ブラックボックス 砂川 文次

砂川文次
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~病気は、コロナに限らず怖くない。怖いのは、体が動かなくなることだ~

こんにちはくまりすです。今回は芥川賞受賞作品砂川文次ブラックボックス」をご紹介いたします。

story:

ずっと遠くに行きたかった。今も行きたいと思っている。自分の中の怒りの爆発を、なぜ止められないのだろう。自転車便のメッセンジャー、サクマは都内を今日もひた走る。第166回芥川賞受賞。(「BOOK」データベースより)

歯車

主人公のサクマは郵便物を自転車で届けるメッセジャーの仕事をして生活をしている。彼はその体力勝負の仕事に没頭しながらも、将来の不安から「ちゃんとしなきゃ」とSNSで転職先を検索する毎日を送っているが…

異なる職種への転職はなかなか難しいですよね。
ここ数年、コロナ禍で宅配サービスの需要は急激に高まってきています。しかし、この手軽な宅配サービス業の内情ってあまり表には出ていません。
例えば、安さであったり、迅速さであったり、…当たり前に思っている豊富なサービスこそ、実は根深い社会問題と密接に関係しているのではないでしょうか?

重いものを持ち上げたり、運んだりするのに、絶対マスクなんか邪魔なんだよ。…何が安全で何が危険なのか一つ一つ確かめている余裕など持ち合わせていない。

今月、明日生きるためにがむしゃらに働く。何の保証もない。いわゆるブラック企業だと言われている会社の内情がサクマの目を通して描かれている。その会社はどんな仕組みなのか、彼らはどんな気持ちで働いているのか。また、彼らは社会や人生に対してどのような思いでいるのか。

食べることはエネルギー補給以上の意味は持たない。
サクマは、食べることに何らかの価値を持たせたくなかった。

主観的な文章はサクマの立場から見た世界だ。彼の目を通してこの社会を見た時、あなたにはこの国がどんなふうに映るでしょうか。

怒り

「ふざけんなよ!」
白く爆ぜるのは、多分恐怖に対する拒否反応だ。メシを食うのも惰眠を貪るのも息をするのも働くのにもカネがかかる。全部を失くすのにそう時間はかからない。走っている時は頭の片隅にも上がらないこの恐怖が顔をのぞかせるのは、いつだって全てを失う一瞬に片足を突っ込んだときか全身を浸した時だ。

描いていた未来予想図と違ったり、努力が実を結ばなかったりした経験は誰にでもあるでしょう。若い多感な頃はその気持ちを持て余し、自分の感情をうまく表に出せずに内側での葛藤したりします。
そして、例えば人生経験が豊富な大人や人生の道しるべになる言葉くれる人が周りにいて、社会における自己表現の方法を知ったり、自分らしい生き方を見つけたりして人生を歩んでいくのではないでしょうか。

自分との約束を反故にすればするほど、その行為自体に慣れてしまうのだ。

何事も長く続かないサクマはどういう風に生きたらいいのかわからずにぼんやりとしているようにも見えます。もしかしたら生きている実感すらあまりないのかも知れません。

彼の内側にある怒りの正体は何なのか。
そんな時、サクマはある事件を起こしてしまうのです…。

感想

芥川賞の選考委員の一人がこの作品を現代のプロレタリア文学だと評したらしい。
著者は「いい意味での怒りを感じながら書いていた」と言い、現代社会を描いたこの物語とプロレタリア文学が描いている「労働者の怒りや叫び」や「劣悪な環境、貧困や格差社会」とが合致したからだと思います。

日本の平均賃金が韓国以下になってしまった今、「近い将来、中国や東南アジアに出稼ぎに行く人が増えるのはほぼ確実と言われている」なんいうネットニュースを目にして、現代社会を描いたらプロレタリア文学だと感じたという意味の怖さをリアルに実感しました。

今の社会は他人とコミュニケーションを取らずとも生活が出来てしまう。そんなネット社会にどっぷりと浸かっている主人公の仕事が、その仕組みの歯車となっていて抜け出すことが出来ない。
つまり彼らが置かれている状況はそういう事で、まさにありのままのこの国の今なのだ。

ブラックボックスはIT用語で、内部の構造が不明の装置やシステムの事を言うのだそう。
主人公のような若者が大勢この国にはいるが、その実態は把握出来ていない。まるでこの国自体がブラックボックスのようにも思える。

芥川賞受賞作品ならではの力強いメッセージが伝わってくるこの作品。「若者の声なき叫び」を我々はどう受け止めるか。議論は彼らの世界を知ってからだろう。

著者:砂川文次(スナカワブンジ)
1990年大阪府生まれ。神奈川大学卒業。元自衛官。現在、地方公務員。2016年、「市街戦」で第一二一回文學界新人賞を受賞。著書に『戦場のレビヤタン』『臆病な都市』『小隊』がある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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