しろがねの葉 千早 茜

千早茜
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~「ただ、信じるものがないとな、あの闇には耐えられんのじゃ」過酷な環境で生き抜いた女性の生涯~

こんにちは、くまりすです。今回は千早茜直木賞受賞作品『しろがねの葉』をご紹介いたします。

story:

戦国末期、シルバーラッシュに沸く石見銀山。天才山師・喜兵衛に拾われた少女ウメは、銀山の知識と秘められた鉱脈のありかを授けられ、女だてらに坑道で働き出す。しかし徳川の支配強化により喜兵衛は意気阻喪し、庇護者を失ったウメは、欲望と死の影渦巻く世界にひとり投げ出されたー。繰り返し訪れる愛する者との別れ、それでも彼女は運命に抗い続ける。(「BOOK」データーベースより)

銀の葉

かつて日本は世界の銀産出量の3分の1を占めていたと言われています。その大部分は石見銀山から産出されていました。物語の舞台は、この銀山が毛利元就の支配下で最盛期を迎えていた時代。
当時、天候に左右される農家と比べ、鉱夫とその家族は安定した収入を得ていました。しかし、それと引き換えに彼らには過酷な運命を辿ることになるのです。

「山を二つ、三つ超えた石見の国にな、光る山があるんじゃと」
「銀を掘れば米が食えるそうな」

この物語の主人公は農家の娘として生まれたウメ。ある夜、ウメは貧しい生活から抜け出すため、両親と共に石見の国に向かいますが、離れ離れになってしまいます。半死半生で山を越えるウメ。心許なさを感じながらも目的地を目指す姿に、彼女の強さが垣間見えます。

気付くと、闇に光るものがあった。葉のようだった。あかるい緑色で、羽毛のようなかたちをしている。葉脈の一本一本が、夜空の星を集めたかの如く、瞬いている。よく見ると、光の粒が葉の中を動いていた。根元から葉先へと吸いあげられている。光の粒は震えているようにも、囁いているようにも見えた。
ウメはきれいだと思った。こんなきれいなものがあるのか。

あまりにも神秘的で、恐ろしささえ感じる植物ですね。
初めて目にした美しい植物を手にするウメ。
ふいに落雷のような声が降ってきます。

「(前略)これはな、銀の在処を教えてくれる羊歯じゃ。ここの者はな、童とて容赦はせんぞ。この細っこい手足を一本ずつ切り落としてでも、吐かせるからのう」

ウメを恫喝した男は泣きじゃくるウメを抱き上げ、豪快に笑います。

「銀の輝きは炎の比じゃねえ。山の胎闇が光を濾すんじゃ。銀はそうして生まれる」
「目にすれば、狂れるぞ」

それが、銀の気が視えると謳われた山師・喜兵衛との出会いでした。

銀堀

「威勢のいい餓鬼じゃ。手子にする。間歩じゃあ人手はいくらあっても困らん」

手子とは使い走りの子供のこと。
名うての山師・喜兵衛のもとで家族として暮らし、手子として働くウメ。充実した食事であったり、愛情を注いでもらったりと幸せな毎日を送る姿がほほえましい。いいことづくめの暮らしのように思われますが…。

「なにがあったんじゃ」
「間歩が崩れた」

実は常に危険と隣り合わせの採掘作業。居ても立っても居られず集落へと走っていったウメが目にしたのは呆然とする銀堀の妻子の姿でした。彼女はたまらず、集落を後にします。

集落の外れに赤い格子の家屋があった。(中略)女はウメに気付くと、にいっと紅をひいた唇で笑った。

なまめかしい女は集落の騒ぎに無関心に見えました。
ウメはこの土地で暮らすどの女の生き方も好ましく思えませんでした。

「うちも間歩で働く」
「喜兵衛が死んでも、食うていけるようにじゃ」

ウメは男に頼らずに生きようと決心します。
しかし、銀堀は男の仕事。女が間歩に入るなんて前代未聞。そこで生き抜く術を身に付けたいと思ったウメ。しかし、彼女の行き先には壮絶な人生が待ち構えてたのです…

感想

『しろがねの葉』のタイトルにもなっているシダ植物は実在するのかと思い、調べたところ、どうやら今でも鉱山地付近に群生しているらしい。
通常、植物はカドミウムや鉛などが含まれた場所では成長しにくいのですが、このヘビノネゴザというシダ類は重金属を土壌から吸収する植物で、そのような場所に好んで生えるそうです。土壌汚染を判定する植物って聞くとちょっと怖いですね。

世界文化遺産の石見銀山は、「石見銀山ねずみ捕り」という言葉もあるように毒薬の代名詞にもなっていますが、実はこの銀山ではヒ素は産出されなかったそうで、ただ有名な地名にあやかっただけなのだとか。つまり、石見銀山の鉱夫の心身を蝕んだのは「毒」ではなく、「間歩」の暗闇というわけです。

この物語の肝となる「間歩」の描写がとにかく素晴らしい。「間歩」の底なしの暗さの描写が迫真で、まるでその場所の空気が運ばれてきているかのような禍々しさを感じられます。
同時に、それは「間歩」に関わるものの行く末を暗示しているような影として、ずっとつきまとってくるという効果も。

しかし、物語全体は暗い雰囲気にはならず、むしろウメの成長物語として読めるから面白い。
快活なウメの姿や、人間味溢れる銀堀やその家族との触れ合い、父親代わりの山師に思いを寄せてくれる幼馴染、「鎌倉の13人」に出てきた
善児のような必殺仕掛人。個性豊かな登場人物にウメがモテまくるシチュエーションは楽しく、彼らの関係がどういう風に展開されるのか先が気になって仕方がなくなるでしょう。

また、この物語のテーマのひとつに女性の生き方があげられます。
「愛する男が自分よりも先に死ぬと分かっている世界で、女たちはなぜ生きることができたのか。」そんな疑問を持ったことがこの物語を書くきっかけになったと著者の千早茜は言います。
生死観は時代と共に変化しますが、いつの時代も女は強し!そして、愛も、幸福な人生も、充実した生活も全て願うのは今も昔も変わらないのではないでしょうか。

著者にとって初の歴史小説となったこの『しろがねの葉』。じっくりと味わえる文章と、史実を混ぜながらもエンターテイメント性あるストーリーのバランスが私には丁度よく、とても満足度の高い作品でした。

著者:千早茜(チハヤアカネ)
1979年北海道生まれ。2008年『魚神』で第二十一回小説すばる新人賞を受賞し、作家デビュー。同作は09年に第三十七回泉鏡花文学賞を受賞した。13年『あとかた』で第二十回島清恋愛文学賞を、21年『透明な夜の香り』で第六回渡辺淳一文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データーベースより)
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