わたしたちは、知らないうちに誰かを救っている
~幸せな気持ちをあなたに~
こんにちは、くまりすです。今回は2021年本屋大賞受賞作家青山美智子のデビュー作「木曜日にはココアを」を紹介いたします。
story
川沿いを散歩する、卵焼きを作る、ココアを頼む、ネイルを落とし忘れる……。わたしたちが起こしたなにげない出来事が繋がっていき、最後はひとりの命を救う。小さな喫茶店「マーブル・カフェ」の一杯のココアから始まる12編の連作短編集。読み終わった後、あなたの心も救われるやさしい物語です。インスタフォロワー数200万人のミニチュア写真家・田中達也氏がカバーを手がけています。(「出版社」より)
目次:
木曜日にはココアを(BrownTokyo)/きまじめな卵焼き(YellowTokyo)/のびゆくわれら(PinkTokyo)/聖者の直進(BlueTokyo)/めぐりあい(RedSydney)/半世紀ロマンス(GreySydney)/カウントダウン(GreenSydney)/ラルフさんの一番良き日(OrangeSydney)/帰ってきた魔女(TurquoiseSydney)/あなたに出会わなければ(BlackSydney)/トリコロールの約束(PurpleSydney)([BOOK」データベースより)
美しい詩のような小説
川沿いに立地する隠れ家のような雰囲気の良いカフェで働く主人公は、週に1回平日の昼下がりに来店し、決まってココアを注文する女性の事が気になり…
カフェが好きな人は多いですよね。生活感がなく別世界のような空間、美味しいお茶やコーヒー、ホッと一息つける場所は心も落ち着き、贅沢な時間を過ごすことが出来ます。
この物語もそんなカフェのある日の風景から始まります。日常の一コマを切り取った風景画のような描写がとてもロマンチック。
「雨上がりの雫みたいな瞳で僕を見上げて、肩まで流れる栗色の髪を揺らして。」
「甘く見えるのにしょっぱいなんて、まるで人生よね。」
読みやすい文章で、言葉も詩のような美しい比喩が多く、乙女心をくすぐります。子供から大人まで、ほっこりする物語。
グッとくる言葉
この物語は全12章からなる連作短編集。各章主人公が異なり、前の章と関連ある人物の視点で進む物語が少しずつリンクしていきます。
2章の主人公朝美は先程のカフェを憩いの場としてるが、今日はとてもそんな気分にはなれなかった。何故なら、明日は幼稚園に通う息子、拓海の弁当を初めて作らなければならないからだ。
私たちは無意識に自分に与えられた役割を理解し、それを果たせるように日々試行錯誤しているのではないでしょうか?家庭内なら妻や母、夫、職場ならその職業、ポジション、いろいろな役割があります。
しかし、やりがいがある反面それは時に窮屈で負担にもなる時も。男らしさ、女らしさ、母らしさ、先生らしさ、こうあるべきだと思い込むのはやがて自分自身を追い込みます。また、他人にもそれを求めたりして、結果的に人間関係がギクシャクしたり、悩みにつながったり…。
そんな時、優しい一言や励ましの言葉があれば、お互い話し合えば、気持ちがグッと楽になり、肩の力が抜けてホッとしますね。そんな言葉がそれぞれの物語の至る所に散らばっています。
「それぞれの人が、自分ぴったりの一枚をきっと見つける。もっとみんなに見せてあげて」
私は私でいいと思わせてくれるような魔法の言葉に、気持ちがスッと楽になり、心温まる優しい気持ちになっていく。
感想
「そっか、お疲れ気味かぁ。じゃあ、そういう時は、少しぼーっとしてみよっか?」
以前、竹内涼真さんが視聴者に話しかけるところから始まる化粧水のCMがありました。
家事をこなし、仕事でもバリバリ働く。常に何かの役割を果たしていて、気の休まる時間が少ない女性も多くなりました。そんな時、寄り添ってくれる男性がいて、優しい言葉をかけてくれたら幸せですね。女性がパートナーに求める条件も、優しさ、思いやり、価値観などが上位を占める結果もあります。
少し前から繊細さん(HPS)という言葉が流行り、関連書籍も書店の店頭にたくさん並びました。
繊細さんとは、人一倍敏感であったり、周りに気を使い合わせてしまう、ネガティブな感情になりがちなど、なんとなく当てはまる人も多いのではないでしょうか?
今、多くの女性が求めているものは癒しかも知れませんね。寄り添ったり、応援してくれるパートナーや友人は、ささくれだった心を癒してくれます。
たまには自分のために、素に戻れる自由な時間を作ってみてはいかがでしょうか?
例えば、週の半ばに訪れるカフェのような一息つく時間を。
1970年生まれ、愛知県出身。大学卒業後、シドニーの日系新聞社で記者として勤務。2年間のオーストラリア生活ののち帰国、上京。出版社で雑誌編集者を経て執筆活動に入る。第28回パレットノベル大賞(小学館)佳作受賞。『木曜日にはココアを』(宝島社)で小説家デビュー。同作と2作目『猫のお告げは樹の下で』(宝島社)が未来屋小説大賞入賞(「BOOK」データベースより)