2024年7月・8月に読んだ本

読書日記月別
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2024年7月・8月に読んだ本をまとめました。
人気作家さん、話題の本を中心に読んでいます。

私の満足度・おススメ度でをつけています。

★★★★★ とても良かった!!人に薦めたい!これを読まないなんて、人生損している!

★★★★  とても良かった!充実した時間をありがとう。是非、読んでみてください!!

★★★   読んで良かった。面白かったです。読んで損はない!

★★    少し難しかったかな?あなたの意見を聞かせてください。

     う~ん、今の私には難解だった。また、再挑戦します。

あくまで私の基準です。本選びの参考になればうれしいです。

嘘の木 フランシス・ハーディング

★★★★★

イギリス出身の小説家フランシス・ハーディングのコスタ賞大賞受賞作品。

story:世紀の発見、翼ある人類の化石が捏造だとの噂が流れ、発見者である博物学者サンダリー一家は世間の目を逃れて島へ移住する。だがサンダリーが不審死を遂げ、殺人を疑った娘のフェイスは密かに真相を調べ始める。遺された手記。嘘を養分に育ち真実を見せる実をつける不思議な木。19世紀英国を舞台に、時代に反発し真実を追う少女を描く、コスタ賞大賞・児童書部門W受賞の傑作。(「BOOK」データベースより

舞台は、イギリスが隆盛を極めたヴィクトリア朝時代。ダーウィンの「種の起源」が出版されるなど、文化・経済のみならず、自然科学の分野でも飛躍的な発展を遂げつつある時代でした。少女フェイスも偉大な博物学者である父に畏敬の念を抱いており、自殺の汚名を着せられた父の名誉を挽回すべく、たった一人で犯人探しに乗り出します。

父の死の謎を中心に、秘密の木の正体、そしてフェイスの冒険と、ミステリーとファンタジーの面白さが見事に融合された壮大な物語児童文学賞を受賞した「嘘の木」は、大人が読んでも胸が熱くなる作品。子供の頃に読んでいたらどんなにワクワクさせられただろうと思うと同時に、歴史を知っているからこそ感じる深いテーマも。

進化論を覆す大発見、女性の自立。物語の裏に描かれている歴史的背景と人間模様は鋭く、著者のメッセージが伝わってきます。
全ての世代の人に。

ハーディング,フランシス(Hardinge,Frances)
英国ケント州生まれ。オックスフォード大学卒業後、2005年に発表したデビュー作Fly By Nightでブランフォード・ボウズ賞を受賞。2011年に発表したTwilight Robberyが、ガーディアン賞の最終候補に、また2012年の『ガラスの顔』が、カーネギー賞候補に、2014年の『カッコーの歌』は、英国幻想文学大賞を受賞し、カーネギー賞の最終候補になった。そして2015年、7作目にあたる『嘘の木』でコスタ賞(旧ウィットブレッド賞)の児童書部門、さらに同賞の全部門を通しての大賞に選ばれるという快挙を成し遂げ、米国のボストングローブ・ホーンブック賞も受賞、カーネギー賞の最終候補にもなった。2017年に刊行された『影を呑んだ少女』も同賞の最終候補作に選ばれた(「BOOK」データベースより)

吸血鬼と愉快な仲間たち 木原 音瀬

★★★★

BLのジャンルでは絶大な人気を誇る作家・木原音瀬のファンタジー小説。

story:昼間は蝙蝠、夜だけ人間。牙がないから血も吸えない。そんな中途半端な吸血鬼アルは、アメリカで孤独に暮らしていた。が、お腹を空かせて迷い込んだ食肉倉庫で、うっかり冷凍蝙蝠にされてしまう。目が覚めるとそこは…日本!?真っ裸で警察に捕まったアルは、謎の男・暁に(散々文句を言われつつも)助けられ、一緒に暮らすことになるけれどー。事件に恋に大忙し!半人前吸血鬼アルの奮闘記。(「BOOK」データベースより)

美しい青年たちの出会いと友情を描いた『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ1作目。
昼はコウモリの姿に変身する半人前の吸血鬼アル、死体の修復などを行うエンバーマーの暁、優しい刑事の忽滑谷。一癖も二癖もある彼らのやりとりがコミカルでほっこり。ついついページをめくってしまいます。

特殊な設定ながら違和感がなく楽しめ、キュートなキャラクターや彼らの関係性にキュンキュン、ハラハラ。ブロマンス的な萌えが詰まっています。後半は打って変わって猟奇殺人に巻き込まれるシリアスな展開に。

甘えん坊で頑張り屋、半人前吸血鬼アルを応援したくなる奮闘記。
乙女心をくすぐるエンターテイメント小説です。

木原音瀬(コノハラナリセ)
高知県生まれ。1995年「眠る兎」でデビュー。『箱の中』『美しいこと』をはじめとするボーイズラブ作品を多数発表(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データベースより)

真夜中のマリオネット 知念 実希人

★★★★

医師と作家、2つの顔を持つ人気作家・知念実希人のクライムサスペンス。

story:一晩かけて遺体をバラバラにする猟奇殺人鬼「真夜中の解体魔」に婚約者を殺された救急医の秋穂は、傷心のまま職場に復帰する。そこにバイク事故で重傷を負った美しい少年・涼介が搬送されるが、彼こそが「真夜中の解体魔」だと刑事から聞き、復讐を決意。対して、涼介は潤んだ目で冤罪を訴え…。果たして彼は無垢な天使か、残忍な悪魔か。ラスト1頁、必ず絶叫する!衝撃のクライムサスペンス。(「BOOK」データベースより)

殺人鬼の汚名を着せられたと主張する絶世の美少年・涼介。愛する婚約者の命を奪ったかも知れない涼介に憎しみの感情を持ちつつも惹かれていく主治医の秋穂。涼介に振り回される秋穂の姿、涼介の底知れない不気味さがホラー味を感じさせます

二転三転する犯人像に推理を巡らせる楽しさと彼らの行方が気になり、ページをめくる手が止まらない。エンタメ性抜群の大胆なストーリーで一気読みしてしまいました。読みやすく、普段本をあまり読まれない方にもおすすめです。

パズルのピースが一気に揃うラストに戦慄
イヤミス的なハラハラも楽しめる一冊です。

知念実希人(チネンミキト)
1978年、沖縄県生まれ。東京慈恵会医科大学卒業、日本内科学会認定医。2011年「レゾン・デートル」で第4回島田荘司選ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞。12年、同作を改題し、『誰がための刃』で作家デビュー。14年に始まる「天久鷹央」シリーズで人気を博す。15年『仮面病棟』が啓文堂文庫大賞を受賞し、ベストセラーに。『崩れる脳を抱きしめて』『ひとつむぎの手』『ムゲンのi(上・下)』で18年、19年、20年本屋大賞連続ノミネート。『硝子の塔の殺人』で22年本屋大賞ノミネート。『放課後ミステリクラブ1 金魚の泳ぐプール事件』で24年本屋大賞ノミネート。著書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データベースより)

猫だけがその恋を知っている(かもしれない)  櫻 いいよ

小説投稿サイトからのデビュー作『君が落とした青空』や、代表作『交換ウソ日記』が映画化。10代の学生を中心に人気を集めている著者・櫻いいよのちょっとほろ苦い恋愛小説。

story:お節介を焼くのは、暇だからだー海と山に囲まれたこの町で、今日も猫たちは人間の恋を見守っている。「オレと、つき合ってくれませんか!」「いや、無理です」憧れの年上女性に失恋した大学生の渉。「前に進むって、なんだと思う?」大切な恋人の“不在”にもがき続けている会社員の千咲。苦しくて、切なくて、でも時々うんと幸せで、諦められない。そんな大人たちの、痛くて優しい恋愛連作短編集。(「BOOK」データベースより)

じゃれたり、甘えたり、くつろいだり。猫ってどんな姿も可愛くて癒されますね。幸せそうな猫の姿を見ているだけで、平和を感じたり…。反対に猫か見ると人間はどのように映っているのでしょうか。

物語は、愛らしい猫が沢山暮らしている町の住人たちの恋模様。客の女性に片思いする大学生、アイドルに心を奪われ推し活をするおばあちゃん、愛する人の面影を引きずる女性など、一途な片思いから切ない愛まで様々な恋模様が描かれています。

どの恋愛にもキュンとくる言葉や、憧れのシチュエーションがあり、乙女心がくすぐられます。社会に対しての不満や不信感などの共感できるやもやと、運命の出会い。優しい物語は寄り添ってくれているようで、著者の人気もうのもうなずけます。

毎日が楽しくなる。世界の色が変わる。
恋をしたくなる一冊です。

櫻いいよ(サクライイヨ)
2012年『君が落とした青空』でデビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データベースより)

N 道尾 秀介

★★★★

斬新な仕掛けで本の概念を変える作家・道尾秀介の話題作。

story:「本書は6つの章で構成されていますが、読む順番は自由です。はじめに、それぞれの章の冒頭部分だけが書かれています。読みたいと思った章を選び、そのページに移動してください。物語のかたちは、6×5×4×3×2×1=720通り。読者の皆様に、自分だけの物語を体験していただければ幸いです。/著者より」未知の読書体験を約束する、前代未聞の一冊!この物語をつくるのは、あなたです。(「BOOK」データベースより)

『N』は読者の選択によって違った印象を受ける小説。各章の登場人物が交差する6つの物語はそれ自体のストーリーの面白さに加え、読む順番によって起こる事件や出来事への見方が異なり、読者それぞれに異なった読後感がもたらされます。

ある物語の主人公はまた、他人のストーリーにおいての脇役であったり、キーパーソンであったり。縁の良し悪しは、実生活の人間関係にも言えることで、誰もが自分だけのメガネを通してものを見ているのだと実感します。

一章ごとに文章が上下反転されて印刷されいる作りが面白く、気持ちを切り替えて読める効果も。
彼らの行く末はハッピーエンドか、それとも…新しい読書体験を楽しみたい方に。

道尾秀介(ミチオシュウスケ)
1975年東京都出身。2004年『背の眼』でホラーサスペンス大賞特別賞を受賞しデビュー。07年『シャドウ』で本格ミステリ大賞、09年『カラスの親指』で日本推理作家協会賞、10年『龍神の雨』で大藪春彦賞、『光媒の花』で山本周五郎賞、11月『月と蟹』で直木賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)((「BOOK」データーベースより)

飛ぶ教室 エーリヒ・ケストナー

★★★★★

児童文学のノーベル賞とも言われる「国際アンデルセン賞」受賞作家・ケストナーの代表作。今なお読み継がれる人気の古典的児童文学です。

story:まもなくクリスマス。街全体が温かな雰囲気に包まれるなか、寄宿学校の少年たちは、波瀾万丈のクリスマス劇「飛ぶ教室」の稽古に励む。ある日、マルティンに母親から手紙が届く。そこには、マルティンがクリスマスに帰省する旅費を工面できなかったと書かれていた……。たとえ運が悪くても、元気を出せ。打たれ強くあれーー温かなメッセージが込められた、少年たちの成長の物語。(出版社より)

『飛ぶ教室』はナチスが政権をとった年に発表されました。ケストナーの多くの作品も迫害の対象となりましたが、ナチス側が批判を考慮してブラックリストに入れなかった児童書もあったくらい人気のある作家でした。当時から世界的に有名な作家のこの作品は、時代を選ばない物語で、現在でも多くの人に親しまれています。

自身の弱さを悩んだり、正義を貫いたり、友情を育んだり。子供たちの日常を描いた物語は、大人から見ると子供らしいささやかな悩みや、よくあるケンカなど。過ごした子供時代を回顧し、懐かしみながら読みましたが、特に大きな事件も起こるわけでもなく、一生の思い出になる大冒険をするわけでもありません。にもかかわらずこの児童書が人気なのは、子供たちに対して真摯で対等な目線で語られているから。

人生に大切なのは、何を悲しんだかではなくて、どれほど深く悲しんだかということなのだ。
子供の涙が大人の涙よりも小さいなんてことはなく、しばしばずっと重いものだ。
ケストナーのこの言葉通り、子供時代に豊かな感情を育むことの貴重さが伝わってくるとともに、勇気が湧いてくる物語です。自分の頭で考えることの大切さ、物事の本質を見極める必要性など込められたメッセージも。

あの宮崎駿監督も子供の頃に親しみ、影響を受けた作品。
少年だった大人達へ。子供から大人まで楽しめる一冊です。

ケストナー,エーリヒ(K¨astner,Erich)
1899-1974。ドイツの詩人・小説家。ドレスデン生れ。1929年に発表した『エミールと探偵たち』で児童文学作家として知られるようになる。ファシズムへの批判、自由主義的な作風により、ナチスによって迫害を受け、’33年発表の『飛ぶ教室』を最後にドイツ国内での出版を禁じられ、著作の焚書処分を受ける。第二次世界大戦後は、西ドイツのペンクラブ会長を長く務めた。’60年、国際アンデルセン賞受賞
(「BOOK」データベースより)

塩狩峠 三浦 綾子

発行部数約300万部を超えるミリオンセラー、三浦綾子の代表作。実話を基にした作品で、新潮社が薦める夏の100冊の常連小説です。

story:結納のため札幌に向った鉄道職員永野信夫の乗った列車が、塩狩峠の頂上にさしかかった時、突然客車が離れ、暴走し始めた。声もなく恐怖に怯える乗客。信夫は飛びつくようにハンドブレーキに手をかけた…。明治末年、北海道旭川の塩狩峠で、自らの命を犠牲にして大勢の乗客の命を救った一青年の、愛と信仰に貫かれた生涯を描き、人間存在の意味を問う長編小説。(「BOOK」データベースより

明治末期の北海道で実際に起きた鉄道事故。多くの乗客の命を救った一人の男の愛と信仰の物語。
祖母から日本男児たるものの心構えや生き方を教えられた少年・永野信夫は、生き別れた母がキリシタンだと知り、戸惑います。何よりも信仰を第一に考える母親に対して不満を持つ信夫ですが…

あらすじにある鉄道事故で有名な『石狩峠』ですが、この場面は物語の最後の最後に描かれるクライマックスシーンです。話の中心はそこではなく、主人公・信夫の⾃⼰のアイデンティティを探し求め悩む姿と心の軌跡。
文明開化の影響を受けつつも、日本古来の風習も色濃く残っている時代。士族階級のプライドを持つ信夫がヤソと呼ばれるキリシタンに対する偏見から信仰を深めるまでの心の遍歴が生き生きと描かれ、説得力があります。信仰は困難な環境に立ち向かう入植者たちの開拓精神を支えてきたのではないでしょうか。

信夫の道徳心は決して押しつけがましくなく、心が洗われるような読後感
とても読みやすく、その時代の空気を感じられます。読んでおきたい一冊。

三浦綾子(ミウラアヤコ)
1922-1999。旭川生れ。17歳で小学校教員となったが、敗戦後に退職。間もなく肺結核と脊椎カリエスを併発して13年間の闘病生活。病床でキリスト教に目覚め、1952(昭和27)年受洗。’64年、朝日新聞の一千万円懸賞小説に『氷点』が入選、以後、旭川を拠点に作家活動。’98(平成10)年、旭川に三浦綾子記念文学館が開館(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データーベースより)

恍惚の人 有吉佐和子

★★★★★

日本の歴史や社会問題など幅広いテーマで数々のベストセラー作品を生み出した作家・有吉佐和子の大ベストセラー小説。映画やドラマなど度々メディア化されており、時代を超えて読み継がれている作品です。

story:文明の発達と医学の進歩がもたらした人口の高齢化は、やがて恐るべき老人国が出現することを予告している。老いて永生きすることは果して幸福か?日本の老人福祉政策はこれでよいのか?-老齢化するにつれて幼児退行現象をおこす人間の生命の不可思議を凝視し、誰もがいずれは直面しなければならない“老い”の問題に光を投げかける。空前の大ベストセラーとなった書下ろし長編。(「BOOK」データベースより

「恍惚の人」は認知症や、それに伴う家族介護をいち早く扱った文学作品。高齢化社会に突入した時代に出版されたこの小説は大きな社会的反響を呼び、「恍惚」は認知症的症状の意味としても使われるようになりました。

高度経済成長期を経て、延び続けた日本人の平均寿命と進む核家族化に、それまであまり公にされていなかった「痴呆」と呼ばれた「老い」の問題に苦しむ家庭が増えてきました。この物語の主人公である主婦の昭子が経験する認知症介護のリアルは、半世紀を経た現代でも通じる社会問題であり、私たちが棚上げしていた課題を目の前に突き付けられたように感じられます。しかし物語のユーモラスさにより、あまりネガティブにならず面白く没入でき、また問題意識を高められる。男性社会に対する不満や孤軍奮闘の理不尽さに憤り、わが身に迫る老いに焦る主人公に共感。読み進める内に「恍惚の人」となった茂造への見方が変わり、涙を誘います。

老人福祉行政の推進にも一役買ったロングセラー小説。
ぜひ、読んでおきたい。「老い」への認識が変わる一冊。

有吉佐和子(アリヨシサワコ)
1931-1984。和歌山生れ。東京女子大短大卒。’56(昭和31)年「地唄」が芥川賞候補となり文壇に登場。代表作に、紀州を舞台にした年代記「紀ノ川」「有田川」「日高川」の三部作、一外科医のために献身する嫁姑の葛藤を描く「華岡青洲の妻」(女流文学賞)、老年問題の先鞭をつけた「恍惚の人」、公害問題を取り上げて世評を博した「複合汚染」など。理知的な視点と旺盛な好奇心で多彩な小説世界を開花させた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データベースより)

海と毒薬 遠藤 周作

★★★★★

ノーベル文学賞候補にもなった遠藤周作の代表作。実際に起きた事件を題材にした小説。

story:戦争末期の恐るべき出来事??九州の大学付属病院における米軍捕虜の生体解剖事件を小説化、著者の念頭から絶えて離れることのない問い「日本人とはいかなる人間か」を追究する。解剖に参加した者は単なる異常者だったのか? どんな倫理的真空がこのような残虐行為に駆りたてたのか? 神なき日本人の“罪の意識”の不在の無気味さを描き、今なお背筋を凍らせる問題作。(出版社より)

アメリカ軍の捕虜を生きたまま解剖し、GHQにより厳しく裁かれた「九州大学生体解剖事件」。敗戦国の戦争犯罪人として、一般人が罪に問われた中でも特に注目を集めた事件です。生存を考慮しない臨床実験手術の残虐な行為に、関係者の倫理観が問われました。

物語は彼らがなぜ、どのようにしてこのような行為を行ったのか。問題の事件に関わった医師や看護婦の視点で描かれています。命の軽さと権威への絶対的な献身、敵国への激高心、罪悪感・責任感の失墜や無力感。戦争下の異常な心理状態に流されていく人々の虚無をまざまざと見せつけられ、憂鬱になります。著者は、道徳心を失うことの簡単さは誰にでも当てはまるのではないかと、日本人の危うさを表現しています。

深い人間心理に、今なお国内外問わず多くの読者を魅了している遠藤周作。この作品は日本文学史上最高傑作のひとつと言われています。日本人なら読んでおきたい一冊です。

遠藤周作(エンドウシュウサク)
1923年東京都生まれ。’48年慶應義塾大学文学部仏文科卒業。’50年カトリック留学生として、戦後日本人初めての渡仏、リヨン大に学ぶ。’55年『白い人』で第33回芥川賞受賞。’58年『海と毒薬』で新潮社文学賞・毎日出版文化賞、’66年『沈黙』で谷崎潤一郎賞、’80年『侍』で野間文芸賞、’94年『深い河』で毎日芸術賞を受賞。また狐狸庵山人の別号をもち、「ぐうたら」シリーズでユーモア作家としても一世を風靡する。’85年~’89年日本ペンクラブ会長。’95年文化勲章受章。’96年9月、73歳で逝去(「BOOK」データベースより)

蚤と爆弾 吉村 昭

★★★★★

記録文学の第一人者・吉村昭が描く731部隊の真実(『細菌』から改題)

story:北満州、ハルピン南方のその秘密の建物の内部では、おびただしい鼠や蚤が飼育され、ペスト菌やチフス菌、コレラ菌といった強烈な伝染病の細菌が培養されていた。俘虜を使い、人体実験もなされた大戦末期ー関東軍による細菌兵器開発の陰に匿された戦慄すべき事実と、その開発者の人間像を描く異色長篇小説。(「BOOK」データベースより

第二次世界大戦期の大日本帝国陸軍に存在した研究機関のひとつ731部隊。細菌兵器の開発を担っていたこの部隊の多くは未だ明らかになっていません。731部隊にまつわる非人道的な行為は日本史のタブーとも言われています。

物語は731部隊の創設者の心情を中心に、建物内部で行われた細菌兵器の開発と人体実験の様子が描かれています。「ほぼノンフィクションの意味合いが強い」と解説に書かれている通り、明らかになっている実在の人物やその心情なども全く同じで、綿密な取材に基づくリアルが映し出されています。

吉村昭の綿密な構成と淡々とした文章がより緊迫感を煽り、読ませる。
軍国主義日本の犯した罪と戦争の本質を知る一冊。

吉村昭(ヨシムラアキラ)
1927年、東京生まれ。学習院大学中退。66年「星への旅」で太宰治賞を受賞。同年「戦艦武蔵」で脚光を浴び、以降「零式戦闘機」「陸奥爆沈」「総員起シ」等を次々に発表。73年これら一連の作品の業績により菊池寛賞を受賞する。他に「ふぉん・しいほるとの娘」で吉川英治文学賞(79年)、「破獄」により読売文学賞、芸術選奨文部大臣賞(85年)、「冷い夏、熱い夏」で毎日芸術賞(85年)、さらに87年日本芸術院賞、94年には「天狗争乱」で大佛次郎賞をそれぞれ受賞。97年より日本芸術院会員。2006年7月31日永眠(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データベースより)

赤と青のガウン オックスフォード留学記 彬子 女王

★★★★★

大正天皇のひ孫であられるプリンセス彬子さまのエッセイ。

story:女性皇族として初の博士号取得。瑞々しい筆致で綴られた留学の日々。(「BOOK」データベースより

目次:百川学海/大信不約/苦学力行/日常坐臥/合縁奇縁/一期一会/千載一遇/危機一髪/多事多難/奇貨可居/五角六張/一念通天/日常茶飯/骨肉之親/前途多難/一以貫之/玉石混淆/古琴之友/傾蓋知己/忍之一字/当機立断/随類応同/七転八倒/進退両難/不撓不屈

私たち民間人にとって皇族の方々は雲の上の存在であり、その私生活について思いを巡らせる機会はあまりないのではないでしょうか。今話題の文庫本『赤と青のガウン』は、謎のベールに包まれた皇族の日常や、吃驚仰天の常識が垣間見える彬子女王のエッセイ。

家の鍵をかけたことがない。郵便局へ行った事がない。生まれて初めて一人になったのは海外。日本での生活や、海外留学のあれこれを綴ったエッセイは、まさにプリンセスらしいファンタスティックな日常と、突然社会の荒波に放り出された海外生活での落差が面白い。笑いを誘う数々のハプニングや失敗談、そしてプリンセスだと知った時の周りの反応。沢山の苦労があったと思いますが、それをまたとない経験として羨ましく思う程、人生に挑戦する楽しさがさが伝わってきました。

サクサクと読める文章の中に知性と品格を感じられる。プリンセス彬子に好感と憧れを抱きました。
いろんなひとに薦めたい、楽しく読めてエネルギーを貰える一冊。

彬子女王(アキコジョオウ)
1981年、寛仁親王殿下の第一女子として生まれる。学習院大学を卒業後、オックスフォード大学で在外の日本美術コレクションの調査・研究にあたり、女性皇族として初めて博士号を取得した。京都産業大学日本文化研究所特別教授、國學院大學特別招聘教授などを兼任。2012年、子どもたちに日本文化を伝える団体「心游舎」を創設し、全国で活動している(「BOOK」データベースより)

サンショウウオの四十九日 朝比奈 秋

★★★★★

医師と小説家、二足の草鞋を履く朝比奈秋の第171回芥川賞受賞作品。

story:同じ身体を生きる姉妹、その驚きに満ちた普通の人生を描く、芥川賞候補作。周りからは一人に見える。でも私のすぐ隣にいるのは別のわたし。不思議なことはなにもない。けれど姉妹は考える、隣のあなたは誰なのか? そして今これを考えているのは誰なのかーー三島賞受賞作『植物少女』の衝撃再び。最も注目される作家が医師としての経験と驚異の想像力で人生の普遍を描く、世界が初めて出会う物語。(出版社より

国の天然記念物に指定されているオオサンショウウオ。かつては食用だったこの両生類を『はんざき』と呼ぶ地域があるそうです。その由来は、半分に裂かれても生きているという言い伝えから来ているのだとか。

この物語の主人公・杏と瞬は、体は1つ、意識と人格は2つの結合双生児の姉妹。完全にくっついた体は周りからは一人に見えるため、どちらか一人の人格のみしか認識されなかったり、あえて一人の普通の人間として振る舞ったりすることもしばしば。ある日、陰陽図を目にした杏は、白と黒のサンショウウオがお互いを食べようと回っている絵のように見えて…。

心理的には個人であるが、身体的には個人ではない。では、何をもって個人というのか
まるきりSFとも言えない設定に、個人のアイデンティティや尊厳、幸福な人生とは何かについて考えさせられました。
アンコンシャス・バイアスを解き放つ一冊。

朝比奈秋(アサヒナアキ)
1981年京都府生まれ。医師として勤務しながら小説を執筆し、2021年、「塩の道」で第7回林芙美子文学賞を受賞しデビュー。2023年、『植物少女』で第36回三島由紀夫賞を受賞。同年、『あなたの燃える左手で』で第51回泉鏡花文学賞と第45回野間文芸新人賞を受賞。『サンショウウオの四十九日』で第171回芥川龍之介賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データベースより)

バリ山行 松永 K三蔵

★★★★★

第171回芥川賞受賞作品。著者名の「K」はミドルネーム。

story:古くなった建外装修繕を専門とする新田テック建装に、内装リフォーム会社から転職して2年。会社の付き合いを極力避けてきた波多は同僚に誘われるまま六甲山登山に参加する。その後、社内登山グループは正式な登山部となり、波多も親睦を図る目的の気楽な活動をするようになっていたが、職人気質で職場で変人扱いされ孤立しているベテラン社員妻鹿があえて登山路を外れる難易度の高い登山「バリ山行」をしていることを知ると……。(出版社より

登山において一般ルートとは異なり、登山道としてトレースされない道をバリエーションルートと言うそうです。難易度の高いルートをクリアした熟練者が、より自由に山を味わうため、登山の総合的な技術でもってディープな冒険を楽しむのだとか。
今では一般登山道とされている全56キロのトレイルコース「六甲縦走路」も、もともとは単独行のパイオニアである不世出の登山家・加藤文太郎が編み出したバリエーションルートでした。

街の喧騒から離れ、自然を満喫し、リフレッシュする。登山の魅力はそういったことにあるのではないでしょうか。主人公が最初に感じた登山の醍醐味も同じで、大パノラマの絶景や、仲間と共有する非日常に興味をそそられました。一転して「バリ山行」の描写は、登山というには過酷で狂気めいています。遭難時の死を感じる恐ろしさがありながらも、進んでいくうちに五感がどんどん研ぎ澄まされていくような不思議な感覚がありました。

「一体何が楽しくて…」の気持ちは主人公と同じですが、その人の「核」となるものが見えた気がします。自分らしさを見つける一冊。

松永K三蔵(マツナガケーサンゾウ)
1980年茨城県生まれ。関西学院大学文学部卒。日々六甲山麓を歩く。2021年「カメオ」で群像新人文学賞優秀作を受賞してデビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データベースより)

夏期限定トロピカルパフェ事件 米澤 穂信

★★★★★

直木賞作家・米澤穂信の人気ミステリー「小市民シリーズ」の2作目。2024年の夏季にテレビアニメ化されています。

story:小市民たるもの、日々を平穏に過ごす生活態度を獲得せんと希求し、それを妨げる事々に対しては断固として回避の立場を取るべし。賢しらに名探偵を気取るなどもってのほか。諦念と儀礼的無関心を心の中で育んで、そしていつか掴むんだ、あの小市民の星を!そんな高校二年生・小鳩君の、この夏の運命を左右するのは“小佐内スイーツセレクション・夏”!?待望のシリーズ第二弾。(「BOOK」データベースより

前作『春期限定いちごタルト事件』に続くこの『夏限定トロピカルパフェ事件』は、全6章からなる連作短編風の長編。章ごとのミステリーを楽しめる上、全編を通しても大きなミステリーが潜んでいる仕掛けに驚かされます。美味しそうなデザートが盛りだくさん。夏満載の甘くてちょっぴり苦いミステリー集。

「小市民シリーズ」の魅力は何と言っても個性的なキャラクターと知的なユーモア。ありきたりの会話や、他人の行動、果ては人間関係まで。普通なら見逃すどんな些細なことに対してもクスッと笑えるツッコミを入れ、ロジカルな理論を展開し、仰々しく、しかし小市民を語る。このセンスにツボり、次第にクセになってくる。理論武装した若者の狡猾さと純粋さが見え隠れし、このアンバランスさがキャラクターの魅力につながっているように思います。

勿論、ミステリ―ランキングにランクインした本格ミステリ―の面白さはお墨付き
夏にピッタリなミステリーです。

米澤穂信(ヨネザワホノブ)
1978年岐阜県生まれ。2001年、第5回角川学園小説大賞(ヤングミステリー&ホラー部門)奨励賞を『氷菓』で受賞しデビュー。11年『折れた竜骨』で第64回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)、14年『満願』で第27回山本周五郎賞を受賞。21年刊行の本作で第12回山田風太郎賞並びに第166回直木三十五賞、第22回本格ミステリ大賞を受賞。さらに主要年間ミステリランキングすべてで1位を獲得し、史上初の4冠を達成した(「BOOK」データベースより)

死んだ山田と教室 金子 玲介

★★★★★

2024年度、講談社の公募文学新人賞である「メフィスト賞」受賞作品。

story:夏休みが終わる直前、人気者の山田が死んだ。悲しみに沈むクラスに担任の花浦が席替えを提案すると教室のスピーカーから死んだ山田の声が聞こえた。山田はスピーカーに憑依してしまったらしい。“俺、二年E組が大好きなんで”。声だけになった山田と、二Eの仲間たちの不思議な日々がはじまる。第65回メフィスト賞受賞!!(「BOOK」データベースより

憧れの人、お世話になった人など自身にとって大切な人物を喪えば、誰もが喪失感に襲われます。一瞬でもいいから生き返って欲しいと思うこともあるでしょう。
死んだはずのクラスのムードメーカー・山田の声を聞いて、二年E組の生徒たちは喪失感から解放され、また、山田の存在の大きさに気付きました。山田の復活を心から喜ぶと共に、このクラスだけの秘密とします。より仲間意識を深めた彼らは、山田と共にこれまでと変わりなく楽しい学生生活を送るはずでしたが…

とにかく学生ノリの会話が面白く、思わず吹き出してしまう。久しぶりに小説を読みながら声を出して笑いました。キレのあるボケツッコミからこのクラスの和気藹々とした雰囲気と、山田の人柄が窺えます。また、二年のE組の個性的なキャラクターたちがリアルで、読者もこのクラスの一員になったつもりで楽しめる。

山田がスピーカーに憑依した謎や、山田の秘密が徐々に明らかになる意外な展開はミステリとしても面白く、繊細で残酷な思春期のノスタルジーと鈍い痛みを感じました。
学生から大人まで幅広い世代にお勧めの小説です。

金子玲介(カネコレイスケ)
1993年神奈川県生まれ。慶應義塾大学卒業。「死んだ山田と教室」で第65回メフィスト賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データベースより)
〈このブログ記事の参考資料〉
*ウイキペディア ほか
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