かか 宇佐見 りん

宇佐見りん
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~「うーちゃんは一刻も早く旅に出る必要があったのです」文藝賞&三島由紀夫賞W受賞のデビュー作!~

こんにちは、くまりすです。今回は宇佐美りんの文藝賞&三島由紀夫賞W受賞のデビュー作「かか」をご紹介いたします。

story

19歳の浪人生うーちゃんは、大好きな母親=かかのことで切実に悩んでいる。かかは離婚を機に徐々に心を病み、酒を飲んでは暴れることを繰り返すようになった。鍵をかけたちいさなSNSの空間だけが、うーちゃんの心をなぐさめる。脆い母、身勝手な父、女性に生まれたこと、血縁で繋がる家族という単位…自分を縛るすべてが恨めしく、縛られる自分が何より歯がゆいうーちゃん。彼女はある無謀な祈りを抱え、熊野へと旅立つー。未開の感性が生み出す、勢いと魅力溢れる語り。痛切な愛と自立を描き切った、20歳のデビュー小説。第56回文藝賞受賞作。(「BOOK」データベースより)

女性

愛に飢えている主人公の「うーちゃん」。彼女は心を病んだ母親に対して、憎しみと愛おしさが入り混じった複雑な感情を抱いていた。自身を傷つける母親の痛みをまるで自分の事のように思ううーちゃんは、母親と自分を救うための「これしかない」方法を思いつき、熊野詣に出かけるが…。

かなり過酷な家庭環境に置かれているうーちゃん。思春期の彼女の悩みとは一体何でしょうか。

うーちゃんは体毛を剃るのが下手です。
これは女になる儀式のようだとうーちゃんはいつも思います。

近年、ジェンダーフリーが推進され、仕事や家事でも男女平等の社会を目指す仕組みが作られつつありますね。しかし、そこで解消されるのは社会的な性差であり、生物学的な性の役割はどうしようもありません。

年齢を重ねていくと、女性であることを意識させられる事柄が沢山あります。男性から吐き出される何気ない言葉や、視線。女だというだけで、なんだか貶められている気がするうーちゃん。
うーちゃんは、女は不利だと考えられる理由をいくつも想像します。それは、母親が狂ってしまった理由にもなっているのだと考えました。

ねえ、なんか、かか、やったかなあ、なんかわるいことしたんかなあ、とと選んじゃったの、かかが悪かったんかなあ

自身と苦しむ母親を救うため、母が得られなかった愛を与えるため、うーちゃんには逆に女性であるからこそ出来る起死回生の一手を実行することに決めるのです。

神とSNS

目的を達成するために熊野へと一人で旅立ったうーちゃんは、変化していく車窓の景色を見ながらそこに住んでいる人々を想像します。

「スーパーの売り場と駐車場をつなぐ階段の踊り場の椅子でひとふくろ百円六本入りのチョコチップスティックパンを隠れるようにして貪り食うおじさん」

「妻に先立たれた家で無音の囲碁番組を字幕で見る老人」

その中に何十年か先に生きる未来の母親を見てうーちゃんは不安を募らせます。
また、彼女は俗世を出たいと思う一方で、SNSのつながりを拠り所にしていました。

インターネットは思うより冷やこくないんです。(中略)現実よりもほんの少しだけ、ぬくいんです。(中略)ほんの少しだけぬくいと言ったのは、コンプレックスをかくして、言わなくていいことは言わずにすむかんです。

旅の途中でこみあげる不安や心の痛みをSNSを通じて和らげていたうーちゃん。しかし、SNSの世界もまた、生々しい人間関係があることを知り、ネットの世界に現実を持ち込み始めたのですが…。

感想

五感を震わす表現の数々。豊かな想像を文学的に、また大胆に書かれている文章は魔力すら感じる。
史上最年少の21歳で三島由紀夫賞、この後に書かれた『推し、燃ゆ』の芥川賞、世に出された2作品とも純文学の賞をとったのも伊達じゃないんですね。

疑似方言と造語の「語り」の部分は戸惑いはあったものの、昔ながらの自然の風景の中にSNSに依存している女の子がポンと入ってきている所が面白く、若者らしい感性がとても新鮮。触感や匂いまで感じる文章に驚愕しました。

この物語では若者が抱える日本の社会問題が浮き彫りになっています。
情報化社会により希薄になる人とのつながりや、増加するメンタルヘルスの問題。
若者の代表として、主人公うーちゃんの置かれている状況は、まさにその核心をつくもの。
最近ではそういった悩みや問題をテーマにした本がフィクション、ノンフィクション問わず数多く、人気があります。

今では当たり前になったネットや安価なサブスクリプション、家に居ながら買い物が出来る通信販売、最近ではファーストフードまで家に届けてくれるようになりました。一人でも十分楽しめる環境になり、人と接することで生まれる多幸感より煩わしさ方が優っているという人も多いと聞きます。

煩わしいけど、寂しい。未来への不安と、ままならない現実。そして、連日報道される戦争やコロナのニュース。
現実逃避?いや、現代人は現実以外の世界に救いを求めているのかも知れない。

著者:宇佐見 りん (ウサミ リン)
1999年生まれ。2019年、『かか』で文藝賞を受賞しデビュー。同作は史上最年少で三島由紀夫賞受賞。第二作『推し、燃ゆ』は21年1月、芥川賞を受賞。同作は現在、世界14か国/地域で翻訳が決定している。(河出書房新社サイトより)
熊野詣とは:
平安時代後期以降の浄土信仰の広がりのもと、熊野(和歌山県)全体が浄土の地であるとみなされるようになりました。生きながらに、死んで浄土に生まれ変わって成仏し、そして、再び現世に帰っていくという考えが熊野詣。
熊野詣は浄土往生の予行演習であり、何度も何度も予行演習を重ねることで、本番の際の浄土往生を確実なものにしようと願ったのです。(「み熊野net」より)
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