「人生、楽しまなくっちゃ。夕方が一日で一番いい時間なんだ。」
こんにちは。くまりすです。今回はノーベル文学賞作家、カズオ イシグロの代表作「日の名残り」を紹介いたします。
story
品格ある執事の道を追求し続けてきたスティーブンスは、短い旅に出た。美しい田園風景の道すがら様々な思い出がよぎる。長年仕えたダーリントン卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、女中頭への淡い想い、二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々-過ぎ去りし思い出は、輝きを増して胸のなかで生き続ける。失われつつある伝統的な英国を描いて世界中で大きな感動を呼んだ英国最高の文学賞、ブッカー賞受賞作。(「BOOK」データベースより)
品格とは何か
この物語は、執事スティーブンスが車で旅をしながら、古き良き執事時代の思い出や、仕事に対する持論を語るという形で進行する。
スティーブンスは尊敬している父のような「偉大なる執事」になるためには「品格」が必要だと考える。彼は「品格」を身に着けるため仕事一筋で日々努力してきた。
そんなある日、邸宅に女中頭としてミス・ケントンがやってくる。彼女は殺風景なスティーブンスの仕事部屋に花を添えようとするのだが、彼は「気を散らすようなものは、出来るだけ少ない方がよろしい」と断る。
「でも、これほど殺風景にしておかなくてもよくてはありませんこと?色というものがまったくありませんもの」と言い放つ彼女の言葉にも彼は動じない。
スティーブンスは「偉大なる執事」になるための努力は惜しまないが、不必要だと思われるものは見向きもしないかった。
信頼できない語り手
カズオイシグロの作品は「信頼できない語り手」として有名である。「信頼できない語り手」とは、物語を語る人物や、ナレーターが嘘をついたり、ごまかりたりして、信用できないというものである。
執事のスティーブンスの語りは、最初は滑らかな口調もたびたび歯切れが悪くなったり、つじつまが合わなくなったりして何か違和感を感じる。ただ、それは、ちょっとした事であったり、さりげなく表現されるのであまり気にしていなければ何でもないことのようにも感じる。
語り手自身が、現実から目を背けている場合もあれば、言い訳じみている場合もあり、彼の話しぶりから建前と本音を感じ取ることが出来るかもしれない。
面白いのは、彼自身ですら自分をわかっていないところもあり、結局は読者もすっかり騙されてしまうのだ。
社会風刺
この物語は多義的であり、いろいろな解釈が出来るのも魅力の一つ。別の見方としてはイギリス社会を風刺した物語として読むこともできる。
第一次世界大戦後から第二次世界大戦後の大英帝国の繁栄と衰退が描かれているが、その中で隠喩的に、歴史上の重大な出来事が表現されていたり、登場人物たちのは歴史上のあの人物だったというパロディも盛り込まれている。年代やキーワードをもとに考察しても面白い。
感想
日本には「努力は必ず報われる」ということわざがあります。何かに成功した人は必ず努力をしているものです。もしくは、努力と思わずに打ち込んだだけかもしれません。どちらにしてもやっただけの事はあるのです。
逆に報われなかったら失敗なのでしょうか?
人生は何が成功で何が失敗かというのは、人によって考え方は違うでしょう。
ただ、人生の失敗や成功と幸福はまた別問題です。
「幸福というものは、一人では決して味わえないものです。」いう名言もありますが、これも人それぞれでしょうか?どちらにしても目指すものを間違えないことが大事かと存じます。
1954年11月8日長崎生まれ。1960年、5歳のとき、海洋学者の父親の仕事の関係でイギリスに渡り、以降、日本とイギリスのふたつの文化を背景に育つ。その後英国籍を取得した。ケント大学で英文学を、イーストアングリア大学大学院で創作を学ぶ。1982年の長篇デビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年発表の『浮世の画家』でウィットブレッド賞を受賞した。1989年発表の第三長篇『日の名残り』では、イギリス文学の最高峰ブッカー賞に輝いている。2017年にはノーベル文学賞を受賞。2018年に日本の旭日重光章を受章し、2019年には英王室よりナイトの爵位を授与された