…。
展開
22歳の光太の物語は、彼の若さゆえの苦悩や葛藤、将来への不安と共にホストクラブという特殊な世界も描かれています。
きらびやかに見えて本当は恐ろしい世界ですが、若者にとって夢のある場所かも知れません。
物語は22歳の光太(「AGE22」)から32歳の光太(「AGE32」)へと移っていきますが、それに伴って様々な謎が浮かび上がるミステリーへと変化します。
32歳の光太は気鋭のゲームクリエーター。トンネルを抜け、充実した毎日を送っていましたが、ふとしたことから思いがけない人物と再開します。
10年前の、ホストクラブにいた頃の出来事には裏があった?
この違和感は何だろうか?
真相を突き止めようとする光太だが…。
「きみの意思なんか、どこにもないんだよ。」
散りばめられた伏線と違和感。最後はあっと驚く展開に!
感想
少し前にジャニーズの「嵐」にハマっていた時期がありまして、彼らのバラエティ番組や歌番組をよく見ていたんです。それで「加藤くん」をよく知っているつもりでいたけれど、実はあれはアイドルとしての加藤シゲアキのひとつの顔だったのでしょうか。
と言うのも、この物語はとてもアイドルが書いたとは思えないくらいしっかり構成されたエンターテイメント小説だったからです。
主人公の恋や仕事、悩みを描いた物語から、彼女の謎に迫るスリルとサスペンスに充ちたミステリーへと変化していく読者を飽きさせないストーリー展開。
作品世界を膨らませる多くの風景描写。
正直、「これ、本当に加藤くんが書いたの?」と疑ったほど。
でも、「お客様を楽しませるというところで、ホストと重なる部分があった」と彼が言うのもうなずけるほど、ホストクラブという舞台とジャニーズの世界を重ね合わせて読めてしまう。
他にも、ホストを辞めさせないようにする陰湿さ、パパと呼ばせる無言の圧力、絶対的な上下関係などリアリティがあり、裏の世界を知っている芸能関係の人らしい世界観を感じたため、これは紛れもなく彼の作品なのだと確信。
彼の言うように私も「ジャニーズの子が小説を書いている」という目で見ていたかも知れません。
加藤シゲアキという作家が存在している。
これはアイドルの看板がなくても「この小説面白いよ」と勧めることができる小説。
加藤シゲアキ自身がいろんな意味で分岐点だったと言う直木賞候補作『オルタネート』も是非読んでみたい。
1987(昭和62)年、大阪府出身。青山学院大学法学部卒。NEWSのメンバーとして活動しながら、2012(平成24)年1月に『ピンクとグレー』で作家デビュー。その後もアイドルと作家活動を両立させ、’21(令和3)年『オルタネート』で吉川英治文学新人賞、高校生直木賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データベースより)