~似ているようでまったく違う、新しい一日を懸命に生きるあなたへ。~
こんにちは、くまりすです。今回は2年連続本屋大賞2位の青山美智子の『月の立つ林で』をご紹介いたします。
story:
最後に仕掛けられた驚きの事実と読後に気づく見えない繋がりが胸を打つ、青山美智子、最高傑作。
長年勤めた病院を辞めた元看護師、売れないながらも夢を諦めきれない芸人、娘や妻との関係の変化に寂しさを抱える二輪自動車整備士、親から離れて早く自立したいと願う女子高生、仕事が順調になるにつれ家族とのバランスに悩むアクセサリー作家。
つまずいてばかりの日常の中、それぞれが耳にしたのはタケトリ・オキナという男性のポッドキャスト『ツキない話』だった。
月に関する語りに心を寄せながら、彼ら自身も彼らの思いも満ち欠けを繰り返し、新しくてかけがえのない毎日を紡いでいくーー。(出版社より)
看護師だから
先日の皆既月食は見られましたか?赤銅色の月がとても綺麗でしたね。
月は平均約29.5日周期で地球を周っているそうです。地球との位置関係によって見え方が変わり、満月や三日月など夜空に浮かぶ美しい姿は私たちの目を楽しませてくれます。また、パワーをもらえたり、潮の満ち引きに影響を与えたりとその存在はとても神秘的。
この小説「月の立つ林で」はそんな月から不思議な力をもらえる5つの連作短編集です。
一章:誰かの朔
この物語の主人公・朔ヶ崎怜花は元看護士で今は求職中。成り行きで隣人の猫を預かることになったのですが、その際言われた一言が引っかかります。
「怜花ちゃん、看護師さんだから安心だわ」
怜花はいつもこういう風に言われることに納得がいきません。
看護師だから安心、看護師だから大丈夫、さすが看護師。看護師をなんだと思っているのか。
そのことと、猫を預かることと、いったい何の関係があるのだろう。
上手くいかない時は、ネガティブ思考になりがちですね。
看護師だからという言葉はある意味、尊敬の念も込められているような気がしますが、確かに猫を預かることとはあまり関係がなさそうです。病気などで入院した時、優しく世話をしてくれる看護師は頼りになる存在で、安心感があります。しかし、それを言われる側としては、そうであるべきだという押しつけのような無言の圧力を感じるのかも知れません。
「結婚でもするの?」
仕事を辞めたことを話すと驚く両親。娘の退職と聞けば、結婚と結びつけてしまいがちですね。先ほどの引っかかりと看護師の仕事を辞めたことに何か関係があるのでしょうか?辞めた理由も気になります。
残念ながらその予定はない怜花は家に居づらくなり、看護師以外の仕事を探すのですが…
ツキない話
「竹林からお送りしております。タケトリ・ナオキです。かぐや姫は元気かな」
「ポッドキャスト」というインターネットラジオがあるそうです。ほとんどの番組を無料で聴けるとあって、利用されている方も多いとのこと。その中の「ツキない話」という番組に興味が湧いた怜花は気晴らしに聞いてみることに。
「月ってね、できたばっかりの頃は、今よりもうーんと近くにあって、今よりもうーんとでかく見えて、地球の周りをたった五時間で回ってたんですよ。当然、近いから地球への影響もすごくて…(後略)」
明瞭で、どこかしっとりとした深みのある声で語られる月の話は面白く、安心感があり、もっと聴いていたいと思わせるものでした。
人類が誕生する前の遥か昔の月に思いを馳せ、地球と月との歴史にロマンを感じる。素敵な時間ですね。「ツキない話」の引力は強そうです。彼の声と相まって、ヒーリング効果も抜群。
怜花は彼の「月」話を聞くことが毎日の日課となり、やがてその時間を楽しみにするようになりました。
感想
地球のパワーを宿した鉱物を身に付けることにより、運気が上がるとされるパワーストーン。特別な力があるとされる場所へ行くことにより、エネルギーを得ることが出来るパワースポット。どちらも地球の持つパワーを分けてもらい、自身を良い方向へ導くものとして人気がありますね。
プラスαの力が増幅されていると思えば、普段より大きなチャレンジができたり、幸せをもらえる気がします。他にも、神頼みや縁起を担ぐこともあるかもしれません。
そういった自然の力や神の存在は、情報化社会の現代でも人々の心の拠りどころとなっています。
タケトリ・ナオキの「ツキない話」はまさにそういう力を貰えるような話なのかもしれません。
月の歴史に自然の偉大さを知り、神秘を感じることにより、エネルギーが内側から湧いてくる。しかしそれは無から生まれたものではなく、彼女の中に秘められていたものなのでしょう。それにちょっと不思議な力が加えられただけ。
作中の「ツキない話」はもっと聞いていみたいと思わせる素敵な内容でした。そういった話がネットを通じて誰でも聴くことができるというのは良い時代ですね。
偶然から起こる様々な出来事や、関わり合いも不思議な縁があるように感じられます。私達は意外な所でつながっていて、知らず知らずの内に誰かを助けになっている。
とても読みやすく、読んでいるうちに自然と心が軽くなる、優しい物語でした。
1970年生まれ、愛知県出身。大学卒業後、シドニーの日系新聞社で記者として勤務。2年間のオーストラリア生活ののち帰国、上京。出版社で雑誌編集者を経て執筆活動に入る。デビュー作『木曜日にはココアを』が第1回宮崎本大賞を受賞。『猫のお告げは樹の下で』が第13回天竜文学賞受賞。『お探し物は図書室まで』『赤と青とエスキース』で本屋大賞第2位に選ばれる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データーベースより)
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story:川沿いの桜並木のそばに佇む喫茶店「マーブル・カフェ」。そのカフェで出された一杯のココアから始まる、東京とシドニーをつなぐ12色のストーリー。卵焼きを作る、ココアを頼む、ネイルを落とし忘れる…。小さな出来事がつながって、最後はひとりの命を救うー。あなたの心も救われるやさしい物語。(「BOOK」データーベースより)