2019年 本屋大賞受賞作6・18本屋大賞とは、全国の書店員が選んだ「いちばん!売りたい本」です。
書店に行くと、多くの本が並んでいますが、どの本を買ったらよいか迷いますよね。書店員さんは毎日本に触れていて、多くの本を読まれる方が多いです。また、著者や売れ筋について多くの知識を持ち、情報交換も盛んに行っています。
本屋大賞は過去一年の間、書店員自身が自分で読んで「面白かった」、「お客様にも薦めたい」、「自分の店で売りたい」本を投票し決めるものです。その中で選ばれた上位10作品が入賞します。
全体を通して比較的読みやすく、多くの読書家の間でも人気の作品が多い傾向ですので、本選びに迷ったら、是非参考にしてください。
※3位の「ベルリンは晴れているか」以外は全て文庫化されています。(2021年12月1日現在)。
そして、バトンは渡された 瀬尾まいこ
何度も両親が変わり、血のつながらない父親、森宮さんと暮らす高校生の優子は担任の先生から悩みがあれば打ち明けるよう声をかけられるのだが、悩みが見つからず心配してくれる先生に申し訳なく思ってしまう程で…
本屋大賞を受賞した人気小説。今秋、映画化されました。
血のつながりとは?親子とは?家族とは?人とのつながりの意味や大切さを考えさせられます。
美味そうな料理と思いやり溢れる会話がある食卓シーンが多くほっこり。森宮さんと毎日一緒に囲む食卓は家族の幸せが詰まっており、暖かい気持ちになれる一冊です。
ひと 小野寺史宜
本屋大賞2位受賞の心温まる青春小説。
誰にでも孤独を感じる瞬間がある。孤独になった時どうすればよいのだろうか?
人との触れ合いの中で自分を探す若者。実直な性格の主人公を応援したくなりました。周りの人のやさしさに気づき、ほっこりする読後感。
ベルリンは晴れているか 深緑野分
2019年本屋大賞3位の歴史ミステリー。
この物語は、歴史上類を見ない4カ国統治時代のドイツならではの歴史ミステリー。
第二次世界大戦敗戦後のドイツでは、アメリカ、イギリス、フランス、ソビエト連邦の4か国による分割占領が開始され、ベルリン市内のあちこちに、我が物顔の各国の兵士が歩いている有様。
アメリカの占領地で働くドイツ人少女アウグステは、ソ連の占領地の領内で起きた事件の容疑をかけられた。無罪を証明するため、人探しをすることになったのだが…。
ポツダム会談目前の連合国同士の緊張感が高まる中、ドイツを舞台に繰り広げられるアウグステの人探しは、逃げたり、追いかけたり、捕まったりでちょっとした冒険小説のようで面白い。
各国の兵士の雰囲気や対応の違いがリアルで、戦後のドイツの街並みが目に浮かぶようです。
また、ナチスが国民に浸透していく様子、近所に住むユダヤ人の変化など戦時中のドイツ国民の暮らしも描かれていて、知らないことも多いのだと気づかされる。
ナチスやホロコーストについての映画や本は色々ありますが、それを日本人の感覚で表現された物語はそんなに多くないように思います。
ミステリー仕立ての歴史書という風にも感じられ、物語を楽しみながらも外国の歴史を知ることができました。
熱帯 森見登美彦
著者森見登美彦の手記という形で始まる作中作。森見が偶然手に入れた「熱帯」という小説。しかし、この本を半ばまで読んだところで、失くしてしまう。どうしても続きが気になり、新しい本を購入しようとするが、まるで存在しないかのように手がかりがつかめない。諦めかけていたところに「熱帯」を手にしている女性と出会って…
主人公は「熱帯」の物語の中に入ってしまうのですが、「熱帯」の中は美しい南国の景色と雰囲気に現実から解き放たれた解放感があり、ちょっとした冒険小説の主人公のような気分を味わえます。人生を楽しめというメッセージが込められている気もしました。
「千一夜物語」になぞらえた入れ子構造の物語形式で、読んでいくうちに、作品の中の現実と「熱帯」の物語の世界がだんだん区別がつかなくなって、今どこにいるのか分からない感覚に陥ってしまう。ウィットに富んだモリミワールドを体験できるでしょう。
ある男 平野啓一郎
芥川賞作家平野啓一郎の読売文学賞受賞作品。
弁護士の城戸はかつての依頼者、里枝から彼女の夫「大祐」の死後、彼が全くの別人だったということが判明したという話を聞き、他人の人生を生きた男「大祐」の正体を突き止めるため調べ始めるが…
「大祐」の正体が明るみに出るにしたがって、彼の呪われた人生と社会の闇が浮かび上がってくる。一旦人生の歯車が狂うと、どんどん落ちて行ってしまう怖さと、それは決して他人事ではなく身近に潜んでいる闇なのだと実感させられる。
また、家族愛もこの物語のテーマの一つ。人を愛する、思いやることで、どんな苦難も乗り越えられるのだろうか?また、苦難はどうやったら乗り越えられるのだろうか?「大祐」の家族の葛藤や優しさにも心が動かされました。
現代の闇と愛を描いたおすすめの作品です。
さざなみのよる 木皿泉
「野ブタ。をプロデュース」の夫婦脚本家、木皿泉の本屋大賞ノミネート作品。
ナスミは43歳でがんを宣告され、残り少ない人生を病室で過ごしていた。病気になって初めてわかった家族の大切さ、何でもない日常がどんなにすばらしい事かということ。ナスミの想いが淡々と綴られていく…
どんなに不摂生をしても、真剣に健康について考えたり、万が一の事があったらなんて日頃考えている人は少ないと思います。例えば、いざ病気が見つかって入院や手術が必要だと知った時に初めて真剣に考えたりするのではないでしょうか。そして、それは本人だけでなく、家族や友人、同僚など周りの人達も同じことです。
この物語は、ナスミと彼女の死に向き合う人々それぞれのオムニバスの物語。彼らの気づきや告白など、文章の至る所に胸を打つ言葉であったり、考えさせられる言葉が沢山ありました。
物語を通して病気になって初めてわかることや、本当に大切なものは何かを教えてくれます。
納得のいく人生を送れるように、今の幸せを見落とさないように、忙しい毎日を改めて考えるきっかけをくれる物語です。
愛なき世界 三浦しをん
2019年の本屋大賞ノーミネイトされた三浦しをんの新刊。
T大学の近くにある洋食屋で、料理人見習い中の青年、藤丸が大学院生本村さんに恋をした。本村さんに思いを寄せつつ、交流を重ねるうちに彼女の研究する植物の世界の魅力を知ってゆく…
青春の淡い恋心が素敵な物語。同時に植物の表現がとても魅力あふれていて、かわいらしく愛着がわいてきます。遺伝子の研究をしている場面では、研究に使う器具や機械の名称、草木の構造などの専門用語も知ることができる。恋も植物も料理も好きなことに夢中になれる彼らの青春研究小説です。
ひとつむぎの手 知念実希人
大学病院で過酷な勤務に耐えている平良祐介は、医局の最高権力者・赤石教授に、三人の研修医の指導を指示される。彼らを入局させれば、念願の心臓外科医への道が開けるが、失敗すれば……。さらに、赤石を告発する怪文書が出回り、祐介は「犯人探し」を命じられる。医療ミステリーの旗手が挑む、スリリングなヒューマンドラマ!(出版社より)
読書ブログはコチラ☛「ひとつむぎの手」知念実希人(作成予定)
火のないところに煙は 芦沢央
新ミステリーの女王と称される今注目の作家のホラー短編集。
モキュメンタリー仕立てのホラーはリアリティがありとても怖い。
ミステリーを核にしたホラーなので、怖さもありながら面白さもあり、読む手が止まらなかった。ホラー初心者にもおすすめ。
フーガはユーガ 伊坂幸太郎
この物語の主人公、優我と風我は双子の兄弟。
彼らの子供時代は二人で運命を共有することで、なんとか生き延びることができるくらい不幸せな子供時代だった。そして二人は子供だから、与えられた境遇を受け入れるしかなかった…というやられっぱなしの展開にはならない。なぜなら、彼ら兄弟だけの、誕生日にだけ起きる不思議な現象、「アレ」があったから…
冒頭から、これはイヤミスかと身構えてしまうくらいの虐待シーンがある。
虐待は社会問題、現状はこんなにひどいものですよと表現するだけではなく、それに対してどういう風に考えたらよいのか、どう対処したらよいのか、何かしら前向きにこの問題の突破口を探そうとする著者の挑戦がうかがえます。
伊坂幸太郎作品の物事の見方にハッとさせられたり、面白い言い回しで笑わせられたり、前向きになれる言葉があったり、そういう所は健在で、暗い中にもなんとか救いを見出そうと工夫されている一方で、どうしようもない現実も容赦なく描かれている。
これは伊坂幸太郎作品史上もっとも切なくて、でも、あたたかい、そんな物語。