読書ブログ2022年10月11月に読んだ本

読書日記月別
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2022年10月・11月に読んだ本をまとめました。
基本、人気作家さん、話題の本を中心に読んでいます。

今回から私の満足度、おススメ度でをつけています。

★★★★★ とても良かった!!人に薦めたい!これを読まないなんて、人生損している!

★★★★  とても良かった!充実した時間をありがとう。是非、読んでみてください!!

★★★   読んで良かった。面白かったです。読んで損はない!

★★    少し難しかったかな?あなたの意見を聞かせてください。

     う~ん、今の私には難解だった。また、再挑戦します。

あくまで私の基準です。本選びの参考になればうれしいです。

ザリガニの鳴くところ ディーリア・オーエンズ

★★★★★

story:ノース・カロライナ州の湿地で男の死体が発見された。人々は「湿地の少女」に疑いの目を向ける。6歳で家族に見捨てられたときから、カイアは湿地の小屋でたったひとり生きなければならなかった。読み書きを教えてくれた少年テイトに恋心を抱くが、彼は大学進学のため彼女のもとを去ってゆく。以来、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれ蔑まれながらも、彼女は生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へと思いをはせて静かに暮らしていた。しかしあるとき、村の裕福な青年チェイスが彼女に近づく…みずみずしい自然に抱かれて生きる少女の成長と不審死事件が絡み合い、思いもよらぬ結末へと物語が動き出す。全米500万部突破、感動と驚愕のベストセラー。(「BOOK」データーベースより)

ディーリア・オーウェンズが10年かけて書き上げた作家としてのデビュー作品。全世界で1200万部を売り上げ、2022年11月に映画化されています。

ある不審死事件の真相を現代と過去の2つの視点で描いた物語。ジャンルはミステリーですが、壮大で美しい大自然や生物のリアルな生態が生き生きと描かれ、著者の動物学者としての経験が存分に活かされています。
一方で、これは湿地の少女・カイアの愛の物語でもあり、家族愛や恋愛と孤独が物語の中心となっています。

作品の舞台はノース・カロライナ州のディズマル湿地をのモデルとしていると言われ、黒人や白人の階級などの人種差別がまだ根強い時代。
いくつもの戦争の爪痕と民族差別などアメリカの影の歴史や息詰まるミステリー、そして切なく美しい人間愛。命の尊さと生命力を感じさせる感動のベストセラー小説。
ページをめくる手が止まらない面白さです。

オーエンズ,ディーリア(Owens,Delia)
ジョージア州出身の動物学者、小説家。ジョージア大学で動物学の学士号を、カリフォルニア大学デイヴィス校で動物行動学の博士号を取得。ボツワナのカラハリ砂漠でフィールドワークを行ない、その経験を記したノンフィクション『カラハリーアフリカ最後の野生に暮らす』(マーク・オーエンズとの共著、1984)(早川書房刊)が世界的ベストセラーとなる。同書は優れたネイチャーライティングに贈られるジョン・バロウズ賞を受賞している。また、研究論文は“ネイチャー”誌など多くの学術雑誌に掲載されている。現在はアイダホ州に住み、グリズリーやオオカミの保護、湿地の保全活動を行なっている。69歳で執筆した初めての小説である(「BOOK」データーベースより)
もう少し詳しい本の紹介、感想はコチラ読書ブログ『ザリガニの鳴くところ』ディーリア・オーエンズ

ライオンのおやつ 小川 糸

★★★★★

story:人生の最後に食べたいおやつは何ですかー若くして余命を告げられた主人公の雫は、瀬戸内の島のホスピスで残りの日々を過ごすことを決め、本当にしたかったことを考える。ホスピスでは、毎週日曜日、入居者がリクエストできる「おやつの時間」があるのだが、雫はなかなか選べずにいた。食べて、生きて、この世から旅立つ。すべての人にいつか訪れることをあたたかく描き出す、今が愛おしくなる物語。(「BOOK」データーベースより)

2020年本屋大賞2位、発行部数20万部超えのベストセラー小説。2021年にテレビドラマ化されました。

もし、物語のように「思い出のおやつ」を一つリクエストするならば、何を選ぶでしょうか。きっとそれは、人生の中でもとびきり甘い幸せな思い出と共にあるはずです。
現代人の2人に1人りは罹ると言う病気、癌になり余命宣告を受けた雫。自身の人生を振り返り、悩みながら答えを見つけていく姿が描かれています。

この物語のテーマは「死」であり、これをを主題にした小説は星の数ほどありますが、この物語は「死」が常に側にありながらも、生々しさや悲壮感はなく、生きることの尊さや素晴らしさが感じられます。幸せな人生とは?心に響く言葉や考えさせられる言葉が沢山ありました。

すべての人にいつか訪れることをあたたかく描き出す、毎日をもっと大切にしたくなる物語です。

小川糸(オガワイト)
1973年生まれ。『食堂かたつむり』でデビュー。以降数多くの作品が様々な国で出版されている。『食堂かたつむり』は、イタリアのバンカレッラ賞、フランスのウジェニー・ブラジエ賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです))(「BOOK」データーベースより)
もう少し詳しい本の紹介、感想はコチラ読書ブログ『ライオンのおやつ』小川糸

アーモンド ソンウォンピョン

★★★★★

story:扁桃体が人より小さく、怒りや恐怖を感じることができない十六歳の高校生、ユンジェ。そんな彼は、十五歳の誕生日に、目の前で祖母と母が通り魔に襲われたときも、ただ黙ってその光景を見つめているだけだった。母は、感情がわからない息子に「喜」「怒」「哀」「楽」「愛」「悪」「欲」を丸暗記されることで、なんとか“普通の子”に見えるようにと訓練してきた。だが、母は事件によって植物状態になり、ユンジェはひとりぼっちになってしまう。そんなとき現れたのが、もう一人の“怪物”、ゴニだった。激しい感情を持つその少年との出会いは、ユンジェの人生を大きく変えていくー。怪物と呼ばれた少年が愛によって変わるまで。(「BOOK」データーベースより)

韓流スターの応援もあり、韓国では100万部を突破した小説。日本でも2020年本屋大賞翻訳部門1位に選ばれ、18万部を突破。世界13か国で翻訳されています。

果たしてこの物語なのか悲劇かそれとも喜劇なのかー。生まれつき感情を持たないユンジェの半生を描いた物語。怪物と呼ばれるユンジェは感情の喜怒哀楽がなく、彼の目から見た世界はまるで何かを観察しているかのように一切の心情が表現されていません。その描写は無表情の表紙そのままで恐怖と同時に悲しさも感じられます。

「感情」がないユンジェは「共感」を得られないもう一人の怪物ゴニと出会います。著者のソンウォンピョンが「果たして私だったら愛することができるだろうか?」という自らの問いかけによってこの二人が生まれたのだそうです。運命の出会いは彼らにどのような結末をもたらすのでしょうか。

人間らしさとは何か。考えさせられる物語です。

ソンウォンピョン
1979年、ソウル生まれ。西江大学校で社会学と哲学を学ぶ。韓国映画アカデミー映画科で映画演出を専攻。2001年、第6回『シネ21』映画評論賞受賞。2006年、「瞬間を信じます」で第3回科学技術創作文芸のシナリオシノプシス部門を受賞。「人間的に情の通じない人間」、「あなたの意味」など多数の短編映画の脚本、演出を手掛ける。2016年、初の長編小説『アーモンド』で第10回チャンビ青少年文学賞を受賞して彗星のごとく登場(2017年刊行)、多くの読者から熱狂的な支持を受けた。2017年、長編小説『三十の反撃』で第5回済州4・3平和文学賞を受賞。現在、映画監督、シナリオ作家、小説家として、幅広く活躍している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データーベースより)
もう少し詳しい本の紹介、感想はコチラ読書ブログ『アーモンド』ソンウォンピョン

宙ごはん 町田 そのこ

★★★★★

story:大丈夫。わたしを頼って。きっと、この物語はあなたの人生を支えてくれる。2021年本屋大賞第1位『52ヘルツのクジラたち』『星を掬う』の先にたどり着いた救いと再生の物語。(「BOOK」データーベースより)

『52ヘルツのクジラたち』で本屋大賞を受賞した町田そのこの最新作。

日に日に肌寒くなってくるこの頃、この『宙ごはん』は、そんなこれからの季節にピッタリなお話。立ち上る湯気までもが見えてきそうなホカホカの料理や人を想う優しさに心の中からじんわりと暖かくなる物語です。

頭が良く、しっかりものの宙(そら)に次から次へと降りかかる災難。胸が張り裂けそうになる場面が多々待ち受けています。しかし、それに反して全体を包む雰囲気はとてもあたたかいのは、願いを込めて作られた料理とそれを食べる風景がとても優しく描かれているため。子供の頃に味わった愛情いっぱいの手作りの料理が思い起こされ、ほっとする暖かさが感じられます。食べながら心を解きほぐされていく様は、まさしく魔法の料理を体感している気持ちに。

宙の強い前向きな姿勢に勇気づけられ、時には自身を省みることも。
人に優しくなれる物語です。

町田そのこ(マチダソノコ)
1980年生まれ。2016年「カメルーンの青い魚」で第15回「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞。17年、同作を含む短編集『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』でデビュー。『52ヘルツのクジラたち』で2021年本屋大賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データーベースより)
もう少し詳しい本の紹介、感想はコチラ読書ブログ『宙ごはん』町田そのこ

自転しながら公転する 山本 文緒

★★★★★

story:母の看病のため実家に戻ってきた32歳の都(みやこ)。アウトレットモールのアパレルで契約社員として働きながら、寿司職人の貫一と付き合いはじめるが、彼との結婚は見えない。職場は頼りない店長、上司のセクハラと問題だらけ。母の具合は一進一退。正社員になるべき? 運命の人は他にいる? ぐるぐると思い悩む都がたどりついた答えはーー。揺れる心を優しく包み、あたたかな共感で満たす傑作長編。(出版社より)

直木賞作家・山本文緒の長編小説。この作品で第27回島清恋愛文学賞、第16回中央公論文芸賞を受賞しています。

この物語は、多くの女性の支持を集めました。主人公の都に起こる日常の出来事は、女性なら「わかる」「あるある、そんな事」と思わずつぶやいてしまいそうなことばかり。職場でのイザコザや、結婚や介護をほのめかす両親、肝心なことをはぐらかす恋人。そんなストーリーに共感し、まるで自分の事?と思ってしまう読者も。そして、何より女性の気持ちがとても的確に表現されています。

また、この物語は、都の母親・桃枝の視点も描かれています。若い女性と人生経験を積んだ女性、この2つの視点で同じ物事を違う風に受け取る描写があり、そのどちらにも理解できると多くの女性の共感を得ています。

共感し、ハラハラし、最後には優しい気持ちになれる、多くの人に読んで欲しい物語です。

山本文緒(ヤマモトフミオ)
神奈川県生れ。OL生活を経て作家デビュー。1999(平成11)年『恋愛中毒』で吉川英治文学新人賞、2001年『プラナリア』で直木賞、’21(令和3)年、『自転しながら公転する』で島清恋愛文学賞、中央公論文芸賞を受賞した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データーベースより)
もう少し詳しい本の紹介、感想はコチラ読書ブログ『自転しながら公転する』山本文緒

月の立つ林で 青山 美智子

★★★★

story:長年勤めた病院を辞めた元看護師、売れないながらも夢を諦めきれない芸人、娘や妻との関係の変化に寂しさを抱える二輪自動車整備士、親から離れて早く自立したいと願う女子高生、仕事が順調になるにつれ家族とのバランスに悩むアクセサリー作家。つまずいてばかりの日常の中、それぞれが耳にしたのはタケトリ・オキナという男性のポッドキャスト『ツキない話』だった。月に関する語りに心を寄せながら、彼ら自身も彼らの思いも満ち欠けを繰り返し、新しくてかけがえのない毎日を紡いでいくー。最後に仕掛けられた驚きの事実と読後に気づく見えない繋がりが胸を打つ心震える傑作小説。(「BOOK」データーベースより)

2年連続「本屋大賞」2位を受賞した青山美智子の連作短編集。月から不思議な力を貰える5つの物語です。

「竹林からお送りしております。タケトリ・ナオキです。かぐや姫は元気かな」
「ポッドキャスト」というインターネットラジオから聞こえるしっとりとした深みのある声。
「ツキない話」は「月」にまつわる不思議な話や雑学を聴くことが出来るのチャンネルです。

この物語は、そのチャンネルを毎日楽しみにしている5人の主人公たちの日常を描いています。
普通の日常を送っているように見える彼らですが、心の内は悩みや不安が渦巻いている。うまくいっているとは言い難い毎日を少しだけ癒してくれる「ツキない話」は彼らにとってオアシスのような時間。神秘的な月の物語は彼らに影響を与え、また彼らも誰かに影響を与えていくことに。

なんとなくうまくいかない毎日。でも、人の想いを知ったり、ちょっとしたきっかけがあれば違った景色に見える。読みやすく、自然と心が軽くなる優しい物語です。

青山美智子(アオヤマミチコ)
1970年生まれ、愛知県出身。大学卒業後、シドニーの日系新聞社で記者として勤務。2年間のオーストラリア生活ののち帰国、上京。出版社で雑誌編集者を経て執筆活動に入る。デビュー作『木曜日にはココアを』が第1回宮崎本大賞を受賞。『猫のお告げは樹の下で』が第13回天竜文学賞受賞。『お探し物は図書室まで』『赤と青とエスキース』で本屋大賞第2位に選ばれる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データーベースより)
もう少し詳しい本の紹介、感想はコチラ読書ブログ『月の立つ林で』青山美智子

機械仕掛けの太陽 知念 実希人

★★★★★

story:これは未知のウイルスとの戦いに巻き込まれ、“戦場”に身を投じた3人の物語ー大学病院の勤務医で、シングルマザーの椎名梓。同じ病院に勤務する20代の女性看護師・硲瑠璃子。引退間近の70代の町医者・長峰邦昭。あのとき医療の現場では何が起こっていたのか?自らも現役医師として現場に立ち続けたからこそ描き出せた圧巻の物語。(「BOOK」データーベースより)

作家と医師の2つの顔を持つ知念実希人の最新刊。
この2年間の記憶をまざまざと蘇らせる、医療関係者と未知の敵・新型コロナとの闘いの物語。

私達が実際に経験した未曾有の災禍。あの時、医療現場では何が起こっていたのか。
この物語は新型コロナのパンデミックによって実際に起こった情報の錯綜、人間の身勝手さや繋がりと同時に懸命に戦い続けた医療従事者たちのドラマが描かれています。
知っているようで知らないことが沢山あり、また、目を逸らしてはいけない真実も。

著者は「作家であると同時に、新型コロナ診療にかかわり、その現場を目の当たりにしてきた医師でもある私がその記録を小説という形で残すことは自らの義務と考え、筆をとりました。」と語っています。
あの時の不安や恐怖、体験した記憶が思い出される。 忘れてはいけないリアルな物語です。

※『機械仕掛けの太陽』の印税の一部は、新型コロナウイルスなどの感染症拡大防止への対応のため、日本赤十字社に寄付されます。
知念実希人(チネンミキト)
1978年、沖縄県生まれ。東京都在住。東京慈恵会医科大学卒。2011年、第四回島田荘司選ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を「レゾン・デートル」で受賞。12年、同作を改題、『誰がための刃』で作家デビュー(19年『レゾンデートル』として文庫化)。「天久鷹央」シリーズが人気を博し、15年『仮面病棟』が啓文堂書店文庫大賞を受賞、ベストセラーに。『崩れる脳を抱きしめて』『ひとつむぎの手』『ムゲンのi(上・下)』『硝子の塔の殺人』で、本屋大賞四度ノミネート(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データーベースより)
もう少し詳しい本の紹介、感想はコチラ読書ブログ『機械仕掛けの太陽』知念実希人

エゴイスト 高山 真

★★★★

story:「母が死んで、『死にたい』と思っていた僕の何かは死んだ」。14歳で母を亡くした浩輔は、同性愛者の本当の自分の姿を押し殺しながら過ごした思春期を経て、しがらみのない東京で開放感に満ちた日々を送っていた。30代半ばにさしかかったある日、癌に冒された母と暮らすパーソナルトレーナー、龍太と出会う。彼らとの満たされた日々に、失われた実母への想いを重ねる浩輔。しかし、そこには残酷な運命が…。龍太と母を救いたいという浩輔の思いは、彼らを傷つけ、追いつめていたのか?愛とは、自らを救うためのエゴだったのか?(「BOOK」データーベースより)

2020年に病気で他界したエッセイスト高山真(発売当初のペンネームは浅田マコト)の自伝的小説、著者の生い立ちや、愛する人たちとの出会いと別れをもとに描かれています。

浩輔はある日、龍太という男と出会い彼に惹かれる。龍太もまた浩輔に好意を抱き、二人は付き合い始めるが、龍太には浩輔に言えない秘密があった…

愛する人と一緒にいたいと思うことは罪なのかー。異性間同士では当たり前のこの感情、同性愛だとすんなりと受け入れられない場合も多く、罪悪感を抱えてしまう浩輔。彼の愛する人や家族に対する苦悩や不安に胸が苦しくなります。愛情表現が不器用な浩輔と龍太とのやりとりが初々しく、微笑ましいのですが、浩輔の伝わりにくい愛情表現にやきもきするかも
同性愛と家族愛を描いた切なく愛しい物語です。

この小説は2023年初春に鈴木亮平さん主演で、映画の公開が予定されています。そして、文庫版には鈴木亮平さんの特別寄稿を収録。天国への著者に向けて、「高山真様、あなたを探す旅を通して私は、すでにあなたを他人とは思えないほど敬愛している」と綴っています。
また、「セクシャリティの悩みの為自ら命を絶つという選択をする人がいなくなるよう願います」との言葉と共に、この映画への思い入れも語っています。

高山真(タカヤママコト)
東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる傍ら、エッセイストとして活躍。著書に『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』(小学館)、『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』(集英社)、『愛は毒か 毒が愛か』(講談社)など。2020年没。(出版社より)

愛してるって言えなくたって 五十嵐 貴久

★★★★

story:ビール販売会社の営業課長を務める門倉友広は、一瞬で頭が真っ白になった。新人の加瀬夏生のせいだ。会社では頼れる上司、家庭では良き父親として、順風満帆な日々を送っていたが、加瀬の出現をきっかけに、営業先で失態をさらしたり、日常業務も手につかなくなって…不惑目前、今まで抱いたことのない同性へのときめきに中年男が七転八倒する爆笑必至のラブコメディ!(「BOOK」データーベースより)

ベストセラー小説『リカ』でホラーサスペンス大賞を受賞した五十嵐貴久の恋愛小説。

女性が好む男性同士の愛の物語、いわゆるBL小説のジャンルに入らなくもない。しかし、この物語はどちらかと言うと、主人公門倉の片思いドタバタ紀、ラブコメディと言った方が正しいかも知れない。彼は新人の部下に対して湧き上がる感情を処理できずに困惑するが、目は彼を追ってしまう。若い男女の物語ならこれは初々しい恋のお話として微笑ましく読めますが、門倉は営業課長で40代のオッサンである。

大人のモラルも常識も知り尽くしているオッサンだからこそ、慌てふためくその姿と、頼れる上司の姿とは裏腹に子供じみた言い訳で恋心を満足させようとするあたりが、ちぐはぐで面白いのですが、その後姿を想像すると哀愁が漂います。その一方で、そういった常識や理屈では説明できないのが恋であり、彼のドキドキと共に素敵な恋心を応援したくなります。
男女の身体的特徴云々抜きの魂レベルで語るのなら、これは門倉の運命の恋。そして、この物語はBL王道の恋愛小説。

会社の上司と部下という関係のため、物語は会社や仕事の話が中心で、お仕事小説の要素もふんだんにある恋の物語。男性作家が描くリアリティのあるBL小説です。

五十嵐貴久(イガラシタカヒサ)
1961年、東京生まれ。成蹊大学卒業後、出版社勤務。2001年『リカ』で第二回ホラーサスペンス大賞を受賞し、デビュー。警察小説から恋愛小説、青春小説まで幅広くエンターテインメント小説を手掛け、「リカ」シリーズなど多くが映像化されている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データーベースより)

猫町 萩原 朔太郎

★★★★★

story:東京から北越の温泉に出かけた「私」は、ふとしたことから、「繁華な美しい町」に足を踏みいれる。すると、そこに突如人間の姿をした猫の大集団が…。詩集『青猫』の感覚と詩情をもって書かれたこの「猫町」(1935)をはじめ、幼想風の短篇、散文詩、随筆18篇を収録。前衛詩人としての朔太郎(1886-1942)の面目が遺憾なく発揮された小品集。(「BOOK」データベースより)

大正時代に近代詩の新しい地平を拓いたことから「日本近代詩の父」と呼ばれている詩人萩原朔太郎の三篇の短編小説、十三篇の散文詩、二篇の随筆からなる小品集。

「いつもの流行おくれの商品が、埃っぽくあくびをして並んでいる」萩原朔太郎の詩にある心つかまれる比喩表現が生きているこの『猫町』は奇譚、怪異譚とも言えるファンタスティックな物語。
薬物常習者である主人公が迷い込んだ世界は果たして幻想なのかそれとも真実なのか。この不思議な世界は戦争のさなかに全体主義と軍国主義にに突き進んでいく日本人の不気味さが投影されているという見方もあるようです。

散文詩では睡眠中に見た生々しい夢の他、生前の芥川とのやり取りや、妻の稲子との生活について書かれていて、虚無的な作品も多いが、前衛的で、苦悩する詩人としての朔太郎らしい生き方が表現されています。
散文詩も後の随筆の二篇も萩原朔太郎作品の中で、何らかの意味で短編小説に近い味わいをもつと感じられるものが選ばれています。

現代人の心にも響く、萩原朔太郎の数少ない小説が読める貴重な一冊。

萩原朔太郎(ハギワラサクタロウ)
1886(明治19)年11月1日群馬県前橋市生まれ。父は開業医。旧制前橋中学時代より『明星』に短歌が掲載される。1913年、北原白秋主宰の詩歌誌『朱樂』で詩壇デビュー。同誌の新進詩人・室生犀星と生涯にわたる親交を結ぶ。1917年第一詩集『月に吠える』を刊行し、日本近代詩の確立者となる。詩作のみならずアフォリズム、詩論、古典詩歌論、エッセイ、文明評論、小説など多方面で活躍。詩人批評家の先駆者となった。1942年5月11日没(「BOOK」データベースより)

方舟 夕木 春央

★★★★★

story:9人のうち、死んでもいいのは、–死ぬべきなのは誰か?
大学時代の友達と従兄と一緒に山奥の地下建築を訪れた柊一は、偶然出会った三人家族とともに地下建築の中で夜を越すことになった。
翌日の明け方、地震が発生し、扉が岩でふさがれた。さらに地盤に異変が起き、水が流入しはじめた。いずれ地下建築は水没する。
そんな矢先に殺人が起こった。
だれか一人を犠牲にすれば脱出できる。生贄には、その犯人がなるべきだ。–犯人以外の全員が、そう思った。
タイムリミットまでおよそ1週間。それまでに、僕らは殺人犯を見つけなければならない。

「もし、自分が助かるために誰かを犠牲にしなければいけないのなら、あなたはどうしますか?」この問いに何のためらいもなく答えられる人はいないでしょう。
「方舟」と名付けられた地下建築で繰り広げられる「愚かな人間を選別する」という展開は、まさに旧約聖書「ノアの方舟」さながら。人間の善悪が問われる恐怖とスリルのミステリーです。

不気味な閉鎖空間。すぐ隣にいるかもしれない殺人犯。着々と迫るタイムリミット。恐怖や焦りが入り混じる中、増えていく犠牲者。この極限状態状態に、読者は早くこの場所から抜け出したいと感じるではず。息もつかせぬ展開の面白さに、まるで読者自身がその空間にいるような錯覚を起こし、臨場感もたっぷり。また、本格ミステリーの謎解きもあり、ページをめくる手が止まらないでしょう。

デスゲームのような設定は、追い詰められた人間のある種の矛盾や、むき出しの本性が表現され、人間の持つ気持ち悪さが浮き彫りに。その人間模様や駆け引きも見どころのひとつです。
彼らは、どんな選択をするのか。そして、もしあなたなら?

夕木春央(ユウキハルオ)
2019年、「絞首商会の後継人」で第60回メフィスト賞を受賞。同年、改題した『絞首商會』でデビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データベースより)

栞と噓の季節 米澤 穂信

★★★★★

story:高校で図書委員をつとめる堀川次郎と松倉詩門。ふたりは図書室の返却本の中に、トリカブトの花の栞を見つける。校舎裏でトリカブトが栽培されているのも発見し、そしてついには被害者が…。「その栞は自分のものだ」と嘘をついて近づいてきた女子・瀬野とともに、ふたりは真相を追う。殺意の奥にある思いが心を揺さぶる、青春ミステリ長編。(「BOOK」データベースより)

直木賞作家・米澤穂信のミステリー小説『本と鍵の季節』の続編。二人の男子高校生が日常の謎を解き明かす。前作『本と鍵の季節』は連作短編ミステリーでしたが、この『栞と噓の季節』は長編ミステリーとなっています。

ごく普通の高校生・堀川次郎と、顔もスタイルも良いが皮肉屋の松倉詩門。このシリーズの特徴はまず、この二の男子高校生の人ウィットに富んだ会話の楽しさにあります。彼らは同じ図書委員というただそれだけのドライな関係ですが、思考と感性はとても良く似ていることから、二人の軽快で細かいジョークと、ドライな切り返しが展開され面白い。また、付かず離れずの距離感を保ちながらも、心の奥底ではお互いを尊重している関係にほっこりします。

返却本の中からトリカブトの栞が出てくるという設定も興味をそそられ、波乱の幕開けを予感させます。深まる謎に対して、相手の言動やちょっとしたしぐさから正解を導き出そうとする彼ら。言葉の妙、違和感から人間の深層心理を読み解く推理には舌を巻くかも。
嘘の気配がするー。その人のその言葉に嘘はないだろうか。幕はもうとっくに上がっている…。

学生から大人まで多くの人に読んで欲しい青春ミステリーです。

米澤穂信(ヨネザワホノブ)
1978年岐阜県生まれ。2001年『氷菓』で第五回角川学園小説大賞(ヤングミステリー&ホラー部門)奨励賞を受賞してデビュー。『氷菓』をはじめとする“古典部”シリーズはアニメ化、漫画化、実写映画化され、ベストセラーに。2011年『折れた竜骨』で第六四回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞。2014年『満願』で第二七回山本周五郎賞を受賞。2021年『黒牢城』で第一二回山田風太郎賞を受賞、さらに2022年同作で第一六六回直木賞、第二二回本格ミステリ大賞を受賞。『満願』と2015年刊行の『王とサーカス』はそれぞれ三つの年間ミステリランキングで一位に輝き、史上初の二年連続三冠を達成した。さらに『黒牢城』は史上初めて四つの年間ミステリランキングを制覇した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データベースより)

天上の花・蕁麻の家 萩原 葉子

★★★★

story:「天上の花」は、詩人・三好達治を、幼いころから三好にかわいがられていた著者ならではの目線で切り取ったもの。三好は前妻(佐藤春夫の姪)と別れ、朔太郎の妹・慶子と付き合うようになるが、きらびやかな生活を好む慶子と、貧しくても平和な暮らしを望む三好の愛の生活は、やがて破滅的な最後を迎えるー。第55回芥川賞候補作。「蕁麻の家」は母親が他の男のもとに走ったことが原因で、幼少期から祖父、叔母など家族みんなに疎まれ、頼みの父親からも避けられてしまう主人公の、まさに棘に囲まれているような生活を描いた秀作。第15回女流文学賞を受賞。(「BOOK」データベースより)

萩原朔太郎の長女・萩原葉子が詩人・三好達治との長年にわたる交流をもとに描いた描いた物語。『天上の花』は第55回芥川賞候補作。また、2022年12月に映画公開予定されています。

一本気で純朴な詩人・三好達治の素顔と、波乱に満ちた人生。
姿勢良く、がっちりとした骨太の体格で、言葉は大阪訛があって、何かにつけて”ハイ””ハイ”と、兵隊のように受け答える人だったー。萩原葉子の目から見た三好達治の姿や性格、交流と、葉子の叔母・慶子(本名はアイ)の証言などに基づいて描かれた達治と慶子の生活が描かれている。

萩原朔太郎を師と仰ぎ、敬い、時には論争を交わす。文壇でも認められていた三好達治は、家族から孤立している葉子を気にかけるなど思いやりもある人物でした。しかし、慶子への想いを募らせていくにつれて、また、彼女の心が離れていくに従って、一途な思いを執着と暴力に姿を変えていく偏執的な一面も。慶子と葉子への二種類の愛情と、孤高に生きた彼の姿が目に浮かびます。

実話か、フィクションか…詩人三好達治の生き様を知る一冊。
萩原葉子の幼少期を描いたとされる『蕁麻の家』も収載。

萩原葉子(ハギワラヨウコ)
1920年(大正9年)9月4日ー2005年(平成17年)7月1日、享年84。東京都出身。1959年『父・萩原朔太郎』(第8回日本エッセイスト・クラブ賞受賞)でデビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データベースより)

父・萩原朔太郎 萩原 葉子

★★★★

story:娘の目に映った“不世出の詩人”の真実。-父はお酒を飲むと、まるでたあいない子供になってしまう。そして酔ってくると、次第にお酒をびしゃびしゃお膳にこぼしはじめ、それにつれてお菜を、膝の上から畳の上一面にこぼすのだった。-室生犀星をして“不世出の詩人”と言わしめた萩原朔太郎。口語自由詩というスタイルを確立し、一躍時代の寵児となった朔太郎だが、その私生活は、風呂嫌いで、女物の下駄を平気でつっかけ、食事のときは前掛けをさせられていた、など驚くべきものだった。いちばん間近で朔太郎の真の姿を観察していた長女・葉子が、父はもちろん、愛人をつくって家を出た母やいつも辛く当たる祖母のこと、そして室生犀星、三好達治、北原白秋、佐藤惣之助ら作家たちとの交流を克明に描いた文壇デビュー作。(「BOOK」データベースより)

萩原朔太郎の日常の姿と思い出を描いた朔太郎の娘・萩原葉子のデビュー作。

どんな文豪も真の姿を知れば、少しはそのギャップに驚くのではないでしょうか。詩壇の重鎮というイメージからは想像もつかない萩原朔太郎の素顔が描かれています。
朔太郎と葉子や母・ケイとの日常や、酒好きでヘビースモーカーの朔太郎の習慣、クセ、趣味など。繊細でそそっかしい性格なために起きたハプニングやとんでもないエピソードも沢山。

その他、朔太郎と親しかった室生犀星や三好達治、恩師の北原白秋との交流や、付き合いのあった文豪について言及した事柄など葉子との会話の中に登場しています。
朔太郎は家族の中で孤立していた葉子にとって唯一の見方でしたが、お互い厭世的な性格から独特な親子関係を築いていました。しかし、そんな父を尊敬していた葉子の愛や朔太郎への追慕が伝わってきます。

萩原朔太郎の真の姿を知ることが出来る一冊です。

萩原葉子(ハギワラヨウコ)
1920年(大正9年)9月4日ー2005年(平成17年)7月1日、享年84。東京都出身。1959年『父・萩原朔太郎』(第8回日本エッセイスト・クラブ賞受賞)でデビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データベースより)
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