暑い夏は怪談話で涼しく…
お盆頃によく語られる怪談。一口に怪談と言っても、幽霊や妖怪など様々な話がありますね。
鬼、天狗、河童、神隠し、怨霊、座敷わらし、ろくろ首…私たちは子供の頃から多くの妖怪や怪談に慣れ親しんできました。個性豊かで神秘的な妖怪は小説やアニメなどにもよく登場し、人気があります。そんな妖怪や幽霊はどうやって生まれたのでしょうか。
古代から農耕民族だった日本人は自然とは切り離せない生活を送ってきました。科学が未発達な時代、理屈では説明できない事象や災害の答えとして神や妖怪の存在を生みだしたそうです。そこから様々なおとぎ話や民話が生まれ、これらの多くは口頭で後世に伝えられました。
これらの説話を文章にした説話集に『日本国現報善悪霊異記』『今昔物語集』があります。平安時代末期に作られた『今昔物語集』は1000を超える話があり、日本最大級と言われています。芥川龍之介の『羅生門』『芋粥』などの題材にもなりました。
江戸時代に入り、鳥山石燕の妖怪画集『画図百鬼夜行』が刊行されたのをきっかけに怪談ブームが起こります。それまで概念上の存在だった妖怪にわかりやすい視覚的特徴を与えることにより、妖怪は浮世絵や芝居、落語の題材としても使われ、妖怪文化が盛り上がりをみせました。また、絵師の円山応挙が初めて足のない幽霊を描いたのが現在の幽霊の姿の典型になっているという話も。
その時代に書かれた『雨月物語』は、『今昔物語集』を始め和漢の古典を題材にした読本で、怪談・怪異小説の元祖とも言われています。
その後、明治後期から昭和初期にかけて怪談ブームが再来します。小泉八雲が日本各地の怪談や奇談をもとに『怪談 (kwaidan)』として一冊にまとめ、森鴎外、夏目漱石、内田百閒、夢野久作、江戸川乱歩ら多くの文豪が怪談を書き、怪談好きの泉鏡花や芥川龍之介らが不可思議な話を持ち寄り語る怪談会に没頭しました。そして現在では「民俗学の原点」とされている柳田国男『遠野物語』もこの「怪談ブーム」をきっかけとして生まれたものともいえます。
TVが主流になると心霊体験を再現したドラマ「あなたの知らない世界」やタレントの稲川淳二による怪談話などのオカルト番組が流行。また小説では海外でジャパニーズホラーの最高傑作と言われている鈴木光司の『リング』やミリオンセラーを記録した貴志祐介の『黒い家』なども国内外で映像化され、人気を呼びました。
現在では時代小説やミステリー、サスペンスなど様々なジャンルと合わさった怪談・ホラー小説が主流です。特にホラー要素のあるミステリーは、横溝正史の「金田一耕助のシリーズ」を始め、京極夏彦の「百鬼夜行シリーズ」、小野不由美「ゴーストハントシリーズ」など人気シリーズが多数あり、多くのファンを獲得しています。
今回はそんなバラエティ豊かなホラー小説の中から、ホラーが苦手な人でも楽しめる微ホラー小説を10冊を選びました。恐怖の感覚は人それぞれですので、あくまで私の基準で選んでいます。目安としてホラー度を星の数で表してみました。よろしければ参考にしてください。
心も体も涼しくなる忘れられない一冊に出会えますように…
営繕かるかや怪異譚 小野 不由美
~「この家には障りがある」古い日本家屋で体験する恐怖と涙と感動の怪談短編集~
story:「奥庭より」叔母から受け継いだ町屋に一人暮らす祥子。まったく使わない奥座敷の襖が、何度閉めても開いている。「屋根裏に」古色蒼然とした武家屋敷。同居する母親は言った。「屋根裏に誰かいるのよ」「雨の鈴」ある雨の日、鈴の音とともに袋小路に佇んでいたのは、黒い和服の女。 あれも、いない人?「異形のひと」田舎町の古い家に引っ越した真菜香は、見知らぬ老人が家の中のそこここにいるのを見掛けるようになった。等(出版社より)
ベストセラー小説『屍鬼』などホラー小説・ホラー要素があるミステリーの作風で人気の小野不由美の怪談短編集。作品解説は宮部みゆき。カバー絵は「蟲師」の漆原由紀。
京都の街並みは町家や武家屋敷など趣がありますね。しかし、ウナギの寝床と言われる町家は一歩中に足を踏み入れると、ほの暗く、じめじめとした庭は薄気味悪い。家の暗闇に感じる気配は、まるでそこに住んでいた人間の魂や念が留まっているような少し不気味な感覚を覚えます。
この短編集はそんな古い日本家屋での怪異のお話。
わずかに開いている障子、チリン、という鈴の音、何かが腐ったような臭気、五感から伝わる違和感は「そこにいるはずのないもの」の存在を示しギクリとさせます。
恐怖に怯える住人は「営繕かるかや」にたどり着きますが、彼は霊能者でも何でもなく、ただの大工だと言い…。
さまざまな怪異と少しずつ近づいてくる霊が本当に怖い。しかし、その結末は切なく優しい。
暖かい読後感で、ホラーが苦手な人にもおすすめです。
ホラー度★★★★★【怪談・京都・町家・武家屋敷・雨・井戸】
大分県中津市生まれ。京都大学推理小説研究会に所属し、小説の作法を学ぶ。1988年作家デビュー。「悪霊」シリーズで人気を得る。『残穢』は13年第26回山本周五郎賞を受賞。20年「十二国記」シリーズが第5回吉川英治文庫賞を受賞(「BOOK」データベースより)
夜行 森見 登美彦
~「世界はつねに夜なのよ」怪談×青春×ファンタジー、かつてない物語~
story:十年前、同じ英会話スクールに通う僕たち六人の仲間は、連れだって鞍馬の火祭を見物にでかけ、その夜、長谷川さんは姿を消した。十年ぶりに皆で火祭に出かけることになったのは、誰ひとり彼女を忘れられなかったからだ。夜は、雨とともに更けてゆき、それぞれが旅先で出会った不思議な出来事を語り始める。尾道、奥飛騨、津軽、天竜峡。僕たちは、全員が道中で岸田道生という銅版画家の描いた「夜行」という連作絵画を目にしていた。その絵は、永遠に続く夜を思わせたー。果たして、長谷川さんに再会できるだろうか。直木賞&本屋大賞ダブルノミネート作品。(「BOOK」データベースより)
日本ファンタジーノベル大賞や日本SF大賞、山本周五郎賞など数々の賞を受賞し、今や押しも押されもせぬ人気作家となった森見登美彦の連作怪談集。
森見登美彦の作品は想像力を刺激する。明確に答えを提示せずに読者の想像力をもって物語を完成させる面白さがあります。現実とファンタジーの曖昧さが読む者の心を躍らせ、まだ見ぬ世界へ連れて行ってくれる。
しかし、この物語は現実の向こうに暗い不気味な世界が口を開け読者を怪奇の世界へと誘う。
暗闇を走る夜行列車、夜のしんとした静かな世界、まるで現実味のない不思議な感覚や言い知れぬ淋しさ。彼らの旅はどんどん暗闇に吸い込まれているようで、また何かに誘われているようで、そして終わりのない旅にも思える。
友人は何故姿を消したのか。集まったメンバーの回想と奇妙な体験。
ミステリーかファンタジーかホラーか、それとも…。
気が付くと不気味で幻想的な世界に足を踏み入れている。
不思議で薄気味悪い、余韻が残る読書体験。
ホラー度★★★★★【夜行列車・京都・鞍馬・銅版画・怪談・ミステリー】
1979年、奈良県生まれ。京都大学農学部卒、同大学院農学研究科修士課程修了。2003年、『太陽の塔』で第15回日本ファンタジーノベル大賞を受賞してデビュー。07年『夜は短し歩けよ乙女』で第20回山本周五郎賞受賞。10年『ペンギン・ハイウェイ』で第31回日本SF大賞受賞。16年『夜行』で第156回直木賞候補。18年『熱帯』で第160回直木賞候補、翌年第6回高校生直木賞受賞(「BOOK」データベースより)
あひる 今村 夏子
~「おかえりのりたま」言葉の裏に潜む影の奥深さ。底知れない恐ろしさが、この小説にはある~
日常のちょっとした変化ー「あひる」がやってきたことによって起こる日常の些細な変化ーに人間の本質が垣間見えますが、「わたし」を含めた家族はそのことに気づきません。そして「わたし」の立場で読んでいる読者もおそらくそのことのいびつさに気付かないでしょう。
しかし、子供のある疑問によりそれが突然暴かれ、背筋が寒くなる。
何よりも怖いのは生きている人間。この小説は人間の恐ろしい本質を体験するホラー小説。もちろんそれは、これを読んでいるあなたの中にも…。
大きい文字で文章量も少なく読みやすい。新しい読書体験を。
ホラー度★★★【人間・家族・心の拠り所・あひる・子供・】
1980年広島県生まれ。2010年「あたらしい娘」で太宰治賞を受賞。「こちらあみ子」と改題し、同作と新作中短編「ピクニック」を収めた『こちらあみ子』で11年に三島由紀夫賞、17年『あひる』で河合隼雄物語賞、『星の子』で野間文芸新人賞、19年『むらさきのスカートの女』で芥川賞受賞(「BOOK」データベースより)
向日葵の咲かない夏 道尾 秀介
~「僕は殺されたんだ」発売2年で100万部を売り上げた人気ミステリー小説~
直木賞や本格ミステリー大賞を始めとする数々の賞を受賞し、実力と人気を兼ね備えた道尾秀介の代表作。
この小説はS君の死の謎をめぐるミステリーでありながら、S君の幽霊を見たり、S君の生まれ変わりが目の前に現れたりで、まるでホラー小説を読んでいるかのような恐怖を味わえます。また、残酷な描写やグロテスクな表現も多く、サイコサスペンス的側面も。
謎を解明する相棒が生まれ変わったS君という一風変わった物語ではありますが、彼らを取り巻く環境の過酷さや、大人たちの狂気ともとれる行動や性格、事件の異常性によって違和感は感じられません。しかし、どこか感覚が狂うのような気持ち悪さがあり、それがこの作品の持ち味とも言えます。
賛否両論のホラー・サイコ・サスペンス・ミステリー。不快感と恐怖を感じながらも先が気になってページをめくる手が止まらない。
冷たい汗が体温を下げてくれる、暑い夏に読みたい小説です。
ホラー度★★★★★【夏休み・子供・学校・昆虫・家族・】
1975年東京都出身。2004年『背の眼』でホラーサスペンス大賞特別賞を受賞しデビュー。07年『シャドウ』で本格ミステリ大賞を、09年『カラスの親指』で日本推理作家協会賞を、10年『龍神の雨』で大薮春彦賞を、同年『光媒の花』で山本周五郎賞を、11年『月と蟹』で直木賞を受賞(「BOOK」データベースより)
儚い羊たちの祝宴 米澤 穂信
~「殺人者は赤い手をしている」最後の一文にゾッとするミステリー~
story:夢想家のお嬢様たちが集う読書サークル「バベルの会」。夏合宿の二日前、会員の丹山吹子の屋敷で惨劇が起こる。翌年も翌々年も同日に吹子の近親者が殺害され、四年目にはさらに凄惨な事件が。優雅な「バベルの会」をめぐる邪悪な五つの事件。甘美なまでの語り口が、ともすれば暗い微笑を誘い、最後に明かされる残酷なまでの真実が、脳髄を冷たく痺れさせる。米澤流暗黒ミステリの真骨頂。(「BOOK」データベースより)
時代ミステリー『黒牢城』で今年直木賞を受賞した人気作家、米澤穂信のホラーミステリー短編集。
昭和初期頃をイメージさせる、上流階級のお屋敷で起こる怪奇な事件。貴族のような上品な語り口がその世界観を盛り上げ、無邪気な外面と残酷な内面とのアンバランスさが恐怖を一層際立たせます。
また、一般社会から隔離されたお屋敷という世界での独特な生活や上下関係が現実離れしているため、猟奇的な事件もそこまで生々しく感じることなく、怪奇な世界に浸ることができます。
特にどの物語も最後の一行が衝撃的。それまでの先入観や予想を裏切る一言にゾッとする。女性の持つ執念深さであったり、したたかさも良い恐怖のスパイスになっていてじわじわくるが、後味は決して悪くありません。
人間の中に潜む悪魔が見えるホラーミステリー。
あなたもこの宴に参加して恐怖を堪能しますか?それとも…
ホラー度★★★★【お屋敷・上流階級・お嬢様・使用人・読書会・バベルの会】
1978年岐阜県生まれ。2001年『氷菓』で第五回角川学園小説大賞奨励賞(ヤングミステリー&ホラー部門)を受賞しデビュー。11年『折れた竜骨』で第六四回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を、14年『満願』で第二七回山本周五郎賞を受賞。同作で「ミステリが読みたい!」「週刊文春ミステリーベスト10」「このミステリーがすごい!」の国内部門一位で、史上初のミステリーランキング三冠を達成。翌年『王とサーカス』でもミステリーランキング三冠に輝く(「BOOK」データベースより)
夏と花火と私の死体 乙一
~「五月ちゃん、死んでるじゃないか。」ホラー界驚愕!~
story:九歳の夏休み、少女は殺された。あまりに無邪気な殺人者によって、あっけなくー。こうして、ひとつの死体をめぐる、幼い兄妹の悪夢のような四日間の冒険が始まった。次々に訪れる危機。彼らは大人たちの追及から逃れることができるのか?死体をどこへ隠せばいいのか?恐るべき子供たちを描き、斬新な語り口でホラー界を驚愕させた。(「BOOK」データベースより)
乙一がわずか十六歳で書き上げた衝撃のデビュー作。第六回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞受のホラーです。
こんな作品は今まで見たことない。
この小説が発表された当時、その斬新な視点や描写、構成力に周囲の作家は騒然した。とは解説の小野不由美の言葉。
九歳の、しかも死体の「わたし」が殺され、その後の一連の出来事をまるで子供のひと夏の冒険のように語っている。その世界観がとても斬新です。
ジャンルはホラーですが、ミステリーやサスペンスの要素もあって面白い。
無邪気さと残酷さが同居した子供の言葉や行動を淡々と語ることで、その幼さゆえの恐ろしさが伝わってきます。それに加え、子供の短絡的な思考に大人としては最後までハラハラさせられっぱなし。
150ページに満たない短編なので一気に読むことが出来ます。
夏らしいお勧めのホラー小説。
ホラー度★★★★【死体・誘拐・行方不明・村・田園・小学生・花火】
17歳のとき『夏と花火と私の死体』で第6回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞を受賞しデビュー。2002年『GOTH リストカット事件』で第3回本格ミステリ大賞を受賞。複数の別名義で小説を執筆、安達寛高名義では映像作品の脚本、監督作品を発表している(「BOOK」データベースより)
夜市 恒川 光太郎
~「坊や、お金がないなら、その連れている子で代わりに支払ってもいいんだぜ」哀しみをたたえた幻想的な世界~
story:妖怪たちが様々な品物を売る不思議な市場「夜市」。ここでは望むものが何でも手に入る。小学生の時に夜市に迷い込んだ裕司は、自分の弟と引き換えに「野球の才能」を買った。野球部のヒーローとして成長した裕司だったが、弟を売ったことに罪悪感を抱き続けてきた。そして今夜、弟を買い戻すため、裕司は再び夜市を訪れたー。奇跡的な美しさに満ちた感動のエンディング!(「BOOK」データベースより)
第12回日本ホラー小説大賞を受賞した常川幸太郎のデビュー作。2018年には少女漫画雑誌に漫画連載もされました。
昔は人が何の前触れもなく行方不明になったり、忽然と姿を消したりするのは神の仕業として考えられていました。この「神隠し」は、柳田国男の『遠野物語』にもあるように各地方でさまざまな伝承として残っていますが、多くは「神域」ー現世と、死後の世界とも言われる常世や隠世などの境界線ーに足を踏み入れたためとされています。踏み入れてはいけないとされるこの「神域」は『浦島太郎』の竜宮城や、アニメ『千と千尋の神隠し』のように現世と時間の流れが違っていたり、幻想的な異世界のように表現される物語も数多くあります。しかし、その多くは境界線を越えるのに多大な犠牲を求められます。
この物語は、夜の暗闇に何かがいるような気配、見知らぬ場所へ行った時の心細い気持ち、そんな子供の頃に感じた恐怖や心許なさを思い起こすでしょう。子供の頃に体験した様々な冒険も終わりに近づくにつれ、もの哀しくなったものですね。
暑い夏、童心に帰って近代の怪奇幻想文学の世界に涼みに行ってはいかがでしょうか。
もう一つの物語『風の古道』の迷子のくだりは、著者の奇妙な実体験にもとづくものだそうです。
ファンタスティックでホラーな世界は意外にもあなたのすぐ側にあるのかもしれません。
ホラー度★★★【子供時代・夜市・人攫い・異世界・怪奇幻想小説】
1973年東京都生まれ。大東文化大学卒。2005年、「夜市」で日本ホラー小説大賞を受賞。単行本はデビュー作にして直木賞候補に。続く『雷の季節の終わりに』と『草祭』『金色の獣、彼方に向かう』(角川文庫版は『異神千夜』に改題)は山本周五郎賞候補、『秋の牢獄』『金色機械』は吉川英治文学新人賞候補、『滅びの園』は山田風太郎賞候補と、新作を出すごとに注目を集める。14年『金色機械』で日本推理作家協会賞を受賞(「BOOK」データベースより)
東京奇譚集 村上 春樹
~「偶然に導かれた体験です」都市の隙間のあやしく底知れぬ世界へと導く5つの物語~
story:肉親の失踪、理不尽な死別、名前の忘却…。大切なものを突然に奪われた人々が、都会の片隅で迷い込んだのは、偶然と驚きにみちた世界だった。孤独なピアノ調律師の心に兆した微かな光の行方を追う「偶然の旅人」。サーファーの息子を喪くした母の人生を描く「ハナレイ・ベイ」など、見慣れた世界の一瞬の盲点にかき消えたものたちの不可思議な運命を辿る5つの物語。(「BOOK」データベースより)
毎年ノーベル文学賞候補として名前が挙がり、国内外の数々の賞を受賞している村上春樹の短編集。『ハナレイベイ』は2018年に映画化されています。
お洒落、奇抜な展開、物語の結論を明確にせず読者を煙に巻く。そんな風に喩えられる村上春樹の作品はとても難解だと言われています。しかしそれは「フィクションからノンフィクションへと継ぎ目なく移動する」所以でもあるようです。海外では著者の独特な隠喩表現に数多くの称賛の声があり、ファンも多いとのこと。
この短編集はそんな村上作品の中でもとっつきやすくい小説。村上春樹入門のとしても人気です。
物語は偶然起こりそうで、実際にあったら不思議な5つのお話。
第1章「偶然の旅人」は著者が直接体験した偶然にしては不思議な話と、彼の知人の身に実際に起こった偶然というにはあまりにも奇跡的な話で、この物語だけは実話をもとに描かれています。
偶然では片づけられない『あなたの近くで起こっているかもしれない物語』。
友人の話を聞いているような、そんな感覚で読める物語です。
ホラー度★★【偶然・再会・ハワイ・ジャズ・階段・石・猿】
1949(昭和24)年、京都市生まれ、早稲田大学文学部演劇科卒業。79年『風の歌を聴け』(群像新人文学賞)でデビュー。主な長編小説に『羊をめぐる冒険』(野間文芸新人賞)、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(谷崎潤一郎賞)などがある。ほかに、短編集やエッセイ集など多くの著作や翻訳書がある(「BOOK」データベースより)
異類婚姻譚 本谷 有希子
~「旦那と、顔が一緒になってきました」日常の違和感をユーモアに描いた寓話集~
story:子供もなく定職にもつかず、ただ安楽な結婚生活を送る主婦の私はある日、いつの間にか互いの輪郭が混じりあって、自分の顔が夫の顔とそっくりになっていることに気付く…。夫婦という形式への強烈な違和を軽妙洒脱に描いた表題作で第154回芥川賞受賞!自由奔放な想像力で日常を異化する中短編4作を収録。(「BOOK」データベースより)
劇作家、小説家、演出家、女優、声優など様々な顔を持つ、本谷有希子の芥川賞受賞作。
「異類婚姻譚」とは、神や動物など人間と違った種類の存在と人間とが結婚する説話の総称なんだとか。よく知られているものとしては「鶴の恩返し」や「羽衣伝説」など。この物語はこれらの説話を現代人にあてはまめた寓話なのだそうです。
よく、夫婦が似てくるって言われますが、あれはどうしてでしょうか。
この物語の主人公はある日、自分の顔が夫に似てきたことに気づいてから、夫の顔をよく観察するようになります。すると驚愕の事実が見えてきて…。
もう、その事実がブラックユーモア過ぎて面白いけど怖い。そして、それを寓話で描いているところにこの作品の良さがあると思います。誰にでも当てはまるこの話、自分は大丈夫かと思わず鏡を覗き込んでしまうでしょう。
面白く、恐ろしい物語には教訓も隠されている。
あなたの家族は、夫は、妻は、もしかして?
ホラー度★★【夫婦・家族・寓話・妖怪・比喩・シュール】
1979年生まれ。2000年「劇団、本谷有希子」を旗揚げし、主宰として作・演出を手がける。’06年上演の戯曲『遭難、』(講談社)で第10回鶴屋南北戯曲賞を史上最年少受賞。’08年上演の戯曲『幸せ最高ありがとうマジで!』(講談社)で第53回岸田國士戯曲賞受賞。小説では’11年に『ぬるい毒』(新潮社)で第33回野間文芸新人賞、’13年に『嵐のピクニック』で第7回大江健三郎賞、’14年に『自分を好きになる方法』(講談社)で第27回三島由紀夫賞、’16年に『異類婚姻譚』(講談社)で第154回芥川龍之介賞を受賞(「BOOK」データベースより)
怪談・奇談 小泉八雲
~陰惨な幽霊物語を芸術味のある文学にまで仕上げたハーン文学ここにあり~
story:その魂の底に清らかな情熱をたたえた庶民詩人は、日本の珍書奇籍をあさって、久しく塵にまみれていた陰惨な幽霊物語に新しい生命を注入した。壇ノ浦の合戦というロマンティックな歴史的悲劇を背景に、盲目の一琵琶法師のいたましいエピソードを浮き彫りにした絶品「耳なし芳一のはなし」等芸術味豊かな42編。(出版社より)
小泉八雲は日本の伝説や民話などを素材にして多くの短編物語を書きました。その中の怪奇物語から選りすぐりまとめた怪奇文学作品集。
ギリシャ生まれのパトリック・ラフカディオ・ハーン は様々な国を渡った後、アメリカ合衆国の出版社の通信員として来日し、日本人女性と結婚。帰化して日本人となり、小泉八雲を名乗りました。
元々、文学の領域において怪奇で異様なものを好む傾向があった八雲は日本の幽霊話に興味を持ち、英語教師として教壇に立つ傍ら、日本のさまざまな奇書珍籍などの素材を集め短編の創作を行っていました。この「怪談」部分は没後に出版されたものです。
有名な幽霊話を翻案したこの短編集は、ろくろ首、雪女など有名な妖怪も含め沢山の怪談話が載っています。八雲が描く物語は妖怪の恐ろしさだけではなく人間の情や業なども描かれていたり、民俗学的側面もあり面白い。
日本におけるホラー小説の原点である「怪談」。マイナーな存在だった「怪談」に着目し、独自の解釈や工夫を凝らし、再話文学を作り出した八雲の功績は大きい。
一度は読んでおきたい、芸術味豊かな怪奇文学作品集です。
ホラー度★★★★【民話・伝説・幽霊話・民俗学・日本】
1850年、ギリシアのイオニア諸島にあるレフカダ島で、アイルランド人の父とギリシア人の母の間に生まれる。幼くして父母と別れ、19歳でアメリカに渡る。以後、世界各地を転々とし、90年、通信記者として来日。同年、小泉節子と結婚。96年帰化し、小泉八雲と改名。英語、英文学を講じる一方、日本人の内面や日本文化の本質を明らかにする作品を描き続けた。1904年没(「BOOK」データベースより)
こちらもオススメ1:実話をもとにしたホラー&ミステリー小説。
火のないところに煙は 芦沢 央
story:「神楽坂を舞台に怪談を書きませんか」突然の依頼に、作家の“私”は驚愕する。心に封印し続けた悲劇は、まさにその地で起こったのだ。私は迷いつつも、真実を求めて執筆するが…。評判の占い師、悪夢が憑く家、鏡に映る見知らぬ子。怪異が怪異を呼びながら、謎と恐怖が絡み合い、直視できない真相へとひた走る。読み終えたとき、それはもはや他人事ではない。ミステリと実話怪談の奇跡的融合。(「BOOK」データベースより)
新ミステリーの女王と称される今注目の作家のホラー短編集。
モキュメンタリー仕立てのホラーはリアリティがありとても怖い。
ミステリーを核にしたホラーなので、怖さもありながら面白さもあり、読む手が止まらなかった。
ホラー初心者にもおすすめ。
ホラー度★★★★★【実話・霊・恨み・東京】
1984(昭和59)年、東京生れ。千葉大学文学部卒業。2012(平成24)年、『罪の余白』で第3回野性時代フロンティア文学賞を受賞しデビュー。’18年、『火のないところに煙は』で静岡書店大賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データーベースより)
こちらもオススメ2:妖怪ミステリーといえばこの名作
姑獲鳥の夏 京極 夏彦
story:久遠寺医院の娘は二十ヵ月の間、身籠ったままという。その夫は密室から消え、行方が知れない。古本屋にして陰陽師の京極堂が、医院で頻発する怪事件を紐解き、ついに名家の呪いに迫るー。
意識とは、心とは何か。「不思議」を生み出すのは脳に過ぎないのか。推理の前提をくつがえす、現代ミステリーの金字塔。(出版社より)
妖怪小説とも言われる、京極夏彦の推理小説「百鬼夜行シリーズ」1作目。
祈祷師や、探偵、ともに戦地で戦った刑事などキャラクターの強い個性や、やり取りが面白く、文体や話し言葉などからも戦後復興期の雰囲気が感じられます。
どこからか妖怪の息遣いが聞こえてきそうな、おどろおどろしい作品の独特な世界観がしっかり作り上げられていて、シリーズのファンも多い作品です。
ホラー度★★★★【妖怪・昭和初期・祈祷師・探偵・刑事・文士】
1963年北海道小樽市生まれ。1994年『姑獲鳥の夏』でデビュー。1996年『魍魎の匣』で第49回日本推理作家協会賞長編部門を受賞。1997年『嗤う伊右衛門』で第25回泉鏡花文学賞を受賞。2000年第8回桑沢賞を受賞。2003年『覘き小平次』で第16回山本周五郎賞を受賞。2004年『後巷説百物語』で第130回直木三十五賞を受賞。2011年『西巷説百物語』で第24回柴田錬三郎賞を受賞。2016年遠野文化賞を受賞。2019年第62回埼玉文化賞を受賞。日本推理作家協会代表理事に就任(「BOOK」データベースより)