~「わたしは愛する男のために人生を誤りたい。」あまりにも切ない愛の物語~
こんにちは、くまりすです。今回は本屋大賞受賞作家凪良ゆうの恋愛小説『汝、星のごとく』をご紹介いたします。
story:
風光明媚な瀬戸内の島に育った高校生の暁海と、自由奔放な母の恋愛に振り回され島に転校してきた櫂。ともに心に孤独と欠落を抱えた二人は、惹かれ合い、すれ違い、そして成長していく。生きることの自由さと不自由さを描き続けてきた著者が紡ぐ、ひとつではない愛の物語。(「BOOK」データーベースより)
青埜櫂
瀬戸内の島に母親と越してきた青埜櫂。しかし、恋人を追いかけて移住し、健全な島にスナックを開いた母親とその息子に向ける島民の目は冷たい。
「はよ脱獄したいわ」
子供はある年齢に達するまでは、親によって生活環境ががらりと変わるもの。貧富の差によって将来へ選択肢が狭まったり、子供の頃に受けた心の傷がトラウマになることも数多くあります。
劣悪な家庭環境で育った櫂は、早熟で、諦観していて、現実的でした。
「親がちゃんと段取りしてくれるやつらより、俺らは不利やねや」
櫂は自身の置かれている状況をよく理解していました。そして、未来を切り開くには自分しか頼れるものがない事も。
男に依存する母親と奇異の目に晒される現実から逃れるため漫画のシナリオを書くことに没頭し、いつしかプロになる夢を持つようになった櫂。
そんなある日、同級生の井上暁海から彼女の父親が外に恋人を作っていることを聞かされます。
「きみのそれは優しさじゃない。弱さよ」
「いざってときは誰に罵られようが切り捨てる、もしくは誰に恨まれようが手に入れる。そういう覚悟がないと、人生はどんどん複雑になっていくわよ」
暁海の父親の恋人・瞳子さんと対峙した時、彼女の覚悟に強さと悲しさを感じた櫂。しかし、彼女の言葉は櫂の本質を見抜いたアドバイスでもありました。そして、それは櫂の波乱に満ちた人生を示唆していたのです…。
井上暁海
父親の不倫が島の噂になり、精神的な不調をきたした母親を気遣いながら暮らす暁海。彼女は村社会の排他的で、時代錯誤の島民と島の暮らしに嫌気がさしていました。
そんな時、同じような境遇と悩みを持つ櫂と出会い、心を通わせていきます。
「わたしたち、なにか悪いことしてるの?」
本当の心の痛みはどんなに想像してもその立場になった人しか分かりません。一人では抱えきれない荷物を一緒に持ってくれる人がいるだけでどれほど強くなれることか。
暁海は強く精神的に自立している櫂に触発されます。
高校卒業後、島を出て東京へ行きたいと両親に伝えますが、両親はあろうことか自分たちの都合で反対します。
そんな時、暁海の背中を押したのは意外にもに瞳子さんでした。彼女は未来を切り開くためには一歩を踏み出す勇気が必要だと語ります。
「誰かに遠慮して大事なことを諦めたら、あとで後悔するかもしれないわよ。そのとき、その誰かのせいにしてしまうかもしれない。でもわたしの経験からすると、誰のせいにしても納得できないし救われないの。誰もあなたの人生の責任を取ってくれない」
自分のために何を優先すべきか、何を捨てるべきか。世間一般でいう正しさと、自身が望む幸せな人生は必ずしも一緒ではない。
暁海は自分の未来に向かって一歩を踏み出す決心をしたその矢先、母親行方不明になり…。
感想
夕づつを見て きよく かがやかに たかく ただひとりに なんぢ 星のごとく
佐藤春夫の「夕づつを見て」はただ一人のひとを 気高く純粋なものとして、想い歌った詩だという。
暁海と櫂はまさにお互いが尊敬し合えるかけがえのない相手でした。恵まれなかった家庭環境が彼らを精神的に大人にし、人を見る目を養い、恋を成就させたのかもしれません。一方で、その家庭環境が彼らの関係に試練を与えたとも言えるでしょう。
残念ながら人は生まれ持って平等ではありません。
世間一般で言う所の「普通」より不利な環境で育った人にとって、幸せな未来は「普通」の人より困難な道のりになることが多く、自助努力ではどうにもならないところに置かれている場合もあります。
しかし、脆弱な社会保障制度は多くを助けられるわけもなく、じゃあどうすればいいのかというのがこの物語のひとつのテーマのような気がします。
著者の美しい言葉の数々と生々しさから、二人の儚い思いと苦しみが感じられ、彼らの幸せを願わずにはいられません。
幸せに生きるための考え方の一つとして暁海の父親の恋人・瞳子さんのセリフがあります。
「自分の人生を生きることを、他の誰かに許されたいの?」
自分の人生はあくまで自分のものである。そう聞こえる瞳子さんの覚悟の言葉が胸に響きます。
因みに、夕づつは宵の明星、金星のこと。
そして金星は愛の星と言われ、一番明るく見える惑星なんだとか。
愛を与え、与えられてこそ人生は明るく輝くのではないでしょうか。もちろん自分自身を愛することも忘れずに…。
2006年にBL作品にてデビューし、代表作に’21年に連続TVドラマ化された「美しい彼」シリーズなど多数。’17年非BL作品である『神さまのビオトープ』(講談社タイガ)を刊行し高い支持を得る。’20年『流浪の月』で本屋大賞を受賞。同作は’22年5月に実写映画が公開された(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データーベースより)
関連書籍
本屋大賞受賞作:凪良ゆう『流浪の月」👇
コチラも人気:凪良ゆう『わたしの美しい庭」👇
地元の人からは『屋上神社』とか『縁切りさん』と気安く呼ばれていて、断ち物の神さまが祀られている。悪癖、気鬱となる悪いご縁、すべてを断ち切ってくれるといい、“いろんなもの”が心に絡んでしまった人がやってくるがーー(出版社より)