愛なき世界 三浦 しをん

三浦しをん
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愛なき世界の愛に溢れた話

こんにちは、くまりすです。今回は、直木賞や本屋大賞など多数の賞を受賞し、現在直木賞選考委員でもある三浦しをんの「愛なき世界」をご紹介いたします。

story

恋のライバルが人間だとは限らない! 洋食屋の青年・藤丸が慕うのは“植物”の研究に一途な大学院生・本村さん。殺し屋のごとき風貌の教授やイモを愛する老教授、サボテンを栽培しまくる「緑の手」をもつ同級生など、個性の強い大学の仲間たちがひしめき合い、植物と人間たちが豊かに交差するーー本村さんに恋をして、どんどん植物の世界に分け入る藤丸青年。小さな生きものたちの姿に、人間の心の不思議もあふれ出し……風変りな理系の人々とお料理男子が紡ぐ、美味しくて温かな青春小説。(出版社より)

恋の行方

T大学の近くにある洋食屋で、料理人見習い中の青年、藤丸が大学院生、本村さんに恋をした。本村さんに思いを寄せつつ、交流を重ねるうちに彼女の研究する植物の世界の魅力を知ってゆく…

思いやりがあって、恋に真っ直ぐな藤丸と、恋などしている暇もないほど植物の研究に夢中な本村さんのやり取りが初々しくて可愛い。
彼の恋のライバルが植物という不思議な関係だが、人間が物も言わぬ植物に負けるわけはないという考えが人間のおごりだったと思うくらい、彼女から見た植物の魅力が詳細に描かれていて愛おしくなる。

植物も動物も、野菜も人間もつぶつぶした細胞を必死に働かせて生きているという意味では、なにもちがいはないんだなと、なんだか愛おしいような気もした。

光っている無数の星は全て、本村に葉を摘まれる瞬間まで、成長しようと活動していた細胞の葛藤なのだ

この物語は、章によって藤丸と本村さんのそれぞれの視点に分かれて描かれているので、読者はやきもきするかも。本村さんの植物への想い。藤丸の本村さんへの想い。彼らと植物の三角関係は、しかし不思議と愛に溢れている。それは彼らが周りの人を愛し、また愛され、、夢中になれるものがあるからかも知れません。

本村さんの植物への想いはどれくらいだろうか?
藤丸の想いはそれを超えられるのだろうか?

この愛おしい世界の彼らの青春を応援したい気持ちになります。

植物と人間と料理

本村さんは植物の研究が中心の生活を送っている。
植物の研究をすることに喜びを感じ充実感を得ているため、年頃の女の子とは違い、化粧や服装に無頓着であったり、口にする話題は殆ど植物の研究の事ばかり。しかし、研究には手を抜かず地道な努力を重ねる。

本村と同じ研究室の仲間は藤丸に「『知りたい』という思いは、空腹に似ている。」と語る。藤丸は料理と研究の共通点を見つけ、次第に植物の世界の魅力を感じてゆく。

本村さんの気持ちに近づく藤丸に対し本村さんは、植物と人間を比べてこう感じる。

思考も感情もないはずの植物が、それがある人間よりも他者を受容し、飄々と生きているように見える

相変わらず植物に夢中な本村さんは、やがて博士論文を書くための研究に没頭し始めるのだが、それは苦難な道の始まりだった…

感想

秋に咲くヒガンバナや、春に咲く桜が毎年測ったようにその時に咲くことが不思議に思ったことがあります。特に近年は、年によってその時期の気温の寒暖差はかなりあるので、ヒガンバナが勘違いをして、冷夏の夏に咲いたり、桜が暖冬の冬に例年より早く咲いたりすることはないですものね。

理由を知れば、ああなるほどねと思いますが、そういう自然の摂理を知るためには、膨大なそして気の遠くなる研究を積み重ねてきた結果だということが良く描かれています。昔はその季節しか食べられなかった野菜を一年中食べられるようになった現代は、そういう研究の積み重ねなんだと思うと感謝の気持ちが生まれます。

人間と植物なんて比べられないと思いますが、抜いても抜いても生えてくる雑草の生命力には感心させられ、なんだか生きる勇気を貰ったりします。それが実は植物からのメッセージなんじゃないかなと思えてきました。

著者:三浦しをん(ミウラシオン)
1976年東京生まれ。2000年『格闘する者に○』(草思社)でデビュー。06年『まほろ駅前多田便利軒』(文藝春秋)で直木賞、12年『舟を編む』(光文社)で2012年本屋大賞、15年『あの家に暮らす四人の女』(中央公論新社)で織田作之助賞。19年には『ののはな通信』で島清恋愛文学賞、河合隼雄物語賞を受賞した。(「BOOK」データベースより)
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