ザリガニの鳴くところ ディーリア・オーエンズ

オーエンズ,ディーリア
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~広大な湿地でたったひとり生きる少女に、ある殺人の容疑がかかる~

こんにちは、くまりすです。今回は2021年本屋大賞翻訳部門1位の世界的ベストセラー小説、ディーリア・オーエンズザリガニの鳴くところ」をご紹介いたします

story:

ノース・カロライナ州の湿地で男の死体が発見された。人々は「湿地の少女」に疑いの目を向ける。6歳で家族に見捨てられたときから、カイアは湿地の小屋でたったひとり生きなければならなかった。読み書きを教えてくれた少年テイトに恋心を抱くが、彼は大学進学のため彼女のもとを去ってゆく。以来、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれ蔑まれながらも、彼女は生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へと思いをはせて静かに暮らしていた。しかしあるとき、村の裕福な青年チェイスが彼女に近づく…みずみずしい自然に抱かれて生きる少女の成長と不審死事件が絡み合い、思いもよらぬ結末へと物語が動き出す。全米500万部突破、感動と驚愕のベストセラー。(「BOOK」データーベースより)

ミステリー

1969年、沼地で一人の男が不審な死を遂げた。村人は「湿地の少女」と呼ばれていた女性、カイアが事件に関与していると疑うが…。残酷な運命に翻弄された一人の女性の人生を辿りながら、事件の真相へと迫るー。

(前略)保安官であれ警察官であれ、かつて、ススキに埋もれたあちら側の地にまで取り締まりの手を広げたものはひとりもいなかった。(中略)
だが、ジャクソンはたいていの場合、沼地で起きた事件は無視することにしていた。ならず者がならず者を殺したからといって、わざわざ首を突っ込む必要があるとは思わなかったのだ。

物語の舞台は米国南部地域、ノースカロライナ州の湿地帯。この湿地帯は入植者や犯罪者、社会的階層の低い、または生活水準が低い貧困層が住み着き、無法地帯となっていました。

村の近くの沼地に浮かんでいた死体はチェイスという女好きで有名な男でしたが、彼はハンサムで、クォーターバックのスター選手として村人から一目置かれた存在でもありました。誰もが知るこの男の死は村人たちに衝撃を与え、普段なら見過ごされるはずの「沼地で起きた事件」に捜査の手が入ったのです。

ヴァーン、こいつはどうも妙だぞ。遺体のそばには足跡がまったくないんだ。(後略)

エド・ジャクソン保安官と医師ヴァーンが現場を検証するも、沼地には犯人はおろか、チェイスの足跡も残っていませんでした。事件にしろ事故にしろ、足跡がないのはおかしい。頭を悩ませる二人ですが、チェイスが頻繁にひとりで湿地に通っていたという話を耳にして…。

湿地の少女

沼地の事件と並行して語られるのはカイア視点の物語。
1952年、湿地で貧しい暮らしをしている家族。末っ子のカイアは朝、母親が玄関の網戸を乱暴に閉めて出かけたことに不安を覚えました。母は今まで一度もそんな乱暴に閉めたことはなかったのです。

「赤ん坊を捨てたキツネの話をしてたじゃない」

母親がこのまま帰ってこないのではないかと不安になるカイア。七つ上の兄ジョディは「母親は子供を置き去りにしたりしない」と励ましますが、カイアは子ギツネを捨てた母キツネの話を思い出し、反発します。
いつもと違う母親の様子、子供は意外と敏感なところがありますね。カイアは何か予感があったのかもしれません。

「おれも行かなくちゃならない、カイア。これ以上ここで暮らしてはいけないんだ」

カイアの父親は四六時中酒を飲み、気に入らないことがあると家族に暴力を振るう男でした。父親の暴力から逃れようと、ついにジョディもカイアを残して家を去ってしまいます。

「ほら来た。あんなに高く、あんなにたくさん飛んてたんじゃとても数えられないけど」

父親と二人になったカイア。しかし、父親もあまり家には帰ってきません。
トウモロコシ粉を放ってやると浜に降り立ってきた沢山のカモメ。大きなカモメがカイアの傍らに寄ってきます。カイアの7歳の誕生日を祝ったのはこのカモメたちだけでした。

一人で生きて行かなくてはならなくなったカイア。厳しい大自然の営みの中でカイアの孤独で、愛に翻弄された人生始まろうとしていたのです。

感想

全世界で1200万部を売り上げた『ザリガニの鳴くところ』が、著者のディーリア・オーウェンズの作家としてのデビュー作であり、69歳にして初めて執筆した小説だと言うのだから驚きです。それまでも動物学者としてノンフィクションを三作世に出し素晴らしい功績を挙げていますが、彼女は子供の頃から小説家になる夢も持っていたそうで、仕事の引退を期に新たな挑戦として10年かけてこの小説を書き上げたバイタリティーは凄いの一言。

作品の舞台はノース・カロライナ州のディズマル湿地をモデルとしていると言われています。アメリカ南部地域はイギリスによる植民地化以来、人種差別が著しい地域でもありますが、この作品を通して白人にも階級があることを知りました。この一家のように、戦争や大恐慌によって貧困に陥り、白人でも土地を持たず非生産性な最下層の人間という烙印を押された人たちが数多くいたのだと思います。物語の根底にある人々の差別意識と美しい自然の対比がよりカイアの孤独を際立たせていました。

一方で、著者が動物学者なこともあり、豊かな大自然の描写や、湿地の生き物の生態の表現がとてもリアルで、壮大で美しい光景がありありと目に浮かびます。繰り広げられる生物の営み、厳しい生存競争の専門的な描写も数多くあって、面白い。

物語の中心はカイアの愛の物語です。家族に捨てられた過去から人間不信に陥っていたカイアの恋心がもどかしい。芯の通った強さと、しなやかな美しさを持った女性に成長したカイアと二人の男性。そして事件の行方。人間の尊厳を問う、読み応えたっぷりな物語でした。

オーエンズ,ディーリア(Owens,Delia)
ジョージア州出身の動物学者、小説家。ジョージア大学で動物学の学士号を、カリフォルニア大学デイヴィス校で動物行動学の博士号を取得。ボツワナのカラハリ砂漠でフィールドワークを行ない、その経験を記したノンフィクション『カラハリーアフリカ最後の野生に暮らす』(マーク・オーエンズとの共著、1984)(早川書房刊)が世界的ベストセラーとなる。同書は優れたネイチャーライティングに贈られるジョン・バロウズ賞を受賞している。また、研究論文は“ネイチャー”誌など多くの学術雑誌に掲載されている。現在はアイダホ州に住み、グリズリーやオオカミの保護、湿地の保全活動を行なっている。69歳で執筆した初めての小説である(「BOOK」データーベースより)

ザリガニの鳴くところ映画公式HP👇

映画『ザリガニの鳴くところ』予告

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