おいしいごはんが食べられますように 高瀬 隼子

読書日記
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~「二谷さん、わたしと一緒に、芦川さんにいじわるしませんか」心をざわつかせる、仕事+食べもの+恋愛小説。~

こんにちは、くまりすです。今回は芥川賞受賞作品高瀬隼子の「おいしいごはんが食べられますように」をご紹介いたします。

story:

職場でそこそこうまくやっている二谷と、皆が守りたくなる存在で料理上手な芦川と、仕事ができてがんばり屋の押尾。ままならない微妙な人間関係を「食べること」を通して描く傑作。第167回芥川賞受賞!(出版社より)

押尾さんと仕事

仕事ができる押尾さんは、彼女の先輩の芦川さんに対して良い印象を持っていません。弱々しい雰囲気のある芦川さんは仕事が出来ない上に、体の弱さを理由に定時で退社するからです。結果、誰かが残りの仕事を引き継ぐことに。いや、一番気に入らないのは、そんな芦川さんに社内の誰もが体調を心配し、気を使い、甘めの採点をしているところ。そんな押尾さんがちょっと気になる先輩、二谷さんも芦川さんの仕事の出来なさにいら立ちますが、反面そこがかわいいく、色気を感じてしまいますー。

社内の空気がピリピリしてそうですね。しかし、押尾さんのように「どうしてあの子だけえこひいきされるんだろう」「自分はなんて損な役回りなのだろう」と、思った経験は誰にでもあるはず。
そして、芦川さんや押尾さんのような人は必ず職場にいます。どちらかというと私は押尾さんタイプかもという人もいるかもしれません。
押尾さんは芦川さんの行動や表情に、たびたび違和感を感じます。

「あのさあ、それ、その机に置いてあるお茶、こないだ出たばっかの新商品でしょ。ぼくも気になってて、ごめんねえ、勝手に一口もらっちゃった」
「どうでした?」
「爽健美茶に似てるけど、こっちの方がちょっと苦いかな!」

上司の男性、藤さんはあろうことか味見と称して芦川さんが飲みかけのペットボトルのお茶に口をつけます。気持ち悪いですね。
周りが不快感を示し非難の声が上がる中、芦川さんはそのペットボトルのお茶を一口飲み、「ほんとですねえ」と返事をします。

それを見た押尾さんは、「そのお茶の味を知っている芦川さんが敢えて上司の藤さんの前で飲んで見せる必要はないのではないか」と考えます。その行動はどうしても「お茶を飲まれたことを気にしていませんよと」いうアピールに映ってしまいます。

押尾さんの「わたし芦川さんのこと苦手なんですよね」と言う気持ちなんとなくわかりる人は多いのではないでしょうか。もちろん彼女は上司の受けも良いはずという事も含めて。
その要領の良さにあきれているのか、周りの目を気にしないふてぶてしさに腹が立つのか、それとも本当に天然なのか…。

芦川さんに苦手意識を持ちながらも彼女を目で追ってしまう押尾さん。しかし、芦川さんはさらに押尾さんの神経を苛立たせる行動をとり…。

二谷さんと食事

毎日仕事が忙しい二谷さん。残業のある日はプライベートの時間などほとんどありません。独り暮らしの二谷さんは夕食をコンビニ飯やカップ麺で済ますことがほとんど。そして、それはとても理にかなっていることだと考えています。

二谷さんの食事事情を聞いた芦川さんは、お味噌汁だけでも作ってはどうかと彼の身体を気遣いました。芦川さんは実家暮らし。二谷さんは「この人に、ぐつぐつ鍋を見つめている間、おれはどんどんどんどんすり減っていく感じがしますよ、と言っても伝わらないんだろうな」と思います。

咀嚼するのが面倒くさい。芦川さんみたいな人たちは、手軽に簡単、時短レシピという言葉を並べながら、でも、食に向き合う時間は強要してくる。

仕事から帰ってきて食事を作るのはとてもめんどうです。体に良い物を食べた方がいいことはわかりますが、それがストレスになるのであれば、無理に作る必要はないかも知れません。とはいえ、栄養がない食事ばかりだと病気になりそうですね。芦川さんは、特に悪意があって言っているわけではないと思いますが、相手によって受け取り方は様々です。

「二谷さん、わたしと一緒に、芦川さんにいじわるしませんか」

二谷さんと押尾さんはお互い芦川さんに対して不満があり、考えが似ていることもあって、二人でご飯を食べる機会も増えていきます。ある時、押尾さんにこう言われた二谷さんは「いいね」と返事をしますが…。

感想

ある女性雑誌で、職場においてどんな人に苦手意識を感じますか?というアンケートをとったところ「言葉がきつい人」「感情の浮き沈みが激しい人」「きちんと仕事をしない人」などなど。
周りが求めているものや、その職場における常識などを理解せず、周りと円滑なコミュニケーションを取れなければ「空気が読めない人」に。

この物語での「空気が読めない人」芦川さんは、仕事上以外にも「人としてそれはどうなのか」と思うようなマイペースぶりを発揮し、周りの感情を振り回します。
何気ない言動や行動が、相手に罪悪感を与えたり、虚しさを感じさせたり。
決して、怒らせたり、悲しませたりという分かりやすい感情ではない所がミソなのです。こういう微妙な、面と向かって言えない感情を揺さぶられることによって、彼女たちは「嫌い」ではなく「苦手」だと感じるのでしょう。
円滑なコミュニケーションは相手によって正解は違うため案外難しく、空気を読み過ぎるのもストレスが溜まりますね。

そういうストレスを解消できる食事の時間はとても大切。心から食事が美味しいと思えるのは、どういうシチュエーションなのか。想いのこもった手料理を大切な相手と一緒に食べることだという人もいれば、気を遣わずにリラックスして自分の食べたいと思うものを食べたいという人も。一日頑張ったのならせめて食事ぐらいは美味しく食べたいですね。

仕事と恋と食事と、この複雑に絡み合った三人の物語はここからが面白い。くすぶっている火種が意外な行動を引き起こし、予想外の展開に。最後に笑うのは果たして誰なのか。

著者:高瀬隼子(タカセジュンコ)
1988年愛媛県生まれ。立命館大学文学部卒業。2019年『犬のかたちをしているもの』で第43回すばる文学賞を受賞し、デビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データーベースより)

関連書籍:前回の芥川賞受賞作品・『ブラックボックス』砂川 文次👇

story:第166回芥川賞受賞作品。コロナ禍や宅配サービスなど現代社会が描かれている。
主人公のサクマは郵便物を自転車で届けるメッセジャーの仕事をして生活をしている。彼はその体力勝負の仕事に没頭しながらも、将来の不安から「ちゃんとしなきゃ」とSNSで転職先を検索する毎日を送っているが…

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