2024年5月・6月に読んだ本をまとめました。
人気作家さん、話題の本を中心に読んでいます。
私の満足度・おススメ度で★をつけています。
★★★★★ とても良かった!!人に薦めたい!これを読まないなんて、人生損している!
★★★★ とても良かった!充実した時間をありがとう。是非、読んでみてください!!
★★★ 読んで良かった。面白かったです。読んで損はない!
★★ 少し難しかったかな?あなたの意見を聞かせてください。
★ う~ん、今の私には難解だった。また、再挑戦します。
あくまで私の基準です。本選びの参考になればうれしいです。
われは熊楠 岩井 圭也
★★★★★
第171回直木賞候補作品。いま注目の作家・岩井圭也初の歴史小説。
story:慶応3年、南方熊楠は和歌山に生まれた。人並外れた好奇心で少年は山野を駆け巡り、動植物や昆虫を採集。百科事典を抜き書きしては、その内容を諳んじる。洋の東西を問わずあらゆる学問に手を伸ばし、広大無辺の自然と万巻の書物を教師とした。希みは学問で身をたてること、そしてこの世の全てを知り尽くすこと。しかし、商人の父にその想いはなかなか届かない。父の反対をおしきってアメリカ、イギリスなど、海を渡り学問を続けるも、在野を貫く熊楠の研究はなかなか陽の目を見ることがないのだった。世に認められぬ苦悩と困窮、家族との軋轢、学者としての栄光と最愛の息子との別離…。かつてない熊楠像で綴る、エモーショナルな歴史小説。(「BOOK」データベースより)
「知の巨人」「知の妖怪」と称された天才・南方熊楠の生涯。
人並み外れた記憶力と18ヶ国語を話せる語学力を持ち、博物学、生物学、民俗学と多岐に渡る分野で功績を遺した熊楠。世界的な科学雑誌『Nature(ネイチャー)』に掲載された論文数は単著としては歴代最高記録を保持しており、まさに「日本人の可能性の極限」と称されるにふさわしい偉人として有名です。
しかし一方で、ひどい癇癪持ちであったり、気に入らない相手に向かってゲロを吐いたりと、破天荒なエピソードも数多くあり、天才にして奇人と言われているこの人物の全てが奇天烈で面白い。
物語を読んでいる内に熊楠の貧欲な探究心にひっぱられ、自然の神秘にワクワクしたり、学問の楽しさに気付かされたり。ちょっと引いてしまうような行動に唖然としつつ、そのギャップの魅力に一気読みでした。
エコロジーを最初に唱えた人物としても有名で、昭和天皇からは「雨にけふる神島を見て紀伊の国の生みし南方熊楠を思ふ」と、熊楠を偲ぶ和歌まで。
枠に収まらない熊楠の生き方。人生に影響を与えてくれる一冊となるかも。
1987年生まれ。大阪府出身。北海道大学大学院農学院修了。2018年『永遠についての証明』で野性時代フロンティア文学賞を受賞し、デビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データベースより)
デミアン ヘルマン・ヘッセ
★★★★★
ノーベル賞作家ヘッセの代表作。深い精神世界を描いた『デミアン』は敗戦直後のドイツの青年層に支持され、今なお世界中で親しまれています。
story:デミアンは、夢想的でありながら現実的な意志をいだき、輝く星のような霊気と秘めた生気とをもっている謎めいた青年像である。「人間の使命はおのれにもどることだ」という命題を展開したこの小説は、第1次大戦直後の精神の危機を脱したヘッセ(1877-1962)が、世界とおのれ自身の転換期にうちたてたみごとな記念碑ともいうべき作品である。(「BOOK」データベースより)
それまでのヘッセの作風とは大きく異なることから最初は偽名で出版された『デミアン』。多数の人に衝撃を与えた名作ですが、難解だったという感想も多い作品です。キリスト圏では、その教えや信仰心により宗教観から与えられた思想を信条としている人が多く、当時、それを否定する考えはなかなか受け入れられませんでした。ヘッセは、そんな西洋の文化に東洋の思想を取り入れて、己のための道、己の中から湧き出る思想を持つことの必要性をこの作品で問いかけたのです。
謎の青年デミアンに導かれ、どんどんと正しい道から外れていくように見える主人公。彼は自己探求の到達点でどのような景色を見るのか。主人公の感性を詩的と感じる人もいれば、思春期をこじらせたの青年と感じる人もいるかもしれませんが、とても興味深い作品に違いありません。信仰、哲学、戦争と様々なテーマに考えさせられる文学的な一冊です。
1877年ドイツ・バーデンヴュルテンベルク州カルフに生まれる。詩人、作家。1946年ノーベル文学賞受賞。代表作に『青春彷徨』『車輪の下』『デーミアン』などがある。1962年スイスにて没(「BOOK」データベースより)
ともぐい 河崎 秋子
★★★★★
2023年下半期・直木三十五賞受賞作品。
story:死に損ねて、かといって生き損ねて、ならば己は人間ではない。人間のなりをしながら、最早違う生き物だ。明治後期、人里離れた山中で犬を相棒にひとり狩猟をして生きていた熊爪は、ある日、血痕を辿った先で負傷した男を見つける。男は、冬眠していない熊「穴持たず」を追っていたと言うが…。人と獣の業と悲哀を織り交ぜた、理屈なき命の応酬の果てはー令和の熊文学の最高到達点!!(「BOOK」データベースより)
北海道の大自然の中、野生動物のごとく生きる猟師・熊爪。自然の摂理に組み込まれた生き物の宿命を生々しく見せつけられるこの物語は、私たちに生きることの意味を問いかけます。
鹿や熊を撃ち、皮を剥ぎ毛皮にする。肉を干して食べる。一人たくましく生きてきた熊爪は、人も動物も同じ生命の一個体に過ぎないと考え、相棒の猟犬にすら名前を付けません。温もりを知らないこの男は、村へ降りて人と顔を合わすのさえ億劫に感じるのです。穴持たずの射殺を依頼された際も食べる目的以外に殺すのは道理に反するとの考えから、相手を驚かせますが…。
熊爪の即物的なものの考え方は人間の思い上がりを際立たせる一方で、人としての幸福とは何かを考えさせられます。美しい山の自然、穴持たずとの死闘。グロテスクなシーンや暴力的な描写も容赦なく描かれ、命を頂いて生きていることの残酷な当たり前を目の前に突き付けます。
「お前の幸福というものは、何だろうね。あるいは、幸福というものを感じる能力が、お前にはあるのか、ないのか、どちらだろう」
普通の人とは違う価値観を持つ熊爪ですが、彼の生き様、そして結末に感じることは人それぞれ。この男に投げかけられた言葉に人間の業があるような気がしてなりません。
1979年北海道別海町生まれ。2012年「東陬遺事」で第46回北海道新聞文学賞(創作・評論部門)受賞。14年『颶風の王』で三浦綾子文学賞、同作で15年度JRA賞馬事文化賞、19年『肉弾』で第21回大藪春彦賞、20年『土に贖う』で第39回新田次郎文学賞を受賞。他書に『絞め殺しの樹』(直木賞候補作)などがある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データベースより)
死の貝 日本住血吸虫症との闘い 小林 照幸
★★★★★
著者の小林照幸は明治薬科大学非常勤講師の肩書も持つノンフィクション作家。「Wikipedia三大文学」の一つとも言われている「地方病(日本住血吸虫症)」も主にこの本を参考に書かれています。
story:腹に水がたまって妊婦のように膨らみ、やがて動けなくなって死に至るーー古来より日本各地で発生した「謎の病」。原因も治療法も分からず、その地に嫁ぐときは「棺桶を背負って行け」といわれるほどだった。この病を克服するため医師たちが立ち上がる。そして未知の寄生虫が原因ではないかと疑われ始め……。のちに「日本住血吸虫症」と呼ばれる病との闘いを記録した傑作ノンフィクション。(出版社より)
一度読み出したら止まらないウィキペディア文学として、ネット記事で読まれた方も多いかも知れません。興味をそそられる詳細な内容は、この傑作ノンフィクションの存在があればこそ。長らく絶版していましたが、この度加筆され待望の文庫化に。
その昔、ごく限られた地域にしか見られない奇病に医師たちは頭を悩ませていました。腹が大きく膨れ上がり多くが死に至る。これまでの病気のどれにも当てはまらない不治の病はその原因も、罹患した場所も全く不明。学者間で様々な仮説が成されるも意見は対立。動物実験では仮説とは真逆の結果になり、医師たちは戦慄する。医学の常識が通用しないこの病の正体は一体何なのか…。
ウィキペディアではこの病を説明的に書いているのに対し、『死の貝』は恐ろしい奇病が浮上し、病の正体が徐々に明らかになっていく過程が順を追って描かれ、スリリングで興味深い。医師や研究者の執念の末、突き止めた病の正体と驚くべき真実、謎を解き明かそうと奮闘する医師たちの姿などが詳細に描かれ、上質なドキュメントを見ているような面白さがあります。
世界で日本だけが克服した病のヒストリーは、偉業を成し遂げた先人たちの記録でもあります。
徹夜必死のノンフィクションです。
1968年、長野県生まれ。ノンフィクション作家。信州大学経済学部卒。明治薬科大学在学中の1992年、ハブの血清造りに心血を注いだ医学者を描いた『毒蛇』で第一回開高健賞奨励賞受賞。1999年、トキの保護に取り組んだ在野の人々を描いた『朱鷺の遺言』で第三〇回大宅壮一ノンフィクション賞を同賞史上最年少で受賞(当時)。明治薬科大学非常勤講師(「BOOK」データベースより)
八月の御所グラウンド 万城目 学
★★★★★
2023年下半期・直木三十五賞受賞作品。
story:女子全国高校駅伝ー都大路にピンチランナーとして挑む、絶望的に方向音痴な女子高校生。謎の草野球大会ー借金のカタに、早朝の御所Gでたまひで杯に参加する羽目になった大学生。京都で起きる、幻のような出会いが生んだドラマとはー人生の、愛しく、ほろ苦い味わいを綴る傑作2篇。(「BOOK」データベースより)
偶然にしては出来過ぎな事柄、虫の知らせ。常識では説明のつかない不思議な経験の一つや二つは誰にでもあるのではないでしょうか。首を傾げつつも何か特別な意味があるのではと、恐れたり感慨にふけったり。人によってはいつまでも忘れられない大切な思い出になることも。
物語は8月のお盆真っただ中での出来事。不幸にも予定が白紙になってしまった主人公・朽木は、野球チームの一員として駆り出されることに。様々な縁で結成されたチームは、順調に勝ち進むのですが…。
軽快に進むストーリーとサラッとしている文章は、省エネで生きている朽木を象徴しているかのようにストレスなくスラスラ読めてしまいます。あまり人と深く関わろうとしてこなかった朽木が、偶然の謎に心を動かされる青春&ミステリーは多くの人が共感し、人生の大切さを再認識させられるでしょう。
かけがえのない青春の一コマを描いた2編。心温まる不思議なお話です。
1976年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。2006年にボイルドエッグズ新人賞を受賞した『鴨川ホルモー』でデビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データーベースより)
ジェノサイド 高野 和明
★★★★★
文庫化後、半年で累計発行部数100万部を突破した高野和明の代表作。
山田風太郎賞、日本推理作家協会賞受賞、他「週刊文春ミステリーベスト10」「このミステリーがすごい!」などのミステリーの賞で1位に選ばれたベストセラー小説。
story(上巻):イラクで戦うアメリカ人傭兵と日本で薬学を専攻する大学院生。二人の運命が交錯する時、全世界を舞台にした大冒険の幕が開く。アメリカの情報機関が察知した人類絶滅の危機とは何か。一気読み必至の超弩級エンタメ!(出版社より)
story(下巻):研人に託された研究には、想像を絶する遠大な狙いが秘められていた。戦地からの脱出に転じたイエーガーを待ち受けるのは、人間という生き物が作り出した〈地獄〉だったーー。現代エンタテインメント小説の最高峰。(出版社より)
亡くなった父親から届いた謎めいた一通のメール。大学生の研人は父への不信感を募らせつつも、スパイ映画にあるようなメールの指示に従い、その真意を解き明かそうとします。一方、戦地で任務に就いていた傭兵イエーガーは破格の極秘任務に誘われますが、その内容は教えられないという奇妙なものでした。ホワイトハウスでは人類存続の危機を示唆する報告がNASAから大統領へ伝えられていて…
ミステリ―から壮大なSFの物語へ。エキサイティングな物語は、日本、アメリカ、アフリカと3つの国に跨って繰り広げられる人類の戦いを描いたサスペンスドラマ。タイトルにある最悪のシナリオを予感させるストーリーで、息つく暇もないアドレナリン全開のエンターテイメントの世界を味わえます。現実にありそうなリアリティと迫力。人類が犯した過ちのツケを払う時がやってきた。
フィクションか、それとも予言の書か。
ハラハラが止まらない、SF映画を観ているような面白さです。
1964年生まれ。映画監督・岡本喜八氏に師事し、映画・テレビの撮影スタッフを経て脚本家、小説家に。2001年『13階段』で江戸川乱歩賞を、2011年の『ジェノサイド』で山田風太郎賞と日本推理作家協会賞を受賞(「BOOK」データベースより)
六の宮の姫君 北村 薫
★★★★
早稲田大学元教授の肩書を持つ直木賞作家の人気シリーズ。
story:最終学年を迎えた〈私〉は、卒論のテーマ「芥川龍之介」を掘り下げていくかたわら、出版社で初めてのアルバイトを経験する。その縁あって、図らずも文壇の長老から芥川の謎めいた言葉を聞くことに。王朝物の短編「六の宮の姫君」に寄せられた言辞を巡って、円紫師匠の教えを乞いつつ、浩瀚な書物を旅する〈私〉なりの探偵行が始まった。(出版社より)
大学生である「私」が日常の謎を解く『円紫さん』シリーズの第四作目。この作品は、著者・北村薫が取り組んだ卒論をもとに作られたそうです。
芥川龍之介が自身の作品『六の宮の姫君』について語った一言の謎。主人公の「私」はその真意を解明しようと奮闘します。当時の芥川の交友関係や、やりとりした手紙の内容を検証し、真相に迫っていきますー。
作中には様々な文学作品が登場し、興味をそそられます。特に、芥川龍之介、菊池寛が好きな人にはたまらない内容。全集のみに掲載されているようなメジャーでない作品も紹介され、興味を惹かれます。盛んな交友関係がお互いの作品に影響を与えていた文豪たち。隠されたエピソードを知ることで、より深い作品世界を味わえるでしょう。
人気作家・米澤穂信がミステリー作家を目指すきっかけにもなった小説。
知的好奇心がくすぐられる一冊です。
1949年埼玉県生まれ。早稲田大学ではミステリクラブに所属。89年、「覆面作家」として『空飛ぶ馬』でデビュー。91年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞を受賞。小説に『ニッポン硬貨の謎』(本格ミステリ大賞評論・研究部門受賞)『鷺と雪』(直木三十五賞受賞)『水 本の小説』(泉鏡花文学賞受賞)などがある。読書家として知られ、評論やエッセイ、アンソロジー、創作や編集についての著書もある。2016年日本ミステリー文学大賞受賞((「BOOK」データーベースより)
永い言い訳 西川美和
★★★★★
映画の脚本家兼、映画監督とマルチな才能を持つ西川美和の同名映画の原作小説。山本周五郎賞受賞、直木賞候補、本屋大賞第4位作品。
story:人気作家の津村啓こと衣笠幸夫は、妻が旅先で不慮の事故に遭い、親友とともに亡くなったと知らせを受ける。悲劇の主人公を装うことしかできない幸夫は、妻の親友の夫・陽一に、子供たちの世話を申し出た。妻を亡くした男と、母を亡くした子供たち。その不思議な出会いから、「新しい家族」の物語が動きはじめる。(「BOOK」データベースより)
最悪のタイミングで家族を失ってしまったら?
大切な人との別れはいつか必ず訪れるもの。どのように見送ったとしても、もっとこうしてあげればよかったと悔いることもしばしば。それがもし、突然の別れであったなら。わだかまりが残ったままであったなら…。
この物語の主人公・幸夫は、事故で妻を失くした小説家。しかし、夫婦間はすっかり冷え切っていたためか涙を流す事はなく、心境に特段の変化は感じられませんでしたー。
自分の本当の姿を見つけた時、人はどのように感じ、どのような態度をとるのか。嫉妬や劣等感、虚勢、人間の愚かしさが生々しく描かれ、滑稽にすら映ります。しかし、そんな彼に共感したり、言い訳に同調してしまう部分があるのは、人生の哀愁を感じるからではないでしょうか。
愛する人の遺品を見て悲しむ家族に対し、それが妻のものなのかすらわからない幸夫。
人生に後悔はつきものというけれど…。多くの人に読んで欲しい家族小説です。
1974年広島県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。在学中から映画製作の現場に入り、是枝裕和監督などの作品にスタッフとして参加。2002年脚本・監督デビュー作『蛇イチゴ』で数々の賞を受賞し、06年『ゆれる』で毎日映画コンクール日本映画大賞など様々の国内映画賞を受賞。09年公開の長編第三作『ディア・ドクター』が日本アカデミー賞最優秀脚本賞、芸術選奨新人賞に選ばれ、国内外で絶賛される(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データーベースより)
逆ソクラテス 伊坂 幸太郎
★★★★★
ミステリ―賞常連の人気作家・伊坂幸太郎の短編集。柴田錬三郎賞受賞作品。
story:「敵は、先入観だよ」学力も運動もそこそこの小学6年生の僕は、転校生の安斎から、突然ある作戦を持ちかけられる。カンニングから始まったその計画は、クラスメイトや担任の先生を巻き込んで、予想外の結末を迎える。はたして逆転劇なるか!?表題作ほか、「スロウではない」「非オプティマス」など、世界をひっくり返す無上の全5編を収録。最高の読後感を約束する、第33回柴田錬三郎賞受賞作。(「BOOK」データベースより)
著者が作家20年の成果とする『逆ソクラテス』は、いずれも小学生が主人公の短編集。この中のいくつかは中学校の入試問題にも使われたそうです。
伊坂幸太郎と言えば、思わずつっこみたくなるようなユニークな会話や、ちょっとの毒を含んだ名言の数々。大人の遊び心をくすぐる表現と、至る所に仕掛けや伏線が散りばめられたストーリーで人気を博している作家。今回、縛りの多い子供目線の物語で苦労されたそうですが、伊坂らしさは健在。
子供たちの持っているであろう悩みや社会への疑問、様々なピンチを乗り越えるためのヒントがストレートに描かれ、思わず成程と手を打ちます。子供の頃秘めていたワクワク感を思い出させると共に、大人の狡さや不器用さがチクリと胸を刺します。子供に読ませたい物語として多くの人が推薦していますが、むしろ大人にこそ読んで欲しい物語だと感じました。
心に響くフレーズも。全ての人にお勧め、読後の爽快感が心地よい短編集です。
1971年千葉県生まれ。東北大学法学部卒業。2000年『オーデュボンの祈り』で第5回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞しデビュー。04年『アヒルの鴨とコインロッカー』で第25回吉川英治文学新人賞、短編「死神の精度」で第57回日本推理作家協会賞(短編部門)、08年『ゴールデンスランバー』で第5回本屋大賞・第21回山本周五郎賞、20年『逆ソクラテス』で第33回柴田錬三郎賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データベースより)
ポトスライムの舟 津村 記久子
★★★★★
様々な文学賞を受賞している実力派作家・津村記久子。芥川賞受賞作を含む短編集。
story:29歳、工場勤務のナガセは、食い扶持のために、「時間を金で売る」虚しさをやり過ごす日々。ある日、自分の年収と世界一周旅行の費用が同じ一六三万円で、一年分の勤務時間を「世界一周という行為にも換金できる」と気付くがー。ユーモラスで抑制された文章が胸に迫り、働くことを肯定したくなる芥川賞受賞作。(「BOOK」データベースより)
非正規雇用の増加や奨学金制度、女性の貧困は今、深刻な社会問題になっています。この物語の主人公・ナガセも月給手取り13万8千円の工場だけでは心許なく、夜のカフェと週末のパソコン講師のバイトを掛け持ちして多忙な毎日を送っています。そんなある日、ふと目に留まった「世界一周クルージング」のポスター。ナガセは、世界一周の旅費が彼女の年俸と同じということに気づき…
自立するには厳しい社会であり、生き方の選択により大きく差が出るのは女性の悩みですね。ふと立ち止まり、「自分の人生このままでいいのだろうか」などと考える瞬間は誰にでもあるはず。ナガセもこのポスターをきっかけに人生設計を見直すも、釈然としません。ナガセの思考から、真面目だけど不器用なところ、短絡的だけども大らかな性格など、彼女の人柄が読み取れ、等身大の女性の姿がリアル。友人のような親近感が湧きます。様々な事情を抱える女性達に対する感情もリアルで、共感したり、呆れたり、微笑ましく思ったり。女性ならではの悩みや不安が描かれています。
ナガセは自身の人生をどう捉えるのでしょうか。
人生に不安を感じている人へ。
1978年大阪市生まれ。2005年「マンイーター」(のちに『君は永遠にそいつらより若い』に改題)で太宰治賞を受賞してデビュー。08年『ミュージック・プレス・ユー!!』で野間文芸新人賞、09年「ポトスライムの舟」で芥川賞、11年『ワーカーズ・ダイジェスト』で織田作之助賞、13年「給水塔と亀」で川端康成文学賞、16年『この世にたやすい仕事はない』で芸術選奨新人賞、17年『浮遊霊ブラジル』で紫式部文学賞、19年『ディス・イズ・ザ・デイ』でサッカー本大賞、20年「給水塔と亀(The Water Tower and the Turtle)」(ポリー・バー卜ン訳)でPEN/ロバート・J・ダウ新人作家短編小説賞を受賞(「BOOK」データベースより)
おとぎのかけら 新釈西洋童話集 千早 茜
★★★★
直木賞作家・千早茜が描く現代版お伽話。デビュー2作目の作品です。
story:母親から育児放棄されかけている幼い兄と妹は、花火大会の夜にデパートでわざと迷子になる。公園で出会った女に連れて行かれたマンションで待っていたのは、甘いケーキと、そして…(迷子のきまり ヘンゼルとグレーテル)。「白雪姫」「シンデレラ」「みにくいアヒルの子」など誰もが知る西洋童話をモチーフに泉鏡花文学賞受賞作家が紡いだ、美しくも恐ろしい七編を収録した短編集。(「BOOK」データベースより)
誰もが知る西洋童話をアレンジした短編集。
子供の頃から怖くてドロドロした物語が好きで、大人になっても寄生虫や細菌の本をよく読むと語る千早茜。この『おとぎのかけら』はそんな著者らしいダークで美しい大人のための御伽話集。
人はどんな悪意を持っているのか、どんな欲望を隠し持っているのか。人の心のダークな部分に興味はあれど知るのはちょっと怖い。でも、踏み込んではいけないタブ―だからこそ、強く惹かれるものがあります。
日々の暮らしの中で培養されたおぞましい感情や、残酷な一面が露呈された登場人物たち。何よりも恐ろしい人間の本性を覗き見る恐怖とスリルと背徳感はたまりません。
もう、後戻りはできない。ぞくぞくしたい方にお勧めの一冊。
1979年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。小学生時代の大半をアフリカのザンビアで過ごす。2008年『魚神』(「魚」改題)で第21回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。09年同作で第37回泉鏡花文学賞受賞。13年『あとかた』で第20回島清恋愛文学賞、21年『透明な夜の香り』で第6回渡辺淳一文学賞、23年『しろがねの葉』で第168回直木賞受賞(「BOOK」データベースより)
凶笑面 蓮丈那智フィールドファイルI 北森 鴻
触身仏 蓮丈那智フィールドファイルⅡ 北森 鴻
★★★★★
story:フィールドワークで災難や殺人事件に遭遇する民俗学者が存在するのか?蓮丈那智の助手・内藤三國は、毎度の無理難題、考察に翻弄され疲弊する日々。東北地方の山奥に佇む石仏の真の目的。死と破壊の神が変貌を繰り返すに至る理由。海幸彦・山幸彦の伝説と死者の胃の中の曲玉の関係。即身仏がなぜ塞の神として祀られたのかを巡る謎。孤高の民俗学者が奇妙な事件に挑む5篇を収録。連作短篇の名手が放つ本格民俗学ミステリ!(「BOOK」データベースより)
北森鴻の代表作「蓮丈那智フィールドファイル」シリーズがこの春、待望の復刊となりました。怪奇な伝承や風俗などを扱った民俗学と殺人事件の組み合わせはミステリーの人気ジャンルの一つ。閉鎖的な田舎で起こる少しホラーな事件の謎を本格的な民俗学の知識で紐解いていきます。
奇妙な祭祀「鬼封会」、怨念こもる禍々しいお面「凶笑面」、自らの体を捧げて仏となる即身仏「触身仏」。依頼された民族調査に着手するも殺人事件が起こり、頓挫してしまいます。調査を続行するためには事件の謎を解く必要がー。
民俗学の謎と、殺人事件の謎。2種類の謎解きが楽しめるこの物語は、探偵役の天才民俗学者・蓮丈那智とちょっと気の弱い助手・内藤三國のコミカルなやりとりを楽しみながら民俗学の世界を味わうことができる探偵ミステリーです。
ミステリ―を楽しみながら民俗学も学べる一冊。
北森鴻(キタモリコウ)
1961年山口県生まれ。95年に『狂乱廿四孝』で第6回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。99年短編連作『花の下にて春死なむ』で第52回日本推理作家協会賞(短編および連作短編集部門)を受賞。2010年1月逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(「BOOK」データーベースより)